岸田政権の「新しい資本主義」の実行計画案が公表されたという記事。
「金融市場を重視した内容も盛り込まれた」とのことです。
会計に関係のありそうな項目を拾うと...
「スタートアップが非上場のまま成長に時間をかける環境を整備するため、私設取引システム(PTS)で非上場株式をプロ投資家向けに取り扱うことを可能とするなどの制度整備を行う。」
「投資家保護に配意しつつ、M&Aを目的とする公募増資の円滑化に向け、来年の夏までに公募増資ルールの見直しを図る。原則1年以内のM&A実行や、されなかった場合の代替使途の公表を求めている日本証券業協会の自主規制が同目的の公募増資を制限との指摘も。」
「人的資本をはじめとする非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化する。 参考となる人的資本可視化指針を本年夏に公表し、年内に金融商品取引法上の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針などを表現する指標や目標の記載を求め、非財務情報の開示強化を進める。金商法上の四半期報告書も廃止し、取引所の四半期決算短信に一本化する。」
「SPAC(特別買収目的会社)を導入した場合に必要な制度整備について、グローバル・スタンダードを踏まえ、投資家保護に十分に配慮しつつ検討を進める。」
「セキュリティートークン債(デジタル債)での資金調達機会を拡大させ、個人に投資機会を提供し、私設取引システムでも扱えるよう速やかに制度整備を行う。」
「新型コロナ後に向けた企業の事業再構築を容易にするため、新たな事業再構築のための法制度を検討し、早期に国会に提出する。」
成長へ投資促す改革 「新しい資本主義」案、人・技術重点
「分配強調」薄れる 骨太方針案は「防衛力を抜本強化」(日経)
「新しい資本主義」実行計画案 「資産所得倍増プラン」策定へ(NHK)
これのことのようです。
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)~人・技術・スタートアップへの投資の実現~(PDFファイル)(内閣官房「新しい資本主義実現会議(第8回)」より)
関連項目を拾うと...
多様性の尊重と選択の柔軟性 9ページ
「②男女間の賃金差異の開示義務化
正規・非正規雇用の日本の労働者の男女間賃金格差は、他の先進国と比較して大きい。また、日本の女性のパートタイム労働者比率は高い。男女間の賃金の差異について、以下のとおり、女性活躍推進法に基づき、開示の義務化を行う。
・情報開示は、連結ベースではなく、企業単体ごとに求める。ホールディングス(持株会社)も、当該企業について開示を行う。
・男女の賃金の差異は、全労働者について、絶対額ではなく、男性の賃金に対する女性の賃金の割合で開示を求めることとする。加えて、同様の割合を正規・非正規雇用に分けて、開示を求める。
(注)現在の開示項目として、女性労働者の割合等について、企業の判断で、更に細かい雇用管理区分(正規雇用を更に正社員と勤務地限定社員に分ける等)で開示している場合があるが、男女の賃金の割合について、当該区分についても開示することは当然、可能とする。
・男女の賃金の差異の開示に際し、説明を追記したい企業のために、説明欄を設ける。
・対象事業主は、常時雇用する労働者301人以上の事業主とする。101人~300人の事業主については、その施行後の状況等を踏まえ、検討を行う。
・金融商品取引法に基づく有価証券報告書の記載事項にも、女性活躍推進法に基づく開示の記載と同様のものを開示するよう求める。
・本年夏に、制度(省令)改正を実施し、施行する。初回の開示は、他の情報開示項目とあわせて、本年7月の施行後に締まる事業年度の実績を開示する。」
人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整備 10ページ
「「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進め、新しい資本主義が目指す成長と分配の好循環を生み出すためには、人的資本をはじめとする非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化していくことが必要である。
米国市場の企業価値評価においては、無形資産(人的資本や知的財産資本の量や質、ビジネスモデル、将来の競争力に対する期待等)に対する評価が太宗を占める。これに対し、日本市場では、依然として有形資産に対する評価の比率が高く、企業から株式市場に対して、人的資本など非財務情報を見える化する意義が大きい。本年内に、金融商品取引法上の有価証券報告書において、人材育成方針や社内環境整備方針、これらを表現する指標や目標の記載を求める等、非財務情報の開示強化を進める。
他方で、日本の上場企業のCFOに対するアンケート調査によると、サステナビリティ情報開示に向けた課題として、「モニタリングすべき関連指標の選定と目標設定」、「企業価値向上との関連付け」、「必要な非財務情報の収集プロセスやシステムの整備」と回答した企業が多い。
このため、企業側が、モニタリングすべき関連指標の選定と目標設定、企業価値向上との関連付け等について具体的にどのように開示を進めていったらよいのか、参考となる人的資本可視化指針を本年夏に公表する。
また、今後、資本市場のみならず、労働市場に対しても、人的資本に関する企業の取組について見える化を促進することを検討する。
人的資本以外の非財務情報についてもその開示は重要であるので、価値協創ガイダンス等の活用を企業に推奨していく。」
スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進 14ページ
「創業時に信用保証を受ける場合に経営者の個人保証を不要にする等の制度の見直し
起業に関心がある層が考える失敗時のリスクとして、8割の方が個人保証を挙げている。創業時に信用保証を受ける場合には、経営者による個人保証を不要にする等、個人保証の在り方について見直す。
すなわち、経営者による個人保証を徴求しない創業時の新しい信用保証制度を創設する等、金融機関が個人保証を徴求しない創業融資の促進措置を講じる。
