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IFRSの拡大と会計の変質(3) 資産・負債を時価で表示(日経より)

IFRSの拡大と会計の変質(3) 資産・負債を時価で表示(記事冒頭のみ)

日経の「やさしい経済学」でIFRSを取り上げています。「時価会計不況」などの著者である田中弘 神奈川大学名誉教授が書いています。

冒頭から、引っかかるのですが...

「国際会計基準(IFRS)では、資産と負債について「公正価値(時価)」を評価基準としています。この「時価」は、資産の場合は「売ればいくらか」(売却時価)、負債は「今返すならいくらになるか」(即時清算価値)を指します。」

IFRSで時価が原則なのは、金融商品だけでしょう。金融商品でも、ローン債権・債務、社債などは、償却原価法(+資産については減損)が適用されることが多いと思います。棚卸資産や有形・無形固定資産は、原価基準(+償却や減損処理)です。固定資産については再評価も認められていますが、日本のIFRS適用会社で固定資産の再評価をやっている会社はないでしょう。

金融危機の原因についても、大胆な決めつけがなされています。

「評価損益の計算に使う「公正価値(時価)」は、市場価格がない場合には「企業自身のデータに基づく見積もり額」も使えます。これをデリバティブ(金融派生商品)など「本当の時価」が不明なものに適用したことが前回の国際金融危機の一因でした。」

たしかに、時価会計が金融危機の影響を増幅させたのではないかという議論はあるようですが、田中教授のようなまとめが、学界の定説なのでしょうか。そもそも、金融危機の発端は、デリバティブというよりは、証券化によって、リスクの高い資産が、リスクが低い安全な資産のように仕立てられ、それを金融機関や投資家が大量に買ってしまったという点にあると思われます。リスクの高い(価値の低い)資産を高い値段で実際に買ってしまった(買った値段(原価)は買ったときの時価)わけですから、評価方法が時価か原価かという問題ではないでしょう。

また、デリバティブに時価を適用することも批判しているように読めますが、多くの日本企業がデリバティブを時価評価しなかったために、損失計上が遅れ、大損を出したという歴史を無視した考え方のように思われます。

最近、「腐った翼」という本の文庫版を読みましたが、日本航空が為替予約(これもデリバティブの一種です)で大損した(しかし損失は飛行機の原価に含めてしまったので破綻のときまで表面化しなかった)話が出ています(92ページ~)。

田中教授は、文章が読みやすいのはよいとして、IFRSやIFRSの影響を受けた日本の会計基準の悪口で溜飲を下げるというタイプの本や論説が多いように思われます。

せっかく一般向けにIFRSを紹介するのなら、もっと適任の学者はいなかったのでしょうか。
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