最近気になったR&B系シーン楽曲10選。
ろくに好きな音楽シーンも追えていない拙ブログ主筆による、気になった作品をいくつか気まぐれに紹介する記事シリーズ「近況注意報 音楽篇」。“ろくに好きな音楽シーンも追えていない”というのが昨年あたりから本格化してしまい、過去作のみでも十分に音楽生活は送れているという気持ちが芽生えかけたりもしたのだが、やはり新しいものを覗き見したいという好奇心が性根にあるのか(ミーハーというのかも?)、久しぶりにエントリーしてみようかと思った次第。
本来はアルバム単位の“作品”を紹介したいのだが、自身がアルバム単位で追えていないのと、サブスクはじめ曲単位で聴くことが通例になってしまった時世もあり、まずは手始めに楽曲単位でピックアップ。当初は少しずつ聴こうと考えていたのだが、聴く行為に慣れるとそれが加速を増して、根掘り葉掘り聴き出し始めるのだから、“音楽を聴きたい”という気質はまだ宿ったままだったのだなとも実感した。
なお、このシリーズはあくまで拙ブログ主が最近耳を惹いた楽曲や作品を採り上げるという主旨なので、必ずしも近日リリースされた新曲・新譜情報という訳ではないので、悪しからず。
ということで、どんと見据えて!(Don' miss it!)
◇◇◇
ADream Sings / What's The Point
Full Crate / Getaway(feat. Latany Alberto & Uhmeer)
Her Songs / 4AM Disco(feat. Marie Dahlstrom, Emily C. Browning, Emmavie, The Naked Eye, Dani Murcia)
Jenevieve / Baby Powder
Kiana Ledé / Chocolate.(feat. Ari Lennox)
King Sis / Wanna Be Free(feat. Jobii)
Midas Hutch / In Touch(feat. Charli Taft & Daul)
Phony Ppl / Fkn Around(feat. Megan Thee Stallion)
Shaila Prospere / Let's Be
Zenesoul / How it feels
◇◇◇
■ ADream Sings / What's The Point
エイドリーム・シングス(でいいのか?)は米・ノースカロライナ州ファイエットヴィル出身のR&Bシンガー・ソングライター。軍に勤める両親のもと、伊・ヴィチェンツァで生まれ、2016年よりシンガー・ソングライターとして始動。2018年に〈BWM〉と契約し、EP『アイ・ジャスト・ウォント・トゥ・ライト』(I Just Want To Write)を発表。正直なところ(検索しづらいアーティスト・ネームもあって)あまり情報が掴めてないのだが、SoundCloud(https://soundcloud.com/adreamsings)などにはビタースウィートでソウルフルなR&Bがアップされている。ティナーシェよりも捻くれやケバさ(派手さ)はないが、クールながらもパッションをチラ見せするようなヴォーカルや質感がいい。
■ Full Crate / Getaway(feat. Latany Alberto & Uhmeer)
アルメニア人の両親を持つ、蘭・アムステルダム出身のプロデューサー/DJ/シンガー・ソングライターのフル・クレートが、同郷の歌手ラターニャ・アルバートとDJ・ジャジー・ジェフの息子でラッパーのアミールをフィーチャーした楽曲。フル・クレートは2004年に音楽キャリアをスタートさせ、当初はダンスホールやヒップホップ色が強めだったものの、次第にソウルやエレクトロニックへも食指が動いた模様。ジ・インターネットのシドをはじめジョジョ、アルーナジョージをフィーチャーした「マン・ダウン」(Man Down)を2018年に発表した英歌手シャッカ、ビヨンセあたりのプロダクションやリミックスで知られているとのこと。シャッカことシャッカ・フィリップはボーディ・サットヴァ(Boodhi Satova)とともに客演したサイバーなR&B「デンジャラス」(Dangereux)でも共演済み。
