インボイス制度の登録が難航 10月末の登録率は37.1%、個人企業は14.9%と低迷
インボイス制度の登録が進んでいないという記事。東京商工リサーチが調べたそうです。
「2023年3月末のインボイス制度の登録締切まで半年を切った。だが、10月末の登録率は37.1%と4割に届かず低迷している。なかでも、個人企業の登録率は14.9%で、登録への躊躇(ためらい)が広がっている。
2023年10月に始まるインボイス制度の全体登録数は、10月末で143万3,500件を数え、10月は22万6,447件と3カ月連続で月間最多を更新した。けん引しているのは法人で、登録率は60.5%と6割を超えた。
しかし、個人企業は依然として15%を下回っている。個人企業の登録遅れで全体の登録率は37.1%にとどまり、フリーランスや小規模事業者への登録促進の議論が加速しそうだ。」
適格請求書発行事業者の数は、国税庁のデータを使っているので正確でしょうが、分母の企業数は、総務省の「経済センサス」の企業数を基にしているそうですから、1件単位まで正確なのかどうかはわかりませんし、そもそも、一般消費者相手の商売で、インボイスはほとんど関係なく、登録不要という企業も含まれているでしょうが、傾向はつかめるのでしょう。
特に、個人企業の登録が進んでいないそうです。
「個人企業の登録は進んでいない。10月末の登録は、9月末から2.7ポイント増で登録率は14.9%にとどまる。個人企業は、売上高1,000万円以下で、納税義務が免除された免税事業者が多い。国税庁の2020年度統計年報の課税事業者数で登録率を試算しても、法人(約205万件)は55.4%、個人企業(約115万件)は26.8%で、全体でも44.7%と半数に届かない。免税事業者から課税事業者への移行も考えると、個人企業の登録の低調さが際立っている。」
これもインボイス制度に関する調査結果。
「インボイス制度に対応済み」は約4割。
請求書送付は約6割が「すべて郵送」、保存方法は「紙」がメイン(しがぎん経済文化センター)(PDFファイル)
最近のインボイス制度解説記事(一般向け)より。
「インボイス制度」今さら聞けない基本中の基本
消費税が「儲け」になっていた事業者を直撃も(東洋経済)
「今まで、免税事業者は、お客側から受け取っていた消費税を自分の売り上げ、つまり「儲け」と考えていたと思います。
この儲け、実は「益税」といわれています。
国がインボイス制度を始める大きな目的の1つは、長年、免税事業者から徴収し損ねていた益税をなくすことです。
正直な話、売り上げが伸びているわけでもないのに、益税と呼ばれる「儲け」がなくなることは、個人事業主やフリーランスにとっては頭を悩ます問題でしょう。」
「インボイスを発行できない「免税事業者」との取引は、制度スタート後は取引先の会社(企業)にとって損になり、今後、免税事業者はお客側から仕事を頼まれなくなる可能性が出てきてしまいます。」
インボイス制度の盲点 対応しない取引先切ったら違法(日経BizGate)
「消費税の課税対象となる売上高が1000万円以下の事業者は、消費税の申告・納税が免除されています。また、納税を免除されている事業者はインボイスを発行できません。つまり、彼らにとってインボイス制度への対応は、自ら免税のメリットを捨て、実質的に収入減を受け入れるようなものです。一方、彼らが対応しなければ、取引をする課税事業者は支払った仕入税額の控除ができなくなります。」
「だから、多くの企業は取引先すべてにインボイス制度への対応を求めているのですが、徹底は容易ではありません。制度への対応はあくまで個別企業・事業者が判断すべきもの。その判断を無視して取引打ち切りの圧力をかければ、小規模な事業者が相手であれば、まず間違いなく下請法(下請代金支払遅延等防止法)に抵触するからです。」
「有力企業では、導入当初は消費税の負担がある程度増えてもやむを得ない、と覚悟を決めたところも出てきています。制度開始から3年間はインボイスがなくても仕入税額控除の80%相当額を控除できる経過措置が設けられています。これを活用するのです。」
