3月28日に開催された企業会計審議会の議事録が公開されています。
ひとつの会合ですが、ほぼ前半が総会(会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会の説明と、監査をめぐる国際的な動向)、後半が監査部会(監査報告書の記載事項の見直し)となっています。
懇談会の説明(八田委員)より。まず、守秘義務について。
「本懇談会における議論の最も重要なポイントの1つが、監査人の守秘義務に関する部分です。報告書では、我が国では、監査人の守秘義務が過度に強調されており、監査人が財務諸表利用者に対して説明を行う上で障害となっている可能性があると述べた上で、公認会計士法上の守秘義務、同法第27条の考え方について、「公認会計士法においては、守秘義務の対象となるのは企業の『秘密』に当たるものとされており、未公開の情報全てが含まれるわけではない。また、仮に『秘密』に該当する情報についても、財務諸表利用者に対して監査人が必要な説明・情報提供を行うこと、特に無限定適正意見以外の場合に、監査人の職業的専門家としての判断の根幹部分である当該意見に至った根拠を説明する上で、必要な事項を述べることは、『正当な理由』に該当する」と明確に記述いたしました。」
交代理由の開示について。
「報告書では、まず、監査人の任期が通常1年で終了することからすれば、監査人の異動に係る臨時報告書において「任期満了」との交代理由を記載することは不適切であるとの考え方を明確に示しました。
また、「監査報酬や会計処理に関する見解の相違」といった事情がある場合に関しては、企業側と監査人側の具体的な対立点を含め、実質的な内容を開示すべきである、といたしました。
この、交代理由の開示に関しては、報告書の記述を踏まえ、既に東証から「監査人交代時の適時開示では、実質的な交代理由及び経緯を記載することと」旨の通知が発出されたとのことであり、今後、金融庁においても必要な対応を行う予定であると承知しております。」
これについては、開示府令やガイドラインの改正案が先日公表されています。
監査をめぐる国際的な動向については、英国の動向について事務局から比較的詳しく説明がなされたようです。金融庁もある程度関心を持っているということでしょう。
「足元の議論のポイントは2点ございます。1点目は、監査市場では監査品質の向上に向けた競争原理が十分に機能していないのではないかという指摘でございます。これにつきましては、英国の競争当局であります競争・市場庁(CMA)が、昨年10月に市場環境調査に着手しまして、競争環境の課題の洗い出しと、その改善策を検討しております。
もう1点は、規制当局であります財務報告評議会(FRC)が十分に役割を果たせていないのではないかという批判でございます。こちらについては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省からの委託を受けまして、イギリスのリーガル・アンド・ジェネラル社のチェアマンのジョン・キングマン氏が、FRCの組織体制や権限等に関する見直しを行って、改革提案をまとめております。」
国際監査基準等の設定主体に関するガバナンス改革についてもふれています。
「国際監査基準等の設定主体、IAASBとIESBAにつきまして、国際会計士連盟(IFAC)から組織上・資金上の影響を受けている点について、独立性確保の観点から、ガバナンス構造の見直しが検討されている」とのことです。会計士による組織だけで監査基準などを決めるのはおかしいという話でしょうか。
監査部会の方の論点は3つあります。
「第1点は、昨年7月の監査基準の改訂を踏まえた、中間監査・四半期レビュー報告書の記載内容の見直しでございます。2点目は、先ほどの会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会報告書を踏まえた対応についてでございます。3つ目が、前回の監査部会において、引き続き検討を行うということにされておりました、その他の記載内容に関する監査人の対応でございます。」
「監査報告書の記載事項の見直しについて」という会議資料に、まとめられています。
中間監査・四半期レビュー報告書について。
「年度の監査報告書と同様に、冒頭に「中間監査意見」を記載する、新たに「意見の根拠」の区分を設ける、「経営者の責任」を「経営者及び監査役等の責任」に変更するほか、記載順序の変更をしております。
続きまして、四半期レビュー報告書も同様でございまして、冒頭に「監査人の結論」を記載する、新たに「結論の根拠」の区分を設ける等の変更案をお示ししております。」
懇談会報告書を踏まえた対応について。まず、限定付意見のときの監査報告書の記載が少し変わるようです。
「充実懇の報告を踏まえ、なぜ適正ないしは不適正ではなくて、限定付適正意見と判断したのかについて、十分かつ適切な説明を求めるために、枠囲いの赤字の改訂案を作成しております。」

(会議資料より)
これに対しては会計士協会の委員は消極的です。
「今回ご提案いただいているこの赤字の、除外事項を付した限定付適正意見とした理由というのは、そもそもその前段の部分、意見限定の場合ですと、意見の根拠部分に、除外した不適切な事項とか財務諸表に与えている影響を書けというふうになっているわけですが、本来そこで説明されているべきはずのことであろうと思います。従って、内容が重なっている文言をつけ足しているような印象を持って捉えております。
このような点は、監査基準の問題としてということではなくて、もう少し実務的なレベルで、監査人に、もっと利用者にわかりやすく除外事項をつけた原因、理由を書くようにという指針なりを協会で出すということでも、十分対応可能なのかなと感じているところでございます。」(住田委員)
また、守秘義務に関して、「秘密」という言葉に換えるようです。
「守秘義務の対象となるのはあくまで企業の秘密に当たるものであり、未公表の情報全てを含むものではないということを明確にし、企業に関する未公表の情報について、あらゆるものが守秘義務の対象になり得るとの誤解を少しでも解消するため、監査基準の守秘義務の対象を現行の「業務上知り得た事項」ではなくて、「業務上知り得た秘密」に改訂してはどうかというご提案でございます。」
学者の委員からは、そのそも規定が不要という意見も...
