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焦点:原発で誤算、東芝の「失われた10年」 優良事業相次ぐ身売り(ロイターより)

焦点:原発で誤算、東芝の「失われた10年」 優良事業相次ぐ身売り

東芝米原子力事業の巨額損失問題を取り上げた記事。会計処理などの疑問点に少しふれています。

「WHの会計処理をめぐる状況については、なお明確になっていない点が少なくない。

今年度、原発関連で東芝が計上する7125億円の損失は、WHが受注した米国での4基の原発建設プロジェクトが主因だった。事業コストの見積もり額は従来に比べ61億ドル(約6900億円)も膨れ上がり、その結果、WHは一昨年末に買収した米原発建設会社のCB&Iストーン・アンド・ウエブスター(S&W)社に絡み、6253億円相当の損失計上に追い込まれた。

東芝によると、プロジェクトのコスト増の大半を負担するのが、土木・建築工事を担うS&Wを含むWH側だ。だが、なぜWHがその負担をかぶったのか。さらに1年後に巨額損失が出る可能性があったのに、なぜWHがS&Wを買収したのか、という理由はあいまいなままだ。

記者からの質問に対して、東芝の畠沢守・執行役常務は、「(S&Wを買収した)昨年12月の買収の際に(プロジェクトの)顧客との間で、コスト増の負担の取り決めは、いったんリセットされた」と回答。にもかかわらず、S&Wに新たな負担が生じた理由として、同氏は1)工事の物量増、2)WHが効率を上げてコスト削減を図る狙いが実現されず、非効率な状況が続いたため、と説明した。

その一方で、畠沢氏は、WHがS&Wを買収しなかった場合、そうしたコスト増は工事を発注した電力会社側が負担していたとの認識を会見で示した。

ではなぜS&Wを買収したのか。畠沢氏は、「(S&WをWHに売却した)CB&Iの財務諸表や資料を見て、それを信じて判断した」と述べただけで、買収の経緯をめぐる不透明感は払拭しきれていない。」

今回の巨額損失は、会計的にはのれんの減損だということになっています。つまり、S&Wの買収時(2015年)の資産・負債を時価評価して、買収価格との差額でのれんの金額を算出し、暫定的な処理で計上していたのれん金額との差額を追加計上したうえで、のれんの減損テストを行った結果、損失が計上されたという説明になっています。資産・負債の時価評価というところで、工事損失の大きな引き当てが必要となって、のれんの金額が膨らんだようです。買収価格自体も、S&Wの前親会社との間で係争中で、まだ確定していませんが、それは当初の金額で計算しているようです。

S&Wの資産・負債の時価評価というのは、2015年の買収時点で、S&Wが保有していた資産と負っていた負債の評価のことです。買収時点以降の資産・負債時価の変動分や、買収側の東芝・WHの買収時点における資産・負債は、含まないないはずです。

つまり、会社の会計処理の意味するところは、買収側の東芝・WHの担当工事部分では、工事原価に関する見積もりの変更はなかった、少なくとも、今回の巨額損失には関係していない、また、S&W側の担当部分については、買収時点の工事損失の見積りが大幅に訂正されたのであって、買収時点以降の状況変化による重要な見積もり変更はなかったということになります。

しかし、それは少し不自然です。会社の説明では、買収時以降の状況変化でこうなったようにいっており、また、もともとの東芝・WH担当分とS&W担当分を一緒にした全体でコスト増になったようにいっています。さらに、S&Wに買収時点で大きな工事損失が見込まれていたのであれば、その親会社の直近の決算(上記記事によれば、東芝が財務諸表をみている)にも、(粉飾でなければ)反映されていたはずです。(買収価格配分における時価と通常の決算での工事損失引き当ての金額は、必ずしも一致しませんが、今回のような巨額な差異が出るのも不自然)

意地悪に考えれば、東芝・WHがS&W買収時までに処理すべきだったがしていなかった損失や、買収後の契約条件変更などによる見積り変更による損失(適時に見積りを変更しその変更時に処理すべきもの)を、買収価格配分手続(1年間の余裕がある)だといって、S&Wの負債に含めてしまい、あわよくばのれんに計上したまま、先送りしようとしたが、それがあまりに大きくなりすぎて、のれん減損となってしまい、もくろみが外れてしまったと見ることもできます。

この辺の疑問点も含めて、決算の正式発表時には明らかにしてほしいものです。もちろん、会計処理のとおり、すべて、S&Wの買収時点の負債が原因だったのかもしれません。(その場合でも、なぜそんな会社を買収したのかという問題は残りますが)

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「関係者によると、パワハラをしたのはWHのダニー・ロデリック会長ら。WHが米原発建設を進めるために買収した会社の資産査定をする中で、圧力をかけたという内部告発があった。ロデリック氏は東芝の電力カンパニーの社長も務めていたが、今月十四日付で解職された。

パワハラで退社した複数のWH元社員が、損害賠償請求訴訟を起こす動きもあるもよう。この賠償費用を決算で引き当てるかどうかなどを巡って東芝と監査法人の意見が対立し、決算を発表できなかったとみられる。東芝は十四日、米原発の損失は七千百二十五億円になる見通しを発表。仮に裁判の賠償費用が加わっても、損失の大幅な悪化はない見込みという。」
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