初のヴァイナル・リリースが生んだ、サマーブリージン＆ジョイフルなステージ。
東京・代々木駅へほど近いところに2021年にオープンしたライヴハウス「代々木 LIVE STUDIO LODGE」にて、HALLCAがリリース・イヴェント〈1st Vinyl “Private Paradise” Release Project Return Live〉を開催。本公演は5月より行なわれたHALLCAのヴァイナルリリースのためのクラウドファンディングにて、「リリースライブプラン」以上を支援した参加者へのリターンとして招待されたものだ。
そのクラウドファンディングは、僅か1日で目標金額に到達。最終的には236％の達成率となり、HALLCAの初のヴァイナルリリースへの期待に溢れる結果となっていた。
会場は、半月の弧を描いたような木目のステージや石が埋め込まれた壁に緑の植物を施すなど、新たにオープンしたこともあって、フローリングをはじめフロア全体がウッド・テイストで統一されたスタイリッシュな造り。地下1階で天井がさほど高くないため、上から吊るされている2台のスピーカーによって視野が遮られる位置があるのは難点だが、ステージ下部にはウーハー的な重低音スピーカーが埋め込まれてあって、コンパクトながらも音響は良好といえそうだ。
本公演には、HALLCAのライヴのバンドマスターとして知られるクマガイユウヤがギターで参加。ステージ中央に配された丸テーブルには、HALLCA初のヴァイナル『Private Paradise』のジャケットとクラウドファンディングの「レコードプレイヤーセットプラン」で支援者にリターンされたオンキヨー「Onkyo Classic Series」よりポータブルターンテーブル「OCP-01」が、HALLCAが所属していたガールズ・グループ“Especia”のシンボリック・アイテムの“ヤシの木”をかたどったネオンオブジェとともに置かれていた。
次第に秋の気配も感じさせる日へと移ろう季節だが、どこか夏の夕暮れの薫風……サマー・イヴニング・ブリーズ、夏の夕涼みを想起させるようなジャケット・ヴィジュアルよろしく、HALLCAは白地に青柄の模様を施した涼やかなワンピースドレス、クマガイユウヤはスカイブルー地の模様入りシャツにハーフパンツ姿と、スタイリッシュな夏の装いで登場。前日は台風14号の影響もあり、激しい雨風で覆われたが、台風一過のごとく、再び晴れ間と暑さを取り戻したことも相まって、サマーバカンスも醸し出すような颯爽としたムードがフロアを包んでいた。
もちろんこの日は、HALLCA待望のヴァイナル『Private Paradise』収録曲を中心に構成。面白かったのは終盤、『Private Paradise』（A・B面各3曲）収録6曲のうち、「Utopia（Blackstone Village Remix）」がリミックス具合から今回は歌モノとしてステージで披露することが難しいということで、中央にセッティングされたポータブルレコードプレイヤーでの“実演”となったこと。Especia時代はアナログ・リリースがあったものの、これまでレコードプレイヤーに触れたことがなかったというHALLCAが、ライヴ中のステージでレコードに針を落とすという光景はなかなかシュールであり、ファンにとってはレアな瞬間を目撃したという効果もあったか。意図したかどうかは分からないが、クライマックスへギアを高めるインターミッションとしての機能にもなったようだ。
『Private Paradise』は純粋な意味でのオリジナル作というより、リミックス・セレクト作という位置づけに近いが、原曲を壊すようなアレンジ・チェンジはないものの、テンポの変化や大胆過ぎずも刺激的なアレンジワークで、心擽る作風に仕立てている。
なかでも耳に残ったのは、レコードプレイヤーによる“実演”となった「Utopia（Blackstone Village Remix）」とファンキーハウス・マナーのイントロが高揚を呼ぶ「コンプレックス・シティー（東新レゾナント Remix）」か。「Utopia（Blackstone Village Remix）」は完全な2ステップまでとはいかないものの、UKガラージ～ダブステップの要素を採り入れたソリッドなビートが特色。原曲の流れるようなアンビエント系のメロディ／サウンドに鋭角的なビートという対照的な要素が合わさって、なかなかのケミストリーを生んでいるゆえ、コロナ禍が続く近日のライヴセッションが重ねづらい事情を考えると、今回“レコードプレイヤー実演”となったのも頷ける気がする。