蘭はマイダス・ハッチ(Midas Hutch)やリコ・グリーン(Rico Greene)らなかなかダンス/R&Bシーンにも面白い存在が多く、また欧州らしいエレクトロニック/クラブ・シーンとの融合もスムーズなのか、ソウルとエレクトロのほどよい塩梅の良質な楽曲が多く輩出される印象。この「ゲッタウェイ」もエレガントな質感を携えた、チルとスムースの間を絶妙に行き交うモダンなレイドバックR&Bとなっている。スウィートなラターニャ・アルバートのヴォーカルが絶品。
■ Her Songs / 4AM Disco(feat. Marie Dahlstrom, Emily C. Browning, Emmavie, The Naked Eye, Dani Murcia)
こちらも検索が難儀なアーティスト・ネームとなるハー・ソングスは、世界各地で活動するアーティストたちがインスタグラムを介して結成したコレクティヴな集団。マリー・ダルストローム(Marie Dahlstrom)、エミリー・ブラウニング(Emily C. Browning)、マディー・ジェイ(Maddie Jay)、ザ・ネイキッド・アイ(The Naked Eye)、ダニ・ムルシア(Dani Murcia)という女性たちが米・ロサンゼルスで会い、2018年12月に1st EP『ロサンゼルス』(Los Angeles)を発表。
この「4AM・ディスコ」は2020年4月リリースのEP『トロント』(Toronto)からの楽曲。『ロサンゼルス』に続いて『トロント』とは、どうやら都市名のタイトルをシリーズ化する流れなのか(メンバーたちの拠点の地名を冠した作品を出していくのかも)。ネオソウルを下敷きにチルやローファイの要素も顔を覗かせながら、しっとりとした洗練された作風を展開する。美味。
■ Jenevieve / Baby Powder
古き仏女性の名のようなアーティスト名を冠したジュヌヴィエーヴは、米・フロリダ州マイアミ出身でロサンゼルスを拠点とするR&Bシンガー。「ベイビー・パウダー」(Baby Powder)は2020年2月のデビュー・シングル「メダリオン」(Medalion)に続く2ndシングル。「メダリオン」はレトロ・モダンなディスコ風味のムーディなミディアム・スローだったが、「ベイビー・パウダー」は一転してAOR/フュージョン路線へ。特出すべきは、角松敏生プロデュースによる杏里「Last Night Whisper」をサンプリングしているということ。なぜ今、杏里をピックアップしたのかは、昨今のシティポップ・ブームの向きがロサンゼルスにも、と考えられなくもないが、杏里はロサンゼルスを拠点に活動もしているので、ブームを察してという訳ではないのかも。
どちらにしても、レトロな楽曲をソフィスティケートしたモダンなアプローチが魅力で、同じくロサンゼルス出身のネオソウル・バンド、ムーンチャイルド(Moonchild)っぽいソフトな肌当たりと、90年代R&Bフレイヴァを携えたハートウォームながらもセクシーなヴォーカルがマッチ。
マインドデザイン(Mndsgn)やマイケル・ジャクソンやティナ・ターナーのコーラスを担当していた母とプリンスのベーシストでチャカ・カーンのディレクターという叔父を持つ歌手のサー(SiR)らが手掛けたサンディエゴ出身のR&Bシンガー、ジョイス・ライス(Joyce Wrice)の官能度を少し低くしてライトメロウに寄せた感じ、といえばいいだろうか。とはいえ、それでもしっかり色香は放っている。AORやシティポップ・マナーの作品を手掛けるアーティストが増えているが、少なくともこれくらいの完成度は出したいところ。
■ Kiana Ledé / Chocolate.(feat. Ari Lennox)
