金融庁は、「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告-中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて-」を、2022年6月13日付で公表しました。
「金融審議会では、2021 年6月の金融担当大臣からの諮問を受けてディスクロージャーワーキング・グループ...を設置し、
I. サステナビリティに関する企業の取組みの開示
II. コーポレートガバナンスに関する開示
III. 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
IV. その他の開示に係る個別課題
について、2021 年9月から9回にわたり審議を行った。本報告は、当ワーキング・グループにおける検討の結果をとりまとめたものである。」(「はじめに」より)
40ページほどの報告書です。全1ページの概要がついています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/ce/6c7ac6721f8d2be208f13b35e819b0f7.png)
(概要より)
以下、報告書より。
Ⅰ.サステナビリティに関する企業の取組みの開示
1.サステナビリティ全般に関する開示
「(i)有価証券報告書において、サステナビリティ情報を一体的に提供する枠組みとして、独立した「記載欄」を創設すること
(ii)我が国におけるサステナビリティ開示に関する情報集約や分析、国際的な意見発信、さらには具体的開示内容の検討を行うための体制整備を進めること
(iii)有価証券報告書以外の任意開示等において、企業の創意工夫を生かしつつ、気候変動対応をはじめとするサステナビリティ開示の質と量の充実が進むよう企業を促すとともに、投資家も含め、サステナビリティ開示の適切な評価・分析、さらにはそれを活用した対話が進むよう促すこと
といった取組みを並行して進めることが重要である。」
「今後、サステナビリティ開示の充実を進めるに当たっては、企業価値に関連した投資家の投資判断に必要な情報が開示されるよう、金融庁において、国際的な動向も踏まえつつ、「記述情報の開示に関する原則」を改訂すべきである。」
「企業においては、「記述情報の開示に関する原則」を踏まえて、自らが「重要性」をどのように評価しているのかが伝わる開示が必要となる。」
「「記載欄」には、国際的なフレームワークと整合的な「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの構成要素に基づく開示を行うこととし、
・ 企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点から、「ガバナンス」と「リスク管理」は全ての企業が開示する
・「戦略」と「指標と目標」は、開示が望ましいものの、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の枠組みを通じて重要性を判断して開示する
こととすべきである。」
「海外では、サステナビリティ情報を財務情報と併せて開示することが想定されていることを踏まえると、日本においても将来的にはサステナビリティ情報が記載された書類の公表時期を揃えていくことが重要であり、実務的な検討や環境整備を行っていくことが考えられる。」
2.気候変動対応に関する開示
「現時点においては、有価証券報告書に設けるサステナビリティ情報の「記載欄」において、企業が、業態や経営環境等を踏まえ、気候変動対応が重要であると判断する場合、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の枠で開示することとすべきである。」
「各企業の業態や経営環境等を踏まえた重要性の判断を前提としつつ、特に、Scope1・Scope2の GHG 排出量について、企業において積極的に開示することが期待される。」
3.人的資本、多様性に関する開示
「投資家の投資判断に必要な情報を提供する観点から、人的資本や多様性に関する情報について以下の対応をすべきである。
(i)中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」(多様性の確保を含む)や「社内環境整備方針」について、有価証券報告書のサステナビリティ情報の「記載欄」の「戦略」の枠の開示項目とする
(ii)それぞれの企業の事情に応じ、上記の「方針」と整合的で測定可能な指標(インプット、アウトカム等)の設定、その目標及び進捗状況について、同「記載欄」の「指標と目標」の枠の開示項目とする
(iii)女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差について、中長期的な企業価値判断に必要な項目として、有価証券報告書の「従業員の状況」の中の開示項目とする」
「開示する際には、投資判断に有用である連結ベースでの開示に努めるべきであるが、最低限、提出会社及び連結会社において、女性活躍推進法、育児・介護休業法に基づく公表を行っている企業は有価証券報告書においても開示することとすべきである。」
