信託銀行使った持ち合い株売却相次ぐ 会計処理に懸念も(記事冒頭のみ)
野村證券らが考えた「株式需給緩衝信託(緩衝信)」というスキームを採用する会社が出てきたが、会計処理が分かれているという記事。
「新スキームは「株式需給緩衝信託(緩衝信)」。野村信託銀行が企業の代わりに大株主から自己株を一括取得し、あらかじめ決めた方法で市場内で売却する仕組みだ。市場での出来高などを見ながら売却タイミングを分散させることで株式需給への影響を軽減する。
導入を想定するのは、流通株式比率の引き上げや政策保有株の縮減などが必要な企業だ。」
会社法の自己株式取得に関する制限・手続を免れる脱法行為のようにもみえますが、野村證券がやっているのだから、その辺の法律上の検討はたぶんなされているのでしょう。
すでに、
- クロス・マーケティンググループ
- ヨシックスホールディングス
- 近鉄百貨店
が導入したのだそうです(クロス・マーケティンググループが第1号のようです)。
記事によると、会計処理に関して、信託が保有する自己株式を、会計上も自己株式とする(その処分も資本取引なので処分時に損益は計上されないし、保有中、時価評価もなされない)のか、資産とするのかという論点があるようです。
「クロスマーケは当初、信託による自己株の売却差損を貸借対照表の「その他資本剰余金」の減少で処理することを想定していた。信託と発行会社を一体とみなす、自己株処分と同様の手続きだ。だが後日、監査法人の見解を踏まえて自己株式でなく投資有価証券として扱う方針に転換。年初からの株価下落もあり、2022年6月期に損益計算書に1億7436万円の売却差損を計上した。
自己株の会計処理に詳しい会計士は「従業員持ち株制度(ESOP)との整合性を取ったのではないか」と指摘する。信託を通じて従業員に自己株を配布するESOPも、会社から信託へ自己株が処分された時点で差損益を認識する。
一方、近鉄百やヨシックスは損益計算書に差損益を計上せず、貸借対照表の純資産の部で処理する方法をとる。」
ESOPとの関係にふれていますが、ASBJの「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」も、基本的には信託が保有している自己株式は、会計上も自己株式としているようです。(記事の「会社から信託へ自己株が処分された時点で差損益を認識」という箇所は間違いでは?)
クロス・マーケティンググループから、会計処理に関するプレスリリースが出ています。
株式需給緩衝信託®における会計処理の確定に関するお知らせ(PDFファイル)
「当社は、本信託の実施による株式の取得及び売却について、「実務対応報告第 30 号 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」における ESOP 信託の会計処理との整合性や、本信託が当社を受益者とする自益信託であることなどに鑑み、総額法により自己株式としての会計処理を想定(※注参照)しておりました。
しかしながら、監査人は、金銭以外の信託として総額法による会計処理を行った上で、本信託が保有する当社株式の法的性質を考慮し、当社株式を「投資有価証券」として連結貸借対照表に計上し、本信託における当社株式の売買差額を連結損益計算書に計上する方法を採用するという見解に至っております。」
具体的な説明はありませんが、「法的性質」というのがポイントなのかもしれません。記事を読む限りでは、実質的には自己株式だと思います。