2007年結成の米ロサンゼルスのオルタナティヴ・ヒップホップ/クリエイティヴ集団、オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール(通称:オッド・フューチャー、OFWGKTA)。その唯一の女性メンバー、シド・ザ・キッドとスーパー3名義でも知られるマット・マーシャンを軸とするソウル/R&Bユニット、ジ・インターネットの初来日公演を観賞。会場は恵比寿リキッドルームで、チケットはソールドアウト。第58回グラミー最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバムにノミネートされ、各メディアに絶賛された3rdアルバム『エゴ・デス』を引っ提げての公演を今や遅しと待ちわびるファンでフロアは一杯に。客層は30代前後の比較的若い世代が多く、女性の比率も多かった。
左手前にサンダーキャットを兄に持つジャミール・ブルーナー、中央後方にドラムのクリス・スミス、その前にベースのパトリック・ペイジ2世、右手前にマット・マーシャン。両端のキーボードに挟まれる形で、中央にシド・ザ・キッドが加わる5人編成。背後に白地に黒の“THE INTERNET”の文字が浮かび上がるなかでメンバーが登場すると歓声の波が立ち起こり、バンドのイントロダクションの後「ゲット・アウェイ」のイントロが流れるやいなやシド・ザ・キッドがステージ・イン。さらなる歓声を巻き起こして、ジ・インターネットの日本初公演の幕が上がった。
3rdアルバム『エゴ・デス』の楽曲を中心にほぼ1時間。MCもあまりなく(「アリガトウ」「コンニチハ」に続く話せる日本語を思い浮かべようとして「I got it」とか言うくらい)、純粋に楽曲を1曲ずつ聴かせていく展開だが、途中でブレイクを入れストップモーションでおどけてみたり、メンバーと楽しげに会話するなど、リラックスした雰囲気でメロウなソウル・ミュージックを奏でていく。
ヴォーカルのシドは飛び抜けて“歌える”シンガーではなく声量で圧倒するというタイプでもない。その代わりに、陽気と繊細が同居したセンシティヴなヴォーカルで刹那的な美しさを紡いでいく。彼女が同性愛者をカミングアウトしていることが働いているかもしれないが、ファルセットを駆使した瞬間などに窺える少女性とオーディエンスを煽る際に見えるタフネスぶりが往来するヴォーカルワークは中性的で、ミステリアスな空間を創出するのに充分だった。
ただ、シドのヴォーカルがオーディエンスを魅了する最大要素という訳ではない。音源ではダークなムードのアーバン・ソウル/メロウ・ヒップホップな音鳴りの印象が強く、どちらかというとキャッチーな高揚は隠れている感じだが、ライヴではバンド・サウンドが抑揚とメリハリをもたらすグルーヴを提供。特にジャミール・ブルーナーのエレピがサウンドに光を注ぐような明澄を与えていて、ややもすれば陰湿な印象を与えかねないファットなベースとドラムの不穏なリズムばかりを走らせず、“ノリ”の要素を与えているのが大きかった。同時に、ジャミールの人懐っこいパフォーマンスをはじめ、それぞれの個性的なキャラクターが加わることで、タイト過ぎず緩過ぎない彼らならではのユニークなヴァイブスを発していたのもフロアを沸かせた要因の一つだろう。あくまでもグルーヴを保ちつつ、リラックスして音楽を楽しむ姿勢は、オッド・フューチャー一派が元来持つ“気質”なのかもしれない。
クライマックスは前作『フィール・グッド』からのシングル「ドンチャ」でフロアのヴォルテージを頂点に高めると、“トキオ”に感謝を述べながら「ザ・ガーデン」で幕。若さならではの“ノリ”と思慮を携えながら、多彩な表情を披露した1時間。物足りなさもあるが、アンコールなしでサラリと終えてしまう潔さも心地良かったりもする。次はバンドのインターミッションを加えたり、ジャムな要素を増やしながらのロング・パートを付加した構成のステージも見てみたいと感じさせた……と思わせたということは、彼らの演出は成功ともいえるか。流動性を持ちながらタイトに締めくくるパフォーマンスの是非は、ステージアウト後に長くアンコールを求めるフロアの熱が証明していた。成熟度を増すだろう次回に期待を抱かせるグッド・パフォーマンスだった。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Get Away(*)
02 Gabby(*)
03 Under Control(*)
04 Partners In Crime(*)
05 Something's Missing(*)
06 Love Song-1
07 Just Sayin(*)
08 For The World(*)
09 Gone
10 Girl(*)
11 Penthouse Cloud(*)
12 Live It Up
13 Special Affair(*)
14 Curse(*)
15 Dontcha
16 The Garden
(*)song from album『Ego Death』
<MEMBER>
Syd Tha Kid(vo)
Matt Martian(key)
Patrick Paige II(b)
Jameel Bruner(key)
Christopher Smith(ds)
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