その音の彼方

いろいろな物語や日々の想いを切り取って言葉にして過ごしています。

夜空に 3

2011-12-30 | story
今日なんていう日はすぐに消えてしまう。

昨日はいつまでも頭から離れてくれないし、明日はやたら輝いている。

今日があまりにも早く過ぎるから、昨日の夜の続きなのかと錯覚を起こしそうになる。

まっすぐ帰るのもなんだか物足りないし、いつもの店でコーヒーを飲んで帰ろう。

二日続けて来ましたよ、同じような時間に、同じようなテンションで。

そんなこと誰も気にしてはいない。

でももしかしたら、昨日から売れ残りのクッキーがあって、

「あいつ、二日連続じゃん、しかも同じ時間に!さえない顔してるぜ!」

などと、言っているかもしれない。

食べてやろうかと思った。

「クッキー一つもらえますか?」

気付いたらそんなこと言っていた。

ファンタジーは実に愉快だと思う。

機械やぬいぐるみが喋り出すのだから。

だけど、喋って自我を持っていたらそれはもうある種の人間なんだ。

だからそんなのが家にうじゃうじゃいたらうっとうしくて仕方がない。

何人暮らしかわからない。

ぬいぐるみならまだ許せるとして、電化製品は駄目だと思う。

テレビや洗濯機、電子レンジが何か言葉を発したらそれをかわいいなどと思う自信はない。

コーヒーカップを口へ運んだ後、それを見てまた思う。

こいつが何か言ってきたら。

「どうだい、コーヒーはうまいかい?」

少し陽気なキャラクターを思い浮かべた。

きっと、内容はこうだ。

一言声をかけられ、僕は驚いてカップを何度も見直す。

そんな中、ミスターコーヒーカップは続ける。

「大丈夫、みんな最初はそうさ。だからおいらもそういう反応には慣れているさ。ところで、さえない顔しているな、なんかあったのかい?」

などと切り出し、僕は悩みを打ち明ける。悩みというほどじゃないんだけど、なんて言ってね。

いつしか、心が通じ合い、僕は常連になる。

コーヒーカップが心の友達に。

いつもここにいるから、そのコーヒーカップはやたら情報通で、なんでも教えてくれる。

政治のこと、ITのこと、有名人のゴシップ、くだらない笑い話。

数ヶ月が過ぎたころ、僕は表情が豊かになり、撮影した写真から閉塞的な要素はなくなり、空もきれいな青色に成っていく。

そしていつも通りコーヒーを頼み席に着くと、ミスターコーヒーカップは言うんだ。

「今日で会えるのは最後になる。理由は簡単さ。よく見てくれよ、おいらのこと。ひび割れがあるだろ、まだ今日は気付かれてないけど、明日には気付く。そうすればおいらはこのお店からおさらばさ。」

僕はショックで弱音を吐く。そうすると、ミスターコーヒーカップは続ける。

「大丈夫。君はもうおいらなんかいなくても立派にやっていけるさ。写真見せてくれよ。また撮ったんだろ?」

言われるままに写真を出した。

「うん、これが答えだよ」

僕も頷く。

そうして、僕とミスターコーヒーカップの物語が終わっていく。

ファンタジーは実に勝手なものだ。

この解釈もきっとそれはもう素敵で。

自分の中に潜んでいた勇気がコーヒーカップとなって現れた。

そうして、自分自身との対話の中で、答えを見つけ、歩き出していける。

そんな物語。

これだけで、一つ物語が書けそうだ。

今日もそんなどうでもいい世界に身を委ねていると閉店の時間に。

椅子にかけていたダウンジャケットを見て、自分の姿を思い出した。

店員さんにダサいと思われてはいないだろうか。

だから誰も見ていません。わからない人だ。

お店を出て、冷たい風に吹かれると、ミスターコーヒーカップが姿を消した。

昨日と同じ、50パーセントオフの看板。

思えば、コーヒーショップの店員さんも昨日と同じだったな。

一日はあっという間で、流れてしまうし、きっと急に何かが変化するなんてこともない。

でも、小さい積み重ねが未来の変化を生むんだ。

誰でもわかりそうなことを改めて考え直した。

日は一日一日過ぎるだけ。

僕は自分の中の時計が動き出した気がした。

チクタク、チクタク、 

おや、秒針でしょうか。

少し足取りが軽くなり、空を見た。

自分自身を変えていくのは周りではなく自分自身とでも言うのですか。

そこには昨夜と変わらない姿ををした月。

そして言いました。

「君は輝く星。君だけじゃない。僕から見る人々は輝く星。本当はわかっているでしょ。だから空に住む星のことを人型に書くんでしょう。」

僕は目を丸くした。

「夢見る星。私は好きです。いつも見ていられる。照明になりますよ。懸命に夢を追う人を照らすのが好きですから。」

いよいよ、頭がやられたかと思ったが、もしかしたら、僕の中の何かが月に変わって教えてくれたのかな。

穏やかな気持ちに包まれて、数歩歩いたところで、さっきコーヒーショップでクッキーを何も思わずに食べてしまったことを思い出して、少し吹き出しそうなって、独り言。





「なんだか、よく笑ったな。」





夜空の下、僕は軽快に歩き出した。





夜空に





















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