「コンプレックス・シティー（東新レゾナント Remix）」は、冒頭から繰り出される90年代クラブ（ハウス）・ミュージックやファンキーなブラコンの色も滲ませるフックのアレンジが何と言っても肝。このブラック濃度の高いハウス・アレンジが、原曲のメロウ・テイストのメロディラインに活力を与える役割を果たし、推進力をプラスしている。
そして、もう一つのトピックは、『Private Paradise』には未収録も、新曲として初披露した「Fall back asleep」だろう。冒頭はさほど特筆するものはないが、2ndヴァースからの展開と、さらに転調しての後半に耳を傾注させる要素が散りばめられている。2ndヴァースは初期の宇多田ヒカルの作風など2000年代R＆Bによく見られたようなマイナーなバックコーラス・パートが、「once again～」以降の転調後の英語詞が主となるパートには、たとえばリオン・ウェアやマーヴィン・ゲイといった70年代ソウル～マックスウェルらのネオソウルあたりのネタを引用してきたような艶やかなスムース・グルーヴのほか、シンセ／キーボードの憂いを漂わせるセンチメンタルなコード展開も胸を躍らせる。ICE「COME TONIGHT」「Medicine Street」あたりのメロディラインにも親和性があるだろうか。メロディの抑揚も大きめで、ファルセットや高音のパートもあり、なかなかピッチが安定しづらい楽曲ではあるが、歌唱を重ねてこの楽曲で思い通りの表現が可能になれば、HALLCAのシンガーとしてのステップに弾みがつくのではないだろうか。
アンコールは、「この夏に歌っていないなあ」ということもあり、Especia時代の人気曲「海辺のサティ」で幕。ソロ初のヴァイナル・リリースと、その作品を携えてファンの前にステージに立てるという喜びもあろうが、盟友と言えるクマガイユウヤの趣向を凝らしたギター・アレンジと的確なサポートも手伝って、微笑みを絶やさないジョイフルなパフォーマンスに終始。MCでは今秋あたりにニュー・アルバム『PARADISE GATE』のリリース予定もアナウンスされ（残り2曲は未完成とのこと）、このヴァイナル・リリースを契機にHALLCAの2ndタームへと加速がつきそうな、充実ぶりを感じたステージとなった。
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＜SET LIST＞
00 INTRODUCTION ～ Utopia（Blackstone Village Remix）（*）
01 WANNA DANCE!（IVVYLOOK Coke On Remix）（*）
02 Sweet Pain（*）
03 Promise of Summer（Original by Tsudio Studio feat. HALLCA）
04 Precious Flight（*）
05 Diamond
06 Dreamer（PellyColo remix）（*）
07 Pink Medicine
08 Utopia（Blackstone Village Remix）（Performed by record player）（*）
09 Fall back asleep（Demo Version）（New Song）
10 コンプレックス・シティー（東新レゾナント Remix）（*）
≪ENCORE≫
11 海辺のサティ（Original by Especia）
（*）： song from 1st Vinyl『Private Paradise』
＜MEMBER＞
HALLCA（vo,key）
クマガイユウヤ ／ 熊谷勇哉（g）
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■ HALLCA ／ PRIVATE PARADISE
MGLB-0002 Magellan-Blue Records
A-Side〈OUTSIDE〉
01 Precious Flight
02 コンプレックス・シティー（東新レゾナント Remix）
03 WANNA DANCE!（IVVYLOOK Coke On Remix）
B-Side〈INSIDE〉
01 Sweet Pain
02 Dreamer（PellyColo remix）
03 Utopia（Blackstone Village Remix）
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