米・ロサンゼルスに拠点をおく、シンガー・ソングライター/ピアニストのキアナ・レデ・ブラウン。1997年4月生まれの23歳。2006年頃からTVシリーズや映画に出演し、2016年にはMTVのホラー・シリーズ『スクリーム』2ndシーズンでゾーイヴォーン役、2018年には『オール・アバウト・ザ・ワシントンズ』でヴェロニカ・ワシントン役としてそれぞれ主演を務めるなど女優でも活動。2011年にはアデルの「サムワン・ライク・ユー」を歌って『KIDZスターUSA』(KIDZ Star USA)でグランプリを獲得するなど当初から有望株として知られたらしく、2012年には「ヘイ・チカ」(Hey Chica)というシングルをリリース。その後、2018年にリパブリック・レコーズと契約してデビューEP『マイセルフ』を発表。「チョコレート」は2020年4月リリースのデビュー・アルバム『キキ』(Kiki)からのシングルとなる。
「チョコレート」はワシントンD.C.出身のシンガー・ソングライターで、3月の来日公演が残念ながら中止となってしまったアリ・レノックスをフィーチャーした楽曲。二人がインスタライブでガールズトークしている模様をそのまま映したミュージック・ヴィデオが印象的だが、スウィートでハピネス溢れるポジティヴなムードが横溢。そこにアリ・レノックスの安定感ある中低音のミディアムな歌唱が加わって、リラックスな佇まいながらもゆったりとノレるグルーヴを構築。こういった女性シンガー同士のコラボレーションは好物。
■ King Sis / Wanna Be Free(feat. Jobii)
キング・シスも“King”と“Sis”(おそらくSister)の検索結果が絞り込めない組み合わせということで情報が掴めず、2020年に〈エピデミック・サウンド〉レーベルから『トゥイート・アンド・デリート』(Tweet And Delete)と『ママズ・フリー』(Mama's Free)というデジタル2作をリリースしていることくらいしか分からず。レドリアン(LeDorean)、ブレイカー(BLAEKER)といったあたりへの客演曲もある。
「ワナ・ビー・フリー」は『ママズ・フリー』に収録された2曲のうちの1曲で、“自由になりたい”というタイトルよろしく清々しいコーラスを纏いながらそよ風のように流麗さを帯びるフックが印象的。フィーチャーされたジョビー(Jobii)は米・ナッシュヴィルでのマスタリングエンジニアを経て、ニューヨーク・ブルックリンを拠点として活動するプロデューサー/ドラマーのゲイブ・ミルマン(Gabe Millman)によるジャジィなローファイ・プロジェクトで、2018年12月にデビューEP『イングリッシュ・ブレックファースト』(English Breakfast)をリリースしている。ドラム音などには確かにローファイ感はあるのだが、洗練された旋律と前述のコーラスがメロウなムードで覆っており、スタイリッシュにすら感じさせる。
■ Midas Hutch / In Touch(feat. Charli Taft & Daul)
フル・クレートの項でも言及した、蘭・プロデューサー/DJのFSグリーンによるディスコ/ブギー・プロジェクト、マイダス・ハッチの2020年シングル第1弾。客演は英・リヴァプール出身のシンガー・ソングライターのチャーリー・タフト(シャーロット・タフト)と韓国のトラックメイカーのダウル。
チャーリー・タフトはテディ・ライリーのニュージャックスウィング・クラシックス「イズ・イット・グット・トゥ・ユー」とティナーシェ「2・オン」をマッシュアップした「イズ・イット・グッド・2・ユー✕2・オン」(Iz It Good 2 U × 2 On)や、韓国のSMエンタテインメントからK-POP meets アリアナ・グランデといった風の「ラヴ・ライク・ユー」を発表するなど、R&Bの影響を多大に感じさせるフィメール・シンガー・ソングライター。マイダス・タッチのモダネスを下敷きとしながらも、ダウルのスタイリッシュなトラックと薄っすらとアンニュイをもたらしながら艶と透明感を醸し出すチャーリー・タフトの歌唱のコンビネーションは、韓国のクラブ/ラウンジ系ユニット、クラジクワイ・プロジェクトの音色も想起させる。
