悠々と音と触れ合う夜。
もう何度目の来日になるだろうか。親日家で知られるフランク・マッコムの来日公演@コットンクラブ。2ndショウ。
この3月2日に新作『ア・ニュー・ビギニング』をリリース。バックショット・ルフォンクで共演したブランフォード・マルサリスをフィーチャーした「アンド・ナウ・アイム・ファイティング」を含む、全曲書き下ろしの聴けば聴くほど味わいを増す“するめ”的な作品となっている。
その新作『ア・ニュー・ビギニング』から(アルバムではトランペットのラッセル・ガンを“スペシャル・ゲスト”として招いた)「インスパイア・ア・ライフ」を披露してステージは開幕した。
左にパーカッションのティンバリ・コーンウェル、中央前方のフランクを挟んで、ベースのアンソニー・クロフォード、右端にドラムのロバート・ミラーの布陣。
ティンバリは終始楽しげな顔でさまざまな小道具的楽器やパーカッションを駆使して場を和やかにさせる。アンコールまでの間には、一人ステージに上がり、シェケレ(瓢箪・壷状の形をしたものにビーズなどで作られた網を張り巡らせたアフリカの打楽器)のような楽器を使いながら、コミカルにリズムを刻み、観客を乗せていく。時に楽器を回転させたり、足の下で鳴らしたりと遊びを入れて盛り上げる。徐々にリズムをスピードアップさせながら、楽器を宙で回していると、スピードに乗りすぎて楽器を落としたりもしたが、それはご愛嬌。本演奏では、フランクが先導する音空間を、木々のざわめきや動物のさえずりを表現したプリミティヴなアクセントでサポート。ともに魅惑的な世界観を創造していた。
ベースのアンソニーは温厚な顔立ちで終始優しい眼差しで見守るも、ソロ・パートではジャジーからファットなファンキー・ベース風までを細かく入れ込んだ演奏テクニックを披露。フランクに「どれだけやるんだよ」と言わせるようなスキルをみせていた。
ドラムのロバート・ミラーは顔立ちから見るに若手か。丹念にビートを刻むが、一度ギアを上げると瞬く間に昂揚するビートを刻み始める。高速なバチ捌きも直情的で熱い。こちらも観客から大きな拍手、歓声を受けていた。
さて、フランク。やはり、ジャズの素養が強く、ヴォーカル・パート以上にインスト・パートが長い。だが、それはキーボードで奏でるヴォーカルといったもので、非常に温かく生命を感じる演奏だ。見慣れた光景ではあるが、微妙なチューニングをしながらのキーボード演奏は、音へのこだわりが人一倍強いことの現われだろう。常に楽器と会話をしながら歌い、爪弾いている気がするのだ。
よくダニー・ハサウェイやスティーヴィー・ワンダーと称されるヴォーカルだが、ここ数年で成熟さを増して(腹が膨らんだから(登場時に「食べすぎ~」という客の声に、自身の腹と会話する楽しいMCも披露していた)ふくよかになった訳ではないだろうが…笑)きたように思う。それは、ダニーやスティーヴィーの面影が一切消えたということはないが、明らかにフランクの声として伝わるものだ。やや掠れがかったハイトーンとジュワーッと伝わる低音のバランスの妙がたまらない。キーボード演奏はもちろんなのだが、彼のヴォーカルはもっとフィーチャーされてもいいと思う(これは毎回言っている気がするが……苦笑)。とはいえ、インスト・パートが退屈といった風は微塵もなく、演奏時間はおそらく1曲で15分くらいと思われるものもあったりするのだが、長く感じたりすることはない。むしろ、フランクが織りなす魅惑の爪弾きとそれをサポートするバンドとのセッションには、観客の体内にリズムを萌芽させる魔法のような力が備わっているようだ。
彼らのアドリブ・プレイは、見事なまでの音でのキャッチボールだ。フランクとバンド・メンバーもそれぞれ掛け合いをしながら会話し、さらに観客とも対話する。非常な高度なテクニックであるが、それを小難しくみせない。というよりも、知らずに観客の目や耳や五感を惹き付ける魔力を操る魔術師なのかもしれない。うっとりとした円熟味あふれる音のベールで、心地良い空間を創出していく。
非常に温厚かつひょうきんな一面を持ったフランク。その人の良さと音へのこだわりとのギャップも、こちらを驚かせ、好奇心を煽る一因なのかもしれない。プリンスがよくフランクを自宅に招き入れて演奏させるというのも解かる気がした、ファンタジックな夜空間だった。
◇◇◇
<SET LIST>
01 Inspire A Life
02 Shine
03 Future Love
04 Cupid's Arrow
05 Drum&Bass Solo
06
07 Superstition(Original by Stevie Wonder)
≪ENCORE≫
08 Do You Remember Love
<MEMBER>
Frank McComb(vo,p,key)
Anthony Crawford(b)
Timbali Cornwell(per)
Robert Miller(ds)
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