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Namie Amuro『PAST<FUTURE』

■ 安室奈美恵『Past<Future』

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 ロンドンブーツ1号2号の田村淳との熱愛報道などがあるなか(どうでもいい)、遅まきながら昨年12月中旬にリリースされた安室奈美恵の新作『PAST<FUTURE』(パスト・フューチャー)のレビューでも。
 
◇◇◇
 
 オリジナルとしては前作『PLAY』より約2年半ぶり(その間にベスト・アルバム『BEST FICTION』を発表)となる9作目。エアブラシ加工を施した『BEST FICTION』のジャケット写真を引き裂くというジャケットも話題に。「全てを空にして新しいスタートをきりたい」という意図からというが、“BEST FICTION”ツアーのラスト映像での少女が語った「これで夢の世界(=フィクション)の話はおしまい」という観客を最大のフィクションに陥れた後のストーリー、過去を打ち破るというコンセプトは、『PLAY』制作以降ほどなく、ある程度出来上がっていたのかもしれない。

 12曲中、シングルは「WILD」「Dr.」のみ。前作『PLAY』から引き続きT.Kura(&michico)とNao'ymtがプロデュースの中心だが、今回はそれぞれ3曲ずつのみで、オープナー「FAST CAR」、DOUBLEが作詞した「LOVE GAME」、「Bad Habit」が海外制作組。
 ファットなホーンと弾むようなパーカッションをメインにあしらった「FAST CAR」はDSign Music、ロニー・スヴェンセン(Ronny Svendsen)、ネルミン・ハランバシック(Nermin Harambasic)、アニー・ジュディス・ウィック(Anne Judith Wik)、ロビン・ジェンセン(Robin Jenssen)からなるトラック制作集団のプロデュース。
 恋愛をボクシングになぞらえたDOUBLEのリリックと先鋭的なビートが絡むクールなアップ「LOVE GAME」は、SA Track Worksのアンソニー・アンダーソン(Anthony Anderson)とスティーヴ・スミス(Steve Smith)の2人が制作。この2人はステイシー・オリコや倖田來未、東方神起らをプロデュースしている。
 分厚いボトムと“ハッハハハッ”“ドゥウィドゥー”らのバックコーラスやエフェクト・ヴォイスが特色の「Bad Habit」はRandom Musicのウーゴ・リラ(Hugo Lira)、トーマス・グスタフソン(Thomas Gustafsson)らの手によるものだ。 

 それ以外では、「WANT ME, WANT ME」を思わせるバングラ・ビートがアクセントになっている「Steal my Night」はJeff Miyahara(Spontania feat. JUJU「君のすべてに」、JUJU with JAY'ED「明日がくるなら」など)が、ミディアム・ラヴ・ソング「MY LOVE」はHIRO(Digz, inc.所属、倖田來未、ICONIQ「Change Myself」など)が、バラードの「The Meaning Of Us」はU-key zone(青山テルマ「忘れないよ」、黒木メイサなど)が制作担当している。
 
 新しいスタートを切りたい……ということから、どんな大胆なチャレンジがあるのだろうと思ったが、ふたを開けてみると、『PLAY』の流れをさらに近未来的な感性で発展させたというのが相応しいかもしれない。チャレンジという意味では、60年代、70年代、80年代の名曲をサンプリングし00年代の安室的な新解釈とした「NEW LOOK」「ROCK STEADY」「WHAT A FEELING」などの方がその精神性は高いと思われるが、アルバム収録曲ではフィーチャリングが多くはない彼女としては、DOBERMAN INCを迎えた「FIRST TIMER」などは新たな境地から生まれた作品という位置づけになるのだろう。

 その「FIRST TIMER」や、『007』の「ジェイムス・ボンド・テーマ」(James Bond Theme)を想起させるフレーズと中毒性の高い“COPY, COPY THAT!”のコーラスが白眉の社内恋愛曲(?)「COPY THAT」、少子化をテーマにしたセクシーなクラブ・チューン「WILD」を制作したT.Kura(&michico夫妻)。フューチャリスティックな恋愛ソング「Dr.」、“つまらない争いに巻き込まないで”とメディアへの啖呵と裏読みも出来る「Shut Up」、暗雲立ち込めたダークな雰囲気から幕を開ける、パーソナルな愛から普遍的な愛への強い主張へと発展した「Dr.」の続編曲「Defend Love」を制作したNao'ymt。その2組の楽曲群と安室の相性は、やはり抜群だということだ。T.Kura(&michico)の派手やかというか、ガチャガチャとしたお遊びが採り入れられたハッピーなアティテュードや、Nao'ymtの人間的、女性的な強さをクールに演出するスタンスは、もはや安室奈美恵の楽曲になくてはならないものとなっている。
 そして、「MY LOVE」「The Meaning Of Us」とミディアム~スローの楽曲が含まれてはいるものの、それ以外はどれもアグレッシヴな意識が感じられる楽曲群で、収録時間が50分に満たず一気に聴かせるように作られているのもいい。全てにおいてそうとはいわないが、収録時間が長いアルバムは、中だるみを生んだり、佳曲とそうでない曲との差が見えてしまう可能性も低くはない。これは制作側もそうだし、リスナーの感触もそうなる。集中力の問題ということもあろうが、やはり一度にズバッと聴かせてくれるアルバムは好印象が強く、再度聴く感情が芽生えるのだと思う。個人的な例ではあるが、最近良かったと思ったアルバム、メアリー・J.ブライジしかり、アンジー・ストーンしかり、エイメリーしかり……。そしてオールドスクール、アナログ時代のアルバムはおおよそ40~50分あたりだ。この時間でキッチリと質の高い楽曲群が凝縮されたものの、その濃度はこの上なく高い(もちろん、その収録時間ならば良作が多いという訳ではない)。

 サウンド的には海外組などを採用し、『PLAY』路線の進化系としての集大成=2010年代の新たなる安室奈美恵としての楽曲構築の端緒といえる内容だと思う。その路線の継承は間違っていないと思うし、個人的には賛成だ。ただ、以前と異なるのは、その精神性にあるのではないか、と感じた。「Baby, Don't Cry」のような女性が共感する世界観の「The Meaning Of Us」など従来のラヴ・ストーリーものは彼女の人気を支える一つの要素であるが、そういった日常的な恋愛模様だけではなく、「Defend Love」といったような普遍的な、未来を得るために現在へ訴求するような精神性を大きくフィーチャーしていくのではないか、と。さまざまな身近な恋愛を描きながら、未来を生きる我々はいかにコミュニケートするべきか、といった大きな命題を掲げていくのではないか、と。「Defend Love」は12曲中のたった1曲だけれども、“二人の愛を……お願い救って”と告げた「Dr.」の続編と位置づけながら、“独善的な争いなど何の足しになる”と強烈に告げる内容へと変貌し、このアルバムのラストへ配したという意味は、非常に大きなものだと考えるのだ。

 彼女も30代に入り、3年が経とうとしている。未来への橋渡し役として告げていかなければならないものは何か。そして、新たなディケイド(=10年)として残せるものは何か。その自身への課題としてのチャレンジ、新しいスタートを自意識させたアルバムだといえると思う。


◇◇◇

Namie Amuro | VIDAL SASSOON
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 “コピだッ、コピコピで~勝手リクエストにぃ~、コピコピで、コピコピで”っていう脳内ループがとまりません。(笑)
(COPY THAT!!! コピー!コピー! バックアップのリクエストに~というのが正しい詞です…笑)
 

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