ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズの来日公演を観賞。2ndショウ。ビルボードライブでの公演は昨年の2月に続いて4回目か。昨年まではオリジナル・メンバーともいえるエンディア・ダヴェンポートがリード・ヴォーカルを執っていて、今回も最初はエンディアも来日予定だったが、大人の事情なのか(ビルボードライブHPには、「バンド内での協議を重ねた後、新しいボーカリストとしてハニー・ラロシェルを迎え、新生「ザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ」として来日したいというアーティストの意向を尊重した結果」との告知あり)エンディアに代わってハニー・ラロシェル(Honey Larochelle)が急遽ヴォーカリストとして参加。ヴァンクーヴァー生まれ、テキサス育ち、その後NYブルックリン、デンマーク……というシンガー・ソングライター。高校時代にカヴァー・バンドを始め、その当初からブラン・ニュー・ヘヴィーズはメインのレパートリーだったようだ。同様にカヴァーしていたメイシー・グレイとは仲が良いようだ。彼女のHPの推薦文の欄(“HONEY TESTIMONIALS”)にはそのメイシー・グレイ同様にエンディアからの言葉もあるから<“[Honey Larochelle] is one of my favorite people to sing with!”-N'Dea Davenport (The Brand New Heavies)>、もしかしたらエンディアが自分の代わりのシンガーとしてヘヴィーズのメンバーにハニー・ラロシェルを推薦したのかもしれない。
メンバーは左奥からキーボードのマット・スティール、中央にドラムのヤン・キンケイド、やや斜め前隣にバックコーラスのマルがいて、右奥にはトランペットのダン・カーペンターとトロンボーンの廣瀬貴雄。前列左にはベースのアンドリュー“ラヴ”レヴィ、中央にハニー・ラロシェル、右手前にサイモン・バーソロミューといった布陣だ。
マルは、近年バックヴォーカルに抜擢されて前回のビルボードライブ公演にも出演。沖野修也からの紹介で全米ツアーにも同行したとのこと。今回は「サムタイムス」と「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」の一部のパートでリード・ヴォーカルを執った。演奏中も“マル”と紹介されていたが、どうやら2010年9月からソロ・ユニットFire Lily(ファイヤー・リリー)に改名(?)して活動しているようだ。
BNHの近年のライヴは、往年のヒット曲に最新作から「アイ・ドント・ノウ・ホワイ(アイ・ラヴ・ユー)」(I Don't Know Why(I Love You))「レッツ・ドゥ・イット・アゲイン」(Let's Do It Again)を加えるといった形が定番だったが、その最新作収録曲は抜けたものの、今回も基本的には同じような流れで展開。とはいえ、「アイ・ライク・イット」「クライング・ウォーター」(ともに『シェルター』収録曲)やスティーヴィー・ワンダーのカヴァーを挟むなど、全くのマンネリではないところで、ちょっとした驚きを与えてくれる。
ハニー・ラロシェルのヴォーカルはファースト・ネームのような甘さと洗練された艶っぽさが魅力。もちろん、声量もあるのだが、力ずくで迫ってくるというよりも、陽気でラヴリーでセクシーな、といった表現が当てはまる歌唱スタイルだ。エンディアのヴォーカルと比べると、突き抜けるようなパワフルなエナジーを前面押し出している感じではないので、特にリアルタイムで聴いていた人たちにとっては、やはりオリジナル・メンバーのエンディアが一番と思うのかもしれない。だが、近年のステージでのエンディアには、少なからず首を傾げたくなるような怪訝な表情や態度が見られたので、エンディアだったら何もかもが大満足、という訳でもなかった。
奇しくも、ハニーが「ブラン・ニュー・ヘヴィーズのライヴではみんなクレイジーにならなきゃ。髪を振り乱してもいいし、身体をシェイクさせても問題ない。声を発しても。楽しむことが一番」というようなことを言ったのだが、ヘヴィーズのライヴはやはり楽しんでナンボなのだ。ここのところのエンディアからは残念ながら全てがエンジョイという感じにとれなかった。そういう意味では、今回のヴォーカルの交代は良かったのではないかと感じた。
サイモンもアンドリューもいまだにヤンチャで、メンバーのところへ行ってちょっかい出したり、何か面白いことしてやろうとパフォーマンスしたりと、彼ら自身がエンジョイしている。それに乗せられ、ホーン隊などもステージ中央に出てきて楽しげな演奏を披露する。メンバー全員が実に楽しそうだ。やはりヘヴィーズはこうでなくては。そして、その楽しさをノリのいいグルーヴが後押しして、会場に熱気を呼び起こすのだ。
1階フロアは9割くらいの入りだったが、中二階の指定席を中心に空席が目立っていたので、全体としては7割前後の入りか。平日の夜だからか(とはいえ翌日が祝日)、エンディアが来日を取りやめたからか、経済的事情からか……。
ただ、言えるのは、ヴォーカリストが代わろうとも、ヘヴィーズのグッド・グルーヴは不変だということ。“ミッナイ、アッ・ジ・オウェイセェーイズ”のコーラス・イントロを聴けば気持ちが高ぶり、「スペンド・サム・タイム」の爽やかに駆け抜ける鍵盤とストリングスに胸をキュンとさせ、「ユー・アー・ザ・ユニヴァース」のコーラスを手を挙げてシンガロングし、「ドリーム・カム・トゥルー」で興奮が絶頂へ達するのだ。
音楽は何より楽しむことが大切、ということを肌身に感じさせてくれるようなステージだった。
それと、付け加えるならば、彼らはしっかりとホーン・セクションとバック・ヴォーカルを帯同させてくれる。これは意外と大きくて、やはりアシッドジャズのようなファンキーな音楽にはホーンが欠かせないんだなあとつくづく感じた。そのあたりでは手を抜かず、演奏では遊びを入れる……そんなスタンスも彼らが人気を誇る理由の一つではないのかなと思うのだ。
次は是非新作を携えて“遊び”に来てもらいたい。
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<SET LIST>
01 BNH
02 Have A Good Time
03 Back To Love
04 I Like It
05 Never Stop
06 Dream On Dreamer
07 Midnight At The Oasis
08 Crying Water
09 Gimmie One Of Those
10 I Wish(Original by Stevie Wonder)
11 Sometimes
12 Spend Some Time
13 You Are The Universe
≪ENCORE≫
14 Stay This Way
15 Dream Come True
<MEMBER>
Simon Bartholomew(Guitar/Vocals)
Andrew Love Levy(Bass/Vocals)
Jan Kincaid(Drums/Vocals)
Honey Larochelle(Vocals)
Maru(Background Vocals)
Matt Steele(Keyboards)
Dan Carpenter(Trumpet)
Takao Hirose(Trumpet)
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これまでのブラン・ニュー・ヘヴィーズ観賞公演は次のとおり。
2010年02月のビルボードライブ公演(その時のレポートはこちら)
2008年12月のビルボードライブ公演(その時のレポートはこちら)
2007年11月のビルボードライブ公演(その時のレポートはこちら)
2006年12月のラフォーレミュージアム六本木公演(その時のレポートはこちら)
2003年6月の新宿リキッドルーム公演(6年ぶりの来日)
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最後はハニー・ラロシェルの楽曲動画でも貼っておきましょうか。
Honey Larochelle - Work It Out