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高橋由一《豆腐》&安本亀八《相撲生人形》 - 「リアル(写実)のゆくえ - 現代の作家たち 生きること、写すこと」展(平塚市美術館)

2022年05月31日 | 展覧会(日本美術)
市政90周年記念
リアル(写実)のゆくえ
現代の作家たち 生きること、写すこと
2022年4月9日~6月5日
平塚市美術館
 
高橋由一《豆腐》金刀比羅宮蔵。
安本亀八《相撲生人形》熊本市現代美術館蔵。
 
 長く気になりながらも、実見することのなかった作品が2点も出品!これは見逃せない!
 
 前者はありがたいことに通期展示だが、後者は前期が「パーツ(野見宿禰の右腕と頭、当麻蹶速の左足)のみの展示」、後期が「組み立てた状態で展示」とのこと、ならば後期に行こう。
 
 と、遠征時期を見計らっているうちに、結局、会期最終盤の駆け込み訪問となる。
 
 
 平塚市美術館では2017年に「リアル(写実)のゆくえ」展が開催されている。
 本展はその続編となるようだが、副題のとおり、現代の作家に焦点をあてており、2017年展(黎明期〜明治〜大正〜昭和戦前・戦後〜現代と追う)とはかなり趣きが異なる。
 
 
 絵画と彫刻の2部構成。
 
 
 絵画の部。
 
 まず最初に高橋由一の《豆腐》《鱈梅花》《なまり》と金刀比羅宮所蔵の3点が展示され、その次は現代作家の作品の展示となる。
 洋画の黎明期の次は、いきなり現代という、タイムマシンに乗ったかのような展開。
 現代作家の作品は、「写真」のような絵画ではなく、リアル(写実)の技術により作家の精神性を表現したような作品が並ぶ。
 
 
 彫刻の部。
 
 展示室の真ん中にデンと、安本亀八《相撲生人形》。
 等身大超(2メートルを超えるらしい)の迫力。顔の表情が凄い。目や口・歯が怖い。激しい筋肉。2人の色の対比。
 
 彫刻の部は、安本亀八が孤立しているのではなく、同時代の同じく生人形師・松本喜三郎、明治時代に富山県で活動した室江吉兵衛、室江宗智ほか、そしてよく名を聞く高村光雲、平櫛田中など、写実彫刻の流れをある程度追ってから、現代作家に移る。
 
 というか、展示順は必ずしもそうなっていないが、出品リスト順を踏まえると、
 
生人形師・松本喜三郎&安本亀八を起点に、
 
ルート1:→  現代の義肢アート
ルート2:→  高村光雲、平櫛田中、明治時代に富山県で活動した室江吉兵衛・室江宗智ほか→現代作家の彫刻作品
 
と設定しているようだ。
 
 ルート1は、現代の義肢アートと生人形とを直結させている。
 出品作10点は、あまりのリアルさに感嘆するばかり、特に若い女性の義手は怖くなるくらい。
 作者は、義肢製品を制作する会社の代表取締役であるとともに、本展出品作のような義肢アートも制作する佐藤洋二氏。
 参考出品として、昭和時代初期の手首義手も展示されているが、隔世の感。
 
 ルート2の現代作家の彫刻は、超絶技巧のリアルな作品もあれば、リアル(写実)の技術により作家の精神性を表現したような作品もある。
 日本になかった「美術」という新しい概念が欧米から導入されたことで、その定義から外された生人形などは、美術史の表舞台から姿を消したが、生人形などの写実表現の精神性は受け継がれてきていることを示そうとしているようである。
 
 
高橋由一
《豆腐》
1877年頃、32.8×45.2cm
金刀比羅宮
 
 木綿豆腐、焼き豆腐、油揚げ。豆腐3品盛り合わせの写実。
 鮭も凄い、花魁も強烈、そしてこの「豆腐」も見事。
 油絵の題材としてはほとんど取り上げられることのないと言われている「豆腐」から、これほどの存在感を見せつけられるとは。
 間近で見ると、絵画らしいタッチを確認できるのも好ましい。
 
 
安本亀八
《相撲生人形》
1890年、170×150×160cm
熊本市現代美術館蔵
 
 熊本出身の安本亀八(1826〜1900)は、同じく熊本出身の松本喜三郎(1825〜91)とともに、幕末から明治にかけて活動した生人形師の二大巨匠。
 『日本書紀』に記された日本最古の「相撲」、垂仁天皇の御前での試合、大和の国の当麻蹶速vs出雲の国の野見宿禰。
 右手を腰に回し、左手で首を掴み、当麻蹶速を投げ飛ばそうと踏ん張る形相の野見宿禰。
 投げられまいと最後の力を振り絞る必死の形相の当麻蹶速。
 本作は、1890(明治23)年の内国勧業博覧会に出品するために制作されたが、間に合わず、完成後は浅草寺の門前に置き、人々の大評判となる。
 それを見たアメリカ人コレクターが購入し、1892年にデトロイト美術研究所に寄贈する。
 2005年、熊本市現代美術館がデトロイト美術研究所より購入。
 
 
 
 本展は、足利市立美術館、高岡市美術館、ふくやま美術館、新潟市美術館、久留米市美術館を巡回する。


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