「おそらく監査論の研究者のほぼ総意に近い形で、この監査基準第二一般基準8は不要であると言うのが理論的な理解です。なぜならば、監査基準第二一般基準の3にある正当な注意の基準の範囲に守秘義務の規定は含まれるため、重複に過ぎない規定だという理解です。」(町田委員)
その他の記載内容に関する監査人の対応について。(現行基準では、監査した財務諸表を含む開示書類における、財務諸表以外の「その他の記載内容」のことですが、どういう開示書類を対象とするかも論点になっているそうです。)
国際監査基準(ISA720)の改正について説明しています。
「対象書類につきましては、従来は「監査済み財務諸表を含む書類」というものが広く対象にされていたのですが、改訂後は、...基本的に年次報告書ベースとされておりまして、目論見書を含む証券発行に関する書類は対象外とされております。」
「従来は「通読」、readして重要な相違の有無を「特定」、identifyするというような枠組みとなっていたのですが、改訂後は、通読だけではなくて「検討」、considerするというのが新たに求められているところでございます。
considerの対象としまして2つございまして、1つ目としましては、「その他の記載内容」と財務諸表との間に重要な相違があるかどうかということでございます。2点目は、監査において入手した監査証拠と到達した結論の観点から、「その他の記載内容」と監査人が監査の過程で得た知識との間で重要な相違があるかどうかというものが規定されております。
さらに、...監査人は上記のような通読に際して、財務諸表や監査人が監査の過程で得た知識に直接関連しない情報、例として温室効果ガスの排出量などが挙げられておりますが、そういったものについても、重要な虚偽であるとの証拠がないかについて注意を払うということが求められているものでございます。」
経済界の委員の発言を読むと、これにより、監査対象が非財務情報にまで広がっていくことを懸念しているようです。
それに対して、財務情報利用者側の委員からは、チェックに含める方向で議論すべきという意見が出ています。
「私もISA720についてなのですが、利用者の立場としましては、有価証券報告書の前段部分について、会計監査人にチェックしていただくことについては、前向きな方向で議論をお願いしたいと考えております。」(大瀧委員)
そのほかにも、何人かの委員から、非財務情報を監査人の保証の対象とするかどうか(それを目指すかどうか)について賛否両論があったようです。(ISAの改正はそこまでいくような話ではないのですが)
議題から少し離れているような気もしますが、日産ゴーン事件を意識したような発言もありました。
「やはり非財務情報というのは重要になってくるとは思うのですが、その中でも、やはり財務諸表とのかかわりが出てくる部分というのもやはり出てくると思います。その中では、最近注目を集めております役員報酬などがいい例かと思います。例えば退職慰労金ですと、長期間にわたってどういう引当処理をするかというお話になって、それが正しく記載されているのかどうかというのは、やはり財務諸表ともかかわってくるのではないかというものです。それがある一方、近時、注目されております顧問相談役報酬、これを在職中に、やめた後に顧問になってくださいという契約なのであれば、これは退職慰労金なのかどうなのか、とまた別の問題があって、更にそこは会計処理をするのか、しないのか、という問題になると思います。こういったところはやはり財務諸表の処理の関係とガバナンスの関係、これがつながってくるということになろうかと思います。
また、業績連動報酬の開示府令改正でも対象となっておりますが、こちらにつきましても業績連動報酬の方針ですとか考え方、これが会計処理に適切に反映されているのかどうか、こういった点からも矛盾がないかどうかを確かめるといった意味では、やはりここは監査人の方にも見ていただいて、財務諸表との矛盾がないかどうかというところの大きな要点かなと思います。」(中西委員)
会議資料などはこちらから。
↓
当サイトの関連記事