渡辺崋山
重文《佐藤一斎(五十歳)像》
江戸時代・文政4年(1821年)
幕末を代表する儒学者の肖像画。
昨年(2023年)の板橋区立美術館「椿椿山展」の後期、椿椿山筆の肖像画を10点ほど見た。見応えがあり、前期未訪問を惜しく思った。
なかでも、東博所蔵で初見の《佐藤一斎(七十歳)夫妻像》と《佐藤一斎夫妻像(一斎八十歳)》は、素晴らしかった。
夫妻像ということで、夫と妻の描き方の相違を見る。70歳の像と80歳の像が並ぶということで、老年期の10年の歳を重ねた故の相違を見る。楽しみ方の多い両作品であった。
このとき、東博は、椿椿山の師である渡辺崋山筆の《佐藤一斎(五十歳)像》(夫妻像ではなく単独像)も所蔵すると知る。
その後、本年(2024年)の千葉市美術館での収蔵作品による小特集「武士と絵画」にて、《佐藤一斎(五十歳)像》の画稿5点(第三〜七)を見る。
そして、今般、本画を見る。
確かに見応えがあるが、素人なので、本作単独では充分には楽しめない。比べて見る対象が欲しい。渡辺崋山の他の肖像画(国宝《鷹見泉石像》など)とか、本作の画稿とか、椿椿山の《佐藤一斎(七十歳)夫妻像》と《佐藤一斎夫妻像(一斎八十歳)》とか。
本館2階の7室および8室の安土桃山〜江戸時代の「屏風の襖絵」および「書画の展開」の展示室では、8月20日〜9月29日の間、南蛮屏風、洋風画、洋風表現の作品が展示される。
洋風表現・写実の肖像画としては、《佐藤一斎(五十歳)像》のほか、他の絵師筆の4点。
以下、《佐藤一斎(五十歳)像》を挟んで展示される3点の画像を掲載する。
蠣崎波響
《蝦夷紋別首長東武画像》
江戸時代・天明3年(1783年)
2015-16年の国立歴史民俗博物館「夷酋列像-蝦夷地イメージをめぐる人・物・世界」展で、フランス・ブザンソン美術考古博物館所蔵の《夷酋列像》の現存全11図を見て以来、気になっている絵師。
本作は初見。東博も所蔵していたのか。1783年・20歳の作ということは、《夷酋列像》よりも7年早い。
波響は江戸で南蘋派の建部凌岱や宋紫石に学び、北海道・松前藩の要職に携わりつつ作品を制作しました。本作は「波響」の落款のある最も早い例で、波響20歳の作。写実的な表現でシントコ(漆塗りの木製器)に腰を下ろし、右腕に鍬形を抱えるアイヌの男性を描いています。
円山応挙
《拡元先生像》
江戸時代・安永8年(1779年)
円山応挙
《端淑孺人像》
江戸時代・18世紀
応挙の写実的肖像画2点。
応挙は西洋銅版画に由来する眼鏡絵や中国絵画を学び、現実味のあるリアルな表現を追求しました。人物表現は、相学を参考にし、顔を類型化して描くことで知られますが、本作のように像主が実在する肖像画の場合、相貌の特徴を写実的に描く制作態度がみられます。
以上、拙ブログでは、その1で亜欧堂田善と司馬江漢、その2(本記事)で渡辺崋山ほか肖像画を取り上げたが、他にも、南蛮屏風3点や安土桃山〜江戸時代前期の初期洋風画3点、秋田蘭画の小田野直武が展示されている。