さらに、今後の中小企業金融の方向性について検討を行い、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策を本年度内に取りまとめる。」
「IPOプロセスの改革実行とSPACの検討
日本におけるIPO1件当たりの調達額は、米国の3億ドル、欧州の2億ドルと比べて、0.6億ドルと小さい27。また、日本のIPOでは、初値(上場初日に市場で成立する株価)が公開価格(上場時に起業家が株を売り出す価格)を大幅に上回っている(+49%)。このため、IPOによる起業家の資金調達額が相対的に小さい。
今回、スタートアップ企業の成長を積極的に支援していく観点から、本年4月にIPOプロセスの見直しを図ったところであり、これに基づき、証券業界や競争当局による改革を実行する。
SPAC(特別買収目的会社)に関しては、導入した場合に必要な制度整備について、グローバル・スタンダードを踏まえて、投資家保護に十分に配慮しつつ検討を進める。」
「事業化まで時間を要するスタートアップの成長を図るためのストックオプション等の環境整備
ディープテックなど事業化まで時間を要するスタートアップや、グローバル展開を含め長期間をかけて大きな成長を目指すスタートアップを後押しするため、ストックオプション等の環境整備について検討する。
「社会的課題を解決するスタートアップの環境整備として法人形態の在り方の検討
若い世代は、スタートアップの創業を検討する際、環境問題や子育て問題等の社会的課題の解決を目的にすることが多くなってきている。いわゆる社会的起業家の起業をサポートする観点から、民間で公的役割を担う新たな法人形態の創設を検討する。」
「未上場株のセカンダリーマーケットの整備
スタートアップが拙速に上場(IPO)することを強いられないよう、非上場のまま、時間をかけて成長することもできる環境を整備する。このため、既存株主が容易に発行済み株式を取引(セカンダリー取引)できるようにすることが重要である。
米国では、プロ投資家を対象に、民間事業者による発行済み非上場株式の売買をマッチングするオンラインプラットフォームが複数存在する。
このため、プロ投資家の対象範囲を拡大するとともに、証券取引所を通さず、証券会社が運営するシステムを使用して取引所のように取引できる私設取引システム(PTS)において、プロ投資家向けに非上場株式を取り扱うことを可能とする等の制度整備を行う。」
「投資家保護に配意しつつ、M&Aを目的とする公募増資の円滑化に向け、来年の夏までに公募増資ルールの見直しを図る。すなわち、上場企業がM&Aを目的として公募増資を行う場合、原則1年以内にM&Aを実行することや、実行されなかった場合の代替使途を公表することが日本証券業協会の自主規制において求められている。こうした自主規制がM&Aを実行するための公募増資を制限しているとの指摘がある。」
「新しい資本主義への変革の中で、価格競争による過当競争で短期的な収益を得ようとする企業行動から脱却する。このため、320兆円ある企業の現預金を活用して、重要分野への集中的な投資や研究開発を進めることで長期的な企業価値の向上を達成できる日本企業を目指す。引き続き企業統治改革を進めるとともに、投資家とのコミュニケーションの円滑化を図るため、開示制度の充実を進める。」
GX(グリーン・トランスフォーメーション)及びDX(デジタル・トランスフォーメーション)への投資 19ページ
「国による大規模かつ中期・戦略的な財政出動等を呼び水として、世界のESG資金を呼び込む。グリーン・ファイナンスの拡大に加え、トランジション・ファイナンスや、イノベーション・ファイナンス等の新たな金融手法を組み合わせる。
企業の情報開示の充実に加え、ESG評価機関の信頼性向上やデータ流通のための基盤整備等を行う。」
民間で公的役割を担う新たな法人形態・既存の法人形態の改革の検討 24ページ
「欧米では、ベネフィットコーポレーション等の新たな法制度が整備されつつある39。米国では、2010年から2017年までの間に7,704社のベネフィットコーポレーションが設立されており、全米に広く拡大した40。ベネフィットコーポレーションへの投資額も、5年間で6倍に、1件当たりの投資額も4倍に増加している。投資家も、インパクト投資家だけでなく、通常の利益追求型の投資家も投資を行っている。
新たな官民連携の形として、このような新たな法制度の必要性の有無について検討することとし、新しい資本主義実現会議に検討の場を設ける。あわせて、民間にとっての利便性向上の観点から、財団・社団等の既存の法人形態の改革も検討する。」
金融市場の整備 32ページ
「四半期決算短信
金融商品取引法上の四半期報告書を廃止して、取引所の四半期決算短信に「一本化」することとし、具体策を本年内に検討した上で、関連法案を提出する。」
「事業性融資への本格的かつ大胆な転換
DXやGX等に伴う産業構造の変化が生じている中、工場等の有形資産を持たないスタートアップ等にとっては、不動産担保や個人保証なしに融資を受けることは難しく、また、出資による資金調達だけでは経営者の持分が希薄化するため、成長資金を経営者の意向に応じて最適な方法で調達できるよう環境整備することが必要である。
こうした観点から、金融機関には、不動産担保等によらず、事業価値やその将来性といった事業そのものを評価し、融資することが求められる。スタートアップ等が事業全体を担保に金融機関から成長資金を調達できる制度を創設するため、関連法案を早期に国会に提出することを目指す。」
唐突な「資産所得倍増」計画、実現は53年後? 岸田首相の「新しい資本主義」の恩恵は富裕層へ集中か(東京)
「首相は昨年9月の自民党総裁選で、「令和版所得倍増」を掲げて勝利した。だが、その後の衆院選の公約や所信表明演説では所得倍増の方はトーンダウンした。代わりに、5月5日になって突然、外遊先のロンドンで表明したのが「資産所得倍増プラン」だった。」
最近の「企業会計」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2000年
人気記事