モダン・ディスコとスムース&メロウなR&Bを往来する、軽快なグルーヴながらも微睡みへいざなうドリーミーなディスコ・ポップ作風となっている。ペシスト&ペシスタ(Especiaのファン)は間違いなくハマるはず。
■ Phony Ppl / Fkn Around(feat. Megan Thee Stallion)
2019年1月には初の来日公演も行なった(その時の記事はこちら→「Phony PPL@WWW X」)米・ニューヨーク・ブルックリン出身のネオソウル・バンド、フォニー・ピープルが、テキサス州ヒューストンを拠点とするフィメール・ラッパーで2019年『タイム』誌「次世代の100人」にも選出されたミーガン・ジー・スタリオンを迎えたバンド・サウンドを効かせたフューチャーR&B/ネオソウル。来日公演時には新曲とアナウンスして(その時は「ミッシング・アラウンド」=Missing Aroundを仮題にしていた記憶)披露していた(その時の動画はこちら→「20190117 Phony PPL@WWW X(9)「Fkn Around」,「Before You Get a Boyfriend.」」)。
エルビー・スリーのウェットで人懐っこさを覚える開放感あるヴォーカルとミーガン・ジー・スタリオンのクールなフロウによってフレッシュで軽快なグルーヴが構築されるが、歌っているのは「お前、男がいるのに遊びまわってんのか。そいつがいない間遊ぼうぜ」「カレも遊んでんだから、私だって男はとっかえひっかえするわ」という奔放な内容。
■ Shaila Prospere / Let's Be
シャイラ・プロスピアは、ディオンヌ・ワーウィックやスティーヴィー・ワンダーらに影響を受け、98年に「ソーリー」でデビューした英・ロンドン出身のソウル/R&Bシンガー。2000年の『イン・マイ・シューズ』で注目された後は目立たなかったが、2017年に17年ぶりの2ndアルバム『バック・トゥ・ライフ』を発表して復活を印象付けた。R&Bといっても、UKマナーを踏襲した哀愁とポップネスが巧みに配されたサウンドが魅力。
「レッツ・ビー」は2020年リリースのシングルで、派手さは控えているものの、ところどころでパッションを放つヴェルヴェット・トーンのヴォーカルがミッドナイトアワーを彩るアクセントに。アメル・ラリューとブライス・ウィルソンのグルーヴ・セオリーあたりを想わせる、スムース&グルーヴいう言葉がピッタリのスウィートでアダルトなアプローチが絶品。
■ Zenesoul / How it feels
ジーンソウルは、カナダ・オンタリオ州ブランプトン出身のR&Bシンガー・ソングライター、アンジー・アキナグバ(Angie Akhinagba)によるソロ・ユニット。ローリン・ヒル、インディア・アリー、ジル・スコットらに影響されるが、ナイジェリアのルーツをもつゆえ、時折アフロビーツ的な要素も包含したR&B/ネオソウル作風を構築。2018年には「プライシー」をヒットさせている。
「ハウ・イット・フィールズ」は2020年に発表された楽曲で、オールドスクールなR&Bのテイストを感じさせるソウルフルなR&B/ネオソウル。アフリカ出自のカナダ出身ということもあってか、UKブラック・マナーも帯びたしっとりとした作風で、エリカ・バドゥやエンダンビ、ヤーザラー(エンダンビもヤーザラーもエリカ・バドゥのバックシンガーやツアー帯同をしている)あたりのオーガニックなフィーリングとクレヴァーな(利発なの方が近いか)佇まいで聴かせてくれる。ゴスペルの素養も窺えながら、穏やかな情感を漂わせているのもいい。大人しいレディシ(笑)といったイメージか。
◇◇◇
ひとまず、この10曲を採り上げてみた。これらの楽曲が音楽ライフのひとときに加わることになったら幸いだ。近々第2弾をアップする予定(予定は未定)。