第72回正倉院展
2020年10月24日〜11月9日
奈良国立博物館
新型コロナウイルス感染症禍、無事に開催されている第72回正倉院展。
前売日時指定券を導入(当日券の販売なし)。
会期は17日間(例年どおり)で、1時間ごとの入場者数は約260名とのことなので、そのとおりであれば会期中の入場者数は、44千人(1日あたり2.6千人)と、例年の5分の1くらいの計算となる。この水準は、なんと、昭和23(第3回)〜38年(第16回)頃の入場者数と同程度。
観覧料金は、一般2,000円と昨年の1,100円より大幅アップ。しかも、常設展示の鑑賞不可が付される。
そんな厳しい条件であるが、開幕前に既に完売となったようである。
11/1の日曜美術館では、この「第72回正倉院展」が取り上げられた。「至宝からひもとく天平の祈り」。
紹介された出陳品から、実見したい「美術としての魅力を有する品」3選。
《平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう)》
(螺鈿かざりの鏡)
径39.5 縁厚1.1 重5545
正倉院の螺鈿の鏡のなかで一番の大きい直径40cm。そして、豪華絢爛。
赤い花は貝殻を加工して貼った螺鈿に、ウミガメの一種である玳瑁(たいまい)の甲羅や琥珀を組み合わせ。ちりばめられた青や緑の石は、イラン原産のトルコ石。特筆すべきは「犀」。遠く南の国を象徴する動物で、幸福をもたらすモチーフと考えられている。
《桑木木画碁局(くわのきもくがのききょく)》
(囲碁の盤)
縦52.0 横51.9 高15.5
奈良時代、貴族の間で流行した囲碁の盤。縦横19本の線が引かれており、これは現代の碁盤と全く同じ。ルールも今と同じだったと考えられている。
特徴は側面に施された装飾は、奈良時代の超絶技巧。
染め上げた象牙を彫って文様を生み出す「撥鏤(ばちる)」。ススキやハギなどの植物、カゲロウや鳥などが精緻に彫られている。
撥鏤の周囲。額縁のように見えるのは、細かな木を寄せ木細工のようにはめ込んだ「木画」。色の異なる木などをミリ単位で貼り付けている。
《墨絵弾弓(すみえのだんきゅう)》
(曲芸や楽人が描かれた遊戯用の弓)
長162.0
小さな球をはじく遊戯用の弓。
長さ160cm、幅3cmの弓の上に墨でびっしりと描かれるのは、今日のサーカスの源流ともいわれる中国の民間芸能「散楽(さんがく)」の様子。楽器を演奏する人々。4人を肩の上に乗せてすくっと立つ大男など、描かれた人物の数は実に96人。
時節柄、「薬」から1点。
「光明皇后は今日の病院に当たる施設を作るなど救済事業に尽力しましたが、薬物の献納もその一環と言えるでしょう。薬物は奈良時代における疫病との闘いを伝える品としても、注目されています。」
《五色龍歯(ごしきりゅうし)》
(くすり)
歯面の長さ16.7 重4655
重さ4.7kgの象の歯の化石。灰色がかった白やクレーム色、ところどころに見える淡い青の筋は、まさに五色の「龍歯」。痛みを和らげ、精神を安定させる作用があるとして、唐から輸入された。
光明皇后は薬物60種類を大仏に献納したが、その献物帳である『種々薬帳』には、堂内に安置して仏を供養するために献納するが、もし病に苦しむ者があれば取り出して使ってよい(「病苦可用」)と記載されているという。現に、別の出陳品の薬物《大黄》は、現在の重さは31キロだが、当初はその7倍の221キロあったという。
昨年初めて奈良博「正倉院展」を訪問し、東博「正倉院の世界」展鑑賞もあわせ、正倉院宝物に興味を持ちはじめている私。今年が通常の年であったとしてもどのみち行かなかっただろうけれど、並びさえすれば入場できた時代を少し遠く感じる。