東京電力の2011年3月期決算に、継続企業の前提に関する追記がついた適正意見が出たようです。
「・・・「新日本監査法人」は、適正であるという意見を表明しながらも企業の将来性に不確実性があるという注意書きをつけた監査報告書を、東京電力側に提出しました。」
決算短信で継続企業の前提に関する注記が付いていたので、予想されたことです。追記だけか、意見不表明までいくのかもめているという報道もなされていましたが、穏当な結論を選んだようです。
2年前の監査基準改正がこんなところで効いてくるとは、だれも考えなかったことでしょう。(もっとも、継続企業の前提を適用して財務諸表を作成することが認められるかどうかの判断規準まで、2年前の改正で変わったのかどうかはよくわからないのですが・・・)
企業会計審議会の意見書の公表について(2009年4月10日)
2009年改正の前文より
「現行の報告基準において、重要な疑義を抱かせる事象又は状況が存在している場合において、経営者がその疑義を解消させるための合理的な経営計画等を示さないときには、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じ、意見の表明の適否を判断することとされている。この規定については、疑義を解消できる確実性の高い経営計画等が示されない場合には、監査人は意見を表明できないとの実務が行われているとの指摘がある。今般、国際的な実務をも踏まえ同規定を見直し、経営者が評価及び一定の対応策も示さない場合には、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手できないことがあるため、重要な監査手続を実施できなかった場合に準じ意見の表明の適否を判断することとした。 」
「経営者が(継続企業の前提に関して)評価及び一定の対応策も示さない場合には、監査人は十分かつ適切な監査証拠を入手できないことがある」ということは、経営者が評価及び一定の対応策(確実性の高いものでなくても?)を示していれば、必ずしもそうではないということになります。
(補足)
東電のホームページにこの件に関するプレスリリースが掲載されています。
平成23年3月期計算書類等に係る監査報告書受領に関するお知らせ(PDFファイル)
プレスリリースでは追記情報の内容も掲載されています。
項目1は、継続企業の前提に関する追記です。
項目2~4は、見積りに関する追記です。
賠償金については「賠償額を合理的に見積ることができないことなどから、計上していない」と述べています(項目2)。
「原子力発電所の廃止措置の実施」(具体的なロードマップを示していない中長期的課題に係る費用または損失)や「1~4号機の解体費用」については「現時点の合理的な見積りが可能な範囲における概算額を計上している」と述べています(現時点の合理的な見積りが可能でない範囲は計上していないということになるのでしょう)。
東電の11年3月期決算、監査法人が適正意見(日経)
東電決算に監査法人「継続企業の前提に疑義」(読売)
(補足2)
東電のプレスリリースで受領したと言っているのは、会社法監査の監査報告書です。会社法監査の対象は、20日に公表された決算短信ではなく計算書類と連結計算書類ですが、東電のサイトにはそれらは掲載されていない模様です。
監査報告書は、本来、監査の対象となっている財務諸表とセットで利用されるべきものですから、監査報告書単独で、しかもその一部を引用して開示するのは、不適切です。監査人もそのような監査報告書の利用方法を認めるべきではありません。
例えば、プレスリリースで無限定適正であると言っている財務諸表が20日に公表された決算短信と一致しているという保証は何もありません。むしろ、内容・形式とも一致しないのが普通です(さすがに利益の金額が違うことはないとは思いますが、形式はもちろん、注記の書き方なども違っていて不思議ではありません)。
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