「中には取引先にインボイスへの対応を求めるため、別のメリットを与える検討をする会社も出てきています。例えば、人手不足が深刻化している宅配便など配送事業を手掛ける企業。配送を担う個人事業者はインボイス制度に対応すれば、実質的に減収になる可能性があります。彼らの離職を防ぐため、手取りが減らないよう労賃引き上げなどの対処も視野に入れているようです。」
インボイス来秋導入で大混乱!苦闘する税理士(東洋経済)
「ならばインボイスを発行せず、従来と同様、「免税事業者」のまま続けるとどうなるか。前述の例で言えば、コンビニは仕入税額控除ができなくなるため、余分な負担をしたくないなら、仕入れ先に消費税分の値引きを迫るかもしれない。優越的地位の濫用に触れるおそれはあるが、課税事業者になるよう促すか、最終手段で取引自体をストップすることも考えられる。
ちなみにインボイス制度にも経過措置がある。仕入れ先が免税事業者でも、26年9月末まで80%、29年9月末までは50%の仕入税額控除ができることになっている。負担の少ない経過措置の期間中、課税事業者になるかどうか、話し合いが進む公算が大きい。
登録事業者だけで済む話ではない。インボイスの記載が正しいか、もらう側もチェックする業務が増えるほか、経理の仕方が変わる。経理以外の部門を含め、会社全体の問題になるのは必至だ。」
所得減少のダメージを減らすには?小さな会社・フリーランスのための「インボイス」対応の最適解(現代ビジネス)
「今までは、益税を謳歌していたものが、インボイス制度になった途端、益税がなくなるだけでなく、課税仕入に対する消費税を“自腹”で負担しなくてはならないのですから、その影響は大きいでしょう。
なかには、「うちはそもそも消費税など上乗せして請求していない」という人もいるかも知れません。
ですが、消費税の課税対象となる課税売上である以上、得意先は請求額には消費税額が含まれた税込金額であると認識しています。
今までの請求額には消費税が含まれていたものが、インボイス制度になると消費税は控除できないとなれば、得意先からみると本体価格が値上げされたのと同じです。
得意先では消費税の控除ができず自らの消費税の負担が大きくなるのですから、わざわざ免税事業者に依頼せず同じ金額で消費税の控除が可能な適格事業者との取引を選択するかもしれません。
それを避けるのであれば、免税事業者は、消費税相当額だけ値下げしなくてはならないでしょう。」
インボイス制度の目的のひとつとして免税業者における益税を退治することがありますが、今までも、免税業者への支払額に含まれる消費税(支払額の110分の10)がまるまる免税業者の益税になっているわけではありません。免税業者の仕入れには、消費税が含まれている(免税業者なのでその金額の控除はできない)おり、売上先から受け取った消費税分の金額の一部は、仕入れに含まれる消費税に充てられているとみることができます。インボイス制度導入後も、少なくとも仕入れに含まれる消費税分は面倒を見てあげないと、免税業者に過大な負担を負わせることになるでしょう。消費税の簡易課税では、みなし仕入率として、40%から、90%までの率が決められていますが、それを参考に、例えば、仕入率を一律60%と仮定して、免税業者から仕入れしている側で、「仕入れ額(支払いベース)×免税業者におけるみなし仕入率60%×(10/110)」は、仕入税額控除できるようにすれば、益税部分にほぼみあう金額のみの負担増になるでしょう(それを仕入れ側と免税業者側でどういう割合で負担するかは別問題)。具体的なルールとしては、経過措置の80%という数字を、適当なみなし仕入率を想定した率に変えて、恒久化するということが考えられます。
財務省が想定しているように、免税業者に無理矢理インボイス発行業者の登録をさせ、課税業者にならせる、そして、重い事務負担も負わせることが、いいことなのかどうか、よく考えるべきでしょう。
なお、コンスタントに課税売上が年1000万円超の企業は、どうやっても課税業者ですから、インボイス制度には速やかに対応した方がよいでしょう。