ボイマンス美術館所蔵
ブリューゲル「バベルの塔」展
16世紀ネーデルラントの至宝-ボスを超えて-
2017年4月18日~7月2日
東京都美術館
アントワープで活躍したヨアヒム・パティニール(Joachim Patinir)(1480頃-1524)。
西洋絵画史において、歴史画や物語の背景としての風景ではない、純粋な「風景画」を描いた最初期の画家とされる。
1520-21年にアントワープを訪れたデューラーも「優れた風景画家」と称賛した。
また、画家が描く青のグラデーションの美しさでも知られる。
日本で唯一と思われるパティニールに関する書籍の題名は「青のパティニール」である(石川美子氏著、みすず書房刊)(←読んでいない)。
パティニールは、現存作品数が少ないことでも知られる。工房作を含めても20点ほどと言われる。
2007年にプラド美術館にてパティニールの回顧展が開催された際に刊行された図録(兼カタログ・レゾネ)では、工房作を含め29点の作品が掲載されている。
そんな貴重なパティニールの作品が、上記図録で「パティニール」作とされている作品が、東京都美術館の「ブリューゲル「バベルの塔」」展では、なんと2点! も出品されている。ブリューゲルとボスにとどまらない、濃い展覧会なのである。
《ソドムとゴモラの滅亡がある風景》
1520年頃
22.5×30cm
オランダ文化遺産庁よりボイマンス美術館に寄託
街から炎が上がり、真っ赤に染まる空。険しい岩山。
前景右に、天使に導かれるロトと二人の娘。後ろを振り向くことを禁じられたのに背いたため、塩の柱に変身させられたロトの妻は何処に描かれているのだろう。画面ほぼ中央辺りに見える白い細い線がそれだろうか。画面右上のテントは、後ほど娘たちがロトを誘惑する舞台となるのだろう。
《牧草を食べるロバのいる風景》
1520年頃
27×23cm
題名どおりのんびりとした風景を描いた純粋な風景画。
と思うが、元は《エジプト逃避途上の休息》を描いた絵の一部であったという。
元の《エジプト逃避途上の休息》の別バージョンがティッセン=ボルネミッサ美術館に所蔵されているそうだ。その絵の左側は、確かに本展出品作とそっくりで、分断される前の作品の姿はこうだったのだろうと推測できる。
《エジプト逃避途上の休息》
1518-24年頃
31.5×57.5cm
ティッセン=ボルネミッサ美術館
ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵作品の部分図。
なお、2003年には、画面の右側部分がロンドンのオークションに登場、そのパネルは本展出品作と同じ木から採られたことが判明しているという。
《エジプト逃避途上の休息》断片
27.8×24.5cm
個人蔵
ティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵作品の部分図。
さて、今後、聖家族が描かれた中央部分が現れることはあるのだろうか。
このティッセン=ボルネミッサ美術館の《エジプト逃避途上の休息》のことを確認していると、衝撃的な(←私にとって)事実を知る。
なんと、ティッセン=ボルネミッサ美術館の《エジプト逃避途上の休息》が、1987年に来日していたらしいのだ。
1987年に国立西洋美術館で開催された「西洋の美術:その空間表現の流れ-欧州ひ評議会特別展」である(←凄い作品を揃えた展覧会だったようだ)。
2015年のBunkamura「ウィーン美術史美術館所蔵 風景画の誕生」展における《聖カタリナの車輪の奇跡》が初来日作品だと勝手に決め付けてしまっていた私。
《聖カタリナの車輪の奇跡》
1515年以前
27.1×44.1cm
となると、他にも来日しているかも。その希少性などを考えると、せいぜい他に1回あるかないかだろうけど。
本展には、ブリューゲルとボス、パティニール以外にも15世紀後半から16世紀前半の貴重なネーデルランド美術が多数出品されているので、これらもしっかりと楽しみたい。次の訪問時の課題である。