福島第一原発事故の賠償スキーム案を斬る(注:全文は読めません。)
弁護士で大学教授の郷原信郎氏へのインタビュー記事。東電原発事故の賠償スキームを取り上げています。東電の監査にもふれているので紹介します。郷原氏は、東電の監査人である新日本監査法人にも近いので、(もちろん考え方は違うのでしょうが)気になります。
「 本来、賠償のスキームは、原発事故が収束し、事故原因や事故による損害の規模や範囲が把握でき、東電と政府の責任が明らかにならなければ、決められないはずです。ところが、上場会社としての東電にはそんな悠長なことをいっていられない事情がある。
――それはどういうことですか。
6月の株主総会を控え、監査法人の監査意見が今月末か来月には出され、それが「適正」意見でないと、東電は上場を維持できない。いまのままだと、監査法人は監査意見を出せない。監査法人の意見が出なければ、有価証券報告書を提出できず、東電は自動的に上場廃止になるのです。今回、金融庁が被災地の企業については報告書の提出期限を延長していますが、それは被災によって決算作業自体が困難になった場合に提出期限が猶予されるもので、東電のように震災の影響で決算内容の確定に問題が生じている場合は含まれないと考えられます。監査法人は、賠償債務がどれほど膨らむか分からないから、賠償金の引当をどれだけ積めばいいか分からない。だから、意見を出せない。
銀行などの金融機関の東電への融資の債務者区分の問題もあります。もし仮に、東電が「破綻懸念先」ということになったら、融資した銀行側は相当額を引当しなければならない。その点がはっきりしないと、金融機関側の監査法人が監査意見を出せない。東電への膨大な額の貸付金の引当をするとなると銀行の決算にも重大な影響が生じます。東電処理問題は経済界全体に及ぶ。
――市場規律の観点からすれば、事実上、債務超過になることが確実な企業は破綻処理し、市場から退場させるべきなのでしょうか。
破綻処理の中で一番、透明性のある法的整理を行った場合、株式や社債は紙くずになり、融資もほとんどが回収不能になります。東電は規模が大きいから、破綻処理すると、大手の金融機関を破綻処理する以上の金融市場の混乱が予想される。そういう事情があるので、破綻処理ができないのではないでしょうか。
だから、東電を存続させ、社債、融資は東電に返済させる。賠償も東電自身に行わせる。そのためには巨額の資金がいる。東電ではまかないきれないからそれを国と他の電力会社などが出す。
これは、金融危機で、金融システム安定のため、国と銀行が預金保険機構を通じて「公的資金」としてカネを注ぎ込んだのと同じ構図です。政府案の「機構」は、預金保険機構がモデルでしょう。
そして、国その他への返済は、時間をかけて、高額の電気料金を国民・ユーザーから取って埋め合わせる。こちらは、金融機関が傷んだ分を、長期の低金利政策を継続することで一般庶民に負担させた金融危機乗り切りのスキームと同じです。」
全体としては、このとおりだと思いますが、破綻したからといって、株式はともかく、社債や融資は、東電に資産が残っている限り、紙屑にはなりません。「「適正」意見でないと、東電は上場を維持できない」というのも、証券取引所が震災対応でルールを緩和しているので、あてはまりません(東電のようなケースが例外措置の対象かどうかというのは取引所の判断でしょう)。さらには、「意見不表明」という奥の手もあります。
「――監査法人が「適正意見」を書くためには、何らかの「保証」が必要です。政府案は、それを意識したものではないのでしょうか。
本来であれば、被害者から膨大な額の賠償債務の支払いをいつ求められてもおかしくないわけで、それによって債務超過になる恐れがあるということになると、監査法人は意見を書けません。そこで、機構を作って、そこに資金を集めて、東電を資金面で支援するスキームを確定させることで、東電が債務超過にならないようにしようということでしょう。
とはいえ、東電の賠償債務負担のための政府案は、今の世の中の東電に対する風当たりの強さからすると、簡単には決められないのではないでしょうか。そうこうしているうちに監査法人の意見が出なければ、東電は自動的に上場廃止になる。それは、現在の東電という会社の状況を考えたら当然です。
むしろ、東電の株式が上場されていること自体が問題なのです。現在の東電の株価は企業価値を反映したものではありません。政府の救済スキームをめぐる思惑だけで動いている賭博的な相場です。」
少なくとも理屈からすると、債務超過になるから監査意見が出せないということはあり得ません。会計基準に従って決算を行って、その結果、債務超過になるのであれば、それに対して、意見を表明するだけの話です。
また、「資金面で支援する」といっても、債務超過回避に役立つのは、増資をした場合だけです。単なる融資や債務保証も資金面での支援ですが、純資産は増えないので、債務超過を避けることにはなりません。
いずれにしても、東京電力の2011年3月期本決算やそれ以降の四半期決算の決算は、非常に政治的なものとなっており、監査人にも各方面から圧力がかかっているのではないかと推測されます。監査人には、ぜひ、中立的な立場で、正しい監査を行っていただきたいと思います。
FACTA:復興財源と原発賠償のまやかし(1)(音声入り動画)
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東電原発事故を事業継続計画の観点から評価すると・・・
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