監査法人にESGとAIの衝撃 投資先行、「IPO難民」も(記事冒頭のみ)
監査や監査業界を取り上げた日経の連載の2回目。
「野村総合研究所は2023年3月期の有価証券報告書でサステナビリティー情報の保証を得たことを初めて開示した。EY新日本監査法人から取引先を含む温暖化ガス排出量などの開示にお墨付きを得た。上場企業で保証を取得するのは少ない。「脱炭素の取り組みの信頼向上につなげたい」と野村総研の伊吹英子サステナビリティ推進部長は話す。」
サステナ情報の保証業務、AI監査への投資などの対応で、監査法人は余裕がなくなり、負担が大きいIPO監査を敬遠、打開策として監査法人再編がある、といったストーリーです。
具体的には...
・監査法人にとってはサステナビリティ保証はビジネスチャンスだが、専門人材増強や会計士の学び直しで大幅なコスト増になる。規模の小さな監査法人ほど対応が難しい(学者コメント)。
・AI監査も監査業界に変革を迫っている(あずさ監査法人が試験導入したAI監査の結果を紹介)が、今は投資が先行している段階。
・監査法人は余裕がなくなり、すでに業務負担が大きいIPO監査を敬遠し始めている。監査難民が生まれかねない。
・打開策のひとつが監査法人再編(あらた京都の合併を例に挙げている)。
といった内容です。
サステナ保証はビジネスチャンスなのでしょうが、会計士にとっておもしろい業務なのでしょうか。開示の保証という意味では、会計監査と同じですが、それ以外では、会計士の関心領域とあまり重ならないような気もします。だからこそ、リスキリング(学び直し)が必要ということになるのでしょうが...
金融庁の課長とあずさ監査法人の理事長にインタビューしています。
「監査法人は規模問わず品質確保を」 野崎金融庁課長(日経)(記事冒頭のみ)
一部の中小法人はトップの品質管理意識が十分ではない、大手でも誤表記問題など管理体制の問題がある、改正公認会計士法で導入された上場会社監査人登録制度などを通じて、法人規模を問わず監査品質確保に取り組む、(監査法人の合併については)各法人の戦略や業務運営体制による、小規模ならではの持ち味もあるだろう、各企業に適した監査の担い手がいることが望ましい資本市場の姿、監査報酬は多くの要因で決まり、一概に比べるのは難しい、サステナ関係では欧州が今年から新しい開示制度を始め保証もやると決めている、(日本でも)保証のあり方を今後議論する、といった内容です。品質が低い弱小監査法人は退場せよ、といったことは述べていません。ただし、従来会計士協会の制度だった上場会社監査人登録制度をわざわざ法律化した以上、その成果を示すため、監査難民が生じないような範囲で、厳しい処分をやるような気もしますが...
「会計士の業務3割減らす」 山田あずさ監査法人理事長(日経)(記事冒頭のみ)
あずさでは、足元の退職者数は一年前比で3割減、会計士以外や補助者を含め中途採用も積極化、(会計士の役割が増えることについては)会計士の業務時間を3割減らすことを目指して施策を打っている、テクノロジーで自動処理したりアシスタントに代替してもらったりする、(監査報酬は)提供する価値を評価してもらい、それに見合う適正な報酬をもらう、(監査と非監査の事業分離については)多様な専門領域を抱えるモデルがベスト、といった内容です。会計士の業務時間を3割減らすことができるのなら、業務拡大のために、会計士を大勢増やす必要はないのでしょう。