デジタルで楽しむ歴史資料
2017年3月14日~ 5月7日
国立歴史民俗博物館・企画展示室
「マリア十五玄義図」は、聖母マリアとイエス・キリストの物語を十五の絵で表した絵画で、カトリック教徒がロザリオを手繰りながら唱える十五の祈りに対応しており、日本でもキリシタンの間で礼拝に用いられた。
日本における「マリア十五玄義図」は次の3幅が知られている。
1920年に現大阪府茨木市の民家で発見され、現在茨木市が所蔵する(茨木市立キリシタン遺物史料館に寄託)もの。
1930年に同じく茨木市の民家で発見され、現在京都大学総合博物館が所蔵するもの。
現長崎市の外海地方の一旧教徒の家に伝来し、浦上天主堂が所蔵していたが、1945年8月に戦災で焼失したもの。
最後の浦上天主堂本については、焼失直前の1945年1月刊行の書籍、西村貞『日本初期洋画の研究』(全国書房)に掲載された写真図版のみで知られる存在となっていた。
また、書籍掲載の写真の原板も、1945年3月の大阪大空襲で失われたと考えられていた。
ところが、2011年、浦上天主堂本を1図ずつ写した9枚を含む西村貞の著作に使われたモノクロのガラス乾板の所在が公になる。
大阪府の美術史家が古美術店から購入し保管していた乾板のなかに9図の乾板が含まれていたのである。なお、残る6図の乾板の所在は不明。
これらは、一括して国立歴史民俗博物館が収蔵する。
本展では、「マリア十五玄義図(浦上天主堂旧蔵)」のガラス乾板のうち、「受胎告知」のガラス乾板の「模造」が展示される。
また、西村貞『日本初期洋画の研究』には、ただ1図、「ゲッセマネの祈り」がカラー写真(3色分解で撮影・印刷)で掲載されているが、その図を元に、デジタル技術を利用して、白黒写真でのみ知られる「受胎告知」の色彩を復元する試みが紹介されている。
【西村貞『日本初期洋画の研究』掲載の「マリア十五玄義図」全図写真のパネル】
【上記に図の解説を付したパネル】
【「マリア十五玄義図(浦上天主堂旧蔵)」のうち「受胎告知」のガラス乾板 模造】
【発見されたキャビネ判のガラス乾板(ネガ)をデジタル化してポジに反転させた9図の拡大写真パネル】
【西村貞『日本初期洋画の研究』カラー写真掲載頁】
同館HPのwebギャラリーでも9図の高精細画像が掲載されている。
「デジタルで楽しむ歴史資料」展は、「通常は歴博の研究・展示・教育活動を支える裏方の存在であるデジタル技術を、この展示では思い切って前面に出し」て、「大きく・明るく・見やすく・比べて展示(モノ資料の限界を越えた資料展示)」と「もし~だったら(失われた資料や景観の復元)」というデジタル技術の得意技を駆使して、歴史資料の世界を楽しもうという、企画展。
同館が所蔵する貴重な絵画作品の実物も展示されている。
私の訪問時は、次の絵画作品の実物が展示されていた。
重文《洛中洛外図屏風「歴博甲本」》
重文《前九年合戦絵詞》鎌倉時代、13〜14世紀
重文《結城合戦絵詞》室町時代、15世紀
《太平記絵詞》江戸時代、17世紀
特に、 室町時代・16世紀前期制作の現存最古の洛中洛外図とされる《洛中洛外図屏風「歴博甲本」》。
【右翼】
【左翼】
作品の褪色+描かれた人物の小ささと数の多さから、鑑賞者に優しいとは言えない実物に対して、デジタル技術を使用した鑑賞補助ツール4点が用意されている。
1)制作当初を想定した復元複製
・右隻を鮮やかな色彩で復元。
2)超拡大コンテンツ
・気になる箇所を超拡大して観る。
3)登場人物データベース
・歴博甲本に描かれた1426人!の一人一人をデータベース化。
性別、身分等、服装、被り物、髪型、髭、持ち物、場所、行為、その他(後補・補筆含む)といったキーワードで検索ができる。
ちなみに、1426人の「性別」別の数は、男性1100人、女性283人、子供107人、赤ん坊4人(合計しても、1426人にならないのは何故?)。
4)歴博甲本と(今回実物展示なし)歴博乙本の場面比較
・制作に60年ほどの差がある両作品の間で描かれた対象がどのように変わったか比較鑑賞。
失礼ながらこんなデザインのチラシから想像していた内容をはるかに上回る内容であった。
以下、本展の構成。
1 デジタルで楽しむ絵画資料
1)洛中洛外図屏風と描かれた人々
2)江戸の景観の移り変わり
3)描かれた武士
4)肖像画を読み解く
2 デジタルで解き明かす資料のなぞ
1)正倉院文書のなりたち
2)錦絵に用いられた赤と青の分析
3)ガラス乾板に写された絵
3 デジタルで楽しむ工芸資料
1)小袖の模様を見つめる
2)3Dでみる蒔絵万年筆
3)見えない音を展示する
4 デジタルで広がる歴史展示の可能性
1)よみがえる小諸城
2)京町屋の3Dグラフィックス再現
3)昔のすごろくで遊ぼう