(そのほか、「サステナビリティ情報に対する信頼性確保」については、「中期的に重要な課題として検討」とのことです。)
Ⅱ.コーポレートガバナンスに関する開示
1(省略)
2.取締役会、指名委員会・報酬委員会等の活動状況
「取締役会、委員会等の活動状況の「記載欄」を有価証券報告書に設けるべきである。」
「当該「記載欄」においては、個々の上場企業により取締役会と執行部門との関係や委員会等の役割や権限に幅があることに鑑み、監査役会等の活動状況の開示と同様、まずは、「開催頻度」、「主な検討事項」、「個々の構成員の出席状況」を記載項目とすべきである。」
3.監査の信頼性確保に関する開示
「現在の有価証券報告書の枠組みの中で、
(i)監査役又は監査委員会・監査等委員会の委員長の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明
(ii)KAM についての監査役等の検討内容
を開示することが望ましい。」
「内部監査体制の基本的な情報は投資家にとっても有用と考えられることから、有価証券報告書において、
(iii)デュアルレポーティングラインの有無を含む内部監査の実効性の説明
を開示項目とすべきである。」
(KAMは監査人がその責任で記述するものですから、監査役等に検討してもらう必要はないはずですが)
4.政策保有株式等に関する開示
「政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明については、有価証券報告書の開示項目とすべきである。」
「政策保有株式の議決権行使の基準についても、例えば、「記述情報の開示の好事例集」等を通し、積極的な開示を促すべきである。」
Ⅲ.四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング
1.四半期開示
「上場企業についての法令上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所の規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが適切と考えられる。」
「法令上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、四半期決算短信への一本化を進めるに当たっては、以下をはじめとする課題についての検討が必要であり、当ワーキング・グループにおいて引き続き議論を深めていく。
・ 全部又は一部の上場企業を対象とした四半期決算短信の義務付けの有無をどう考えるか
・ 四半期決算短信の開示内容については、従来、速報性の観点から簡素化されてきた経緯がある中、「一本化」に当たり、その内容をどう見直すか
・ 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントの手段をどう確保するか。
この点に関し、四半期決算短信を金融商品取引法に基づく臨時報告書として開示することにより法令上のエンフォースメント手段を確保するとの対応策についてどう考えるか
・ 四半期決算短信に対する監査法人によるレビューの必要性についてどう考えるか
・ 第1・第3四半期報告書の廃止後に上場企業が提出する「半期報告書」に対する監査法人の保証のあり方についてどう考えるか(「レビュー」、「中間監査」)」
「四半期開示は、年度の業績報告の途中経過を報告する趣旨であり、第1四半期・第3四半期のみならず第2四半期も四半期決算短信に一本化すべきであるとの意見もあった。」
(第2四半期(半期)については、何も決まっていないようです。また、四半期報告廃止後は、「半期」に移行するように書かれていますが、その場合には、財務諸表の保証をどうするかだけではなく、「半期報告書」自体の内容をどうするのかを、会計基準も含めて検討する必要があるでしょう(半期も四半期も会計基準上大きな違いはないとは思いますが)。)
(四半期短信も、「義務付けの有無」や「開示内容」(拡充?、現行どおり?、さらに簡素化?)をこれから検討するということですから、まだまだ決着は先のようです。)
2.適時開示のあり方 (省略)
3.有価証券報告書の株主総会前提出 (省略)
4.重要情報の公表タイミング (省略)
Ⅳ.その他の開示に係る個別課題
1.「重要な契約」の開示
「当ワーキング・グループでは、「個別分野」として、
・ 企業・株主間のガバナンスに関する合意
・ 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意
・ ローンと社債に付される財務上の特約
を取り上げ、検討を行った。」
(引用は省略しますが、かなり細かく議論しており、規則にも反映されると思われます。「財務上の特約」は、財務諸表注記との関係も検討しなければならないようです。)
2.英文開示 (省略)
3.有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載事項の関係 (省略)