英国のデロイトが、英国監査市場におけるビッグ4事務所のマーケットシェアに上限を設けることやFTSE 350に属する監査クライアントへの非監査業務提供を禁止することを提案したという記事。
Deloitte has recommended a market share cap in the UK audit market among Big Four firms and a ban on providing non-audit services to FTSE 350 clients
英国競争・市場庁(CMA)に提出されたもので、ひとつの事務所が契約できる監査クライアントの数に上限を設けることが、監査事務所選択と競争の問題に対処し、参入障壁を減らし、英国監査市場のレジリエンスに関する懸念に対処することになるとしています。
In its evidence submission to the Competition and Market Authority’s (CMA’s) review, Deloitte said imposing a cap on the number of audit clients a firm can take would address choice and competition issues, reduce barriers to entry and address concerns around the resilience of the UK audit market.
また、FTSE 350に属する会社や大規模な非上場の社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity)である監査クライアントへの非監査業務提供の禁止で、利益相反をめぐる問題に対処することになるとしています。
Moreover, a ban on non-audit services provided to FTSE 350 and large unlisted public interest entity audit clients would address issues around conflicts of interest.
デロイトは、社会的影響度の高い監査を行う監査事務所の責任と、アドバイザリーサービス提供の利益相反は、ひじょうにまれにしか起こらないと主張していますが、禁止によって、英国の監査市場への公衆の信頼を改善するのには役立つだろうと認めています。
Deloitte argued conflicts of interest between the firms’ public interest audit responsibilities and the advisory services they provide happen “very infrequently”, but admitted a ban would help improve public trust in the UK’s audit market.
その場合、大規模な社会的影響度の高い事業体と、「監査サービス」の明確な定義が必要になると述べています。
It added this would require a clear definition of large public interest private companies and of “audit services”.
しかし、ビッグ4事務所を分割するという案は、実行可能ではなく、また、監査品質の劣化につながるとして、反対しています。
However, Deloitte argued that splitting up the Big Four is “not workable and would lead to a deterioration in audit quality”.
先日も、英KPMGが大企業の監査クライアント向けの非監査業務提供を中止するという報道もありました。(デロイトは禁止を案として出しただけで、自分たちが先行してやるとはいっていません。)
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英国ではビッグ4事務所に対する風当たりが相当強いようで、各事務所とも、規制強化による自分たちへのダメージができるだけ少なくなるような策をいろいろ考えているのでしょう。監査の市場がこれから大きく成長するとは見込めず、ビッグ4事務所のシェアも限界まで高くなっているので、監査は、クライアント獲得に血道を上げるよりは、上限を設けてほどほどにやる(監査クライアントへの非監査サービス提供に厳しい目が向けられているのでなおさら)、その代わり、大きく伸びる可能性があるアドバイザリーは、監査クライアント向けを除き、力を入れていこう(だから監査専門とアドバイザリー専門というふうに分割するのは困る)ということなのでしょう。
そうなると、むしろ、監査に関しては、競争が減っていく可能性もありそうです。また、監査クライアント向け非監査業務禁止で、監査人交代のときに、後任監査人の選択肢が狭くなってしまうことも考えられます。
いずれにしても、日本の当局も、海外の動向を見ているでしょうから、日本の監査事務所や監査法人系アドバイザリーサービス(税理士法人含む)の業界にも、将来的には影響が出てくるかもしれません。
(補足)
準大手の事務所もCMA似意見を提出したそうです。
Disagreement between mid-tier firms on CMA review(economia)
グラントソントンは、監査クライアントの数に上限を設けることには反対とのことです(ビッグ4が、最も魅力的で利益が出るクライアントだけをつまみ食いするのではないか)。それに対して、BDO や Mazarsは賛成とのことで、準大手事務所間でも考え方が違うようです。
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