監査事務所の報酬依存度に関する規制が厳しくなるという記事。
「監査法人の収入のうち、大企業1社から受けとる報酬の比率が5年続けて15%を超えれば、その企業の会計監査人を辞めなければならない――。各国の会計士協会が加盟する国際会計士連盟の審議会は昨年12月に倫理規定を改め、新たなルールをもりこんだ。4月中にも正式に決まる見通しだ。
東芝など上場企業で会計不祥事が起こるたびに、企業と監査法人とのなれあいが背景にあると指摘されてきた。報酬の依存度が高いと、顧客を失うことを恐れ厳しく監査できなくなる可能性がある。新たな規制は独立性を強めるため、報酬依存度を下げるねらいだ。」
15%という数値自体は、それを超えると独立性を損ねるリスクがある基準として、現行ルールにもありますが、リスクを緩和する措置(外部の会計士に審査をやってもらうなど)を採っていたり、期間が長くなければ、オーバーしてもすぐに監査ができなくなるわけではありません。しかし、5年という明確な上限を定めるというのは、かなりの規制強化でしょう。
東芝のような巨大企業は、大手監査法人(あらたを除けば売上高が1千億円前後)が監査しているでしょうから、報酬(監査+非監査)が相当大きな金額でも、15%ルールに抵触することはまずないでしょう。しかし、記事でいっているように、中小監査事務所や中小に頼んでいる上場会社には影響が出るかもしれません。
例えば、年間報酬30百万円の監査契約を獲得しようとすれば、事務所として最低2億円の売上が必要で、残りの170百万円を平均20百万円のクライアントで埋めるとすれば、9社必要になります(同じ企業グループの会社は1社と考える)。計10社ですから、中小としては大きな部類でしょう。基準違反を回避するためにはクライアントを増やすしかありませんが、クライアントの方は、報酬依存度が基準に抵触しそうな事務所とは契約しづらいでしょうから、それも簡単ではありません。
報酬依存度がクローズアップされる背景には、国際基準以外にも、最近の監査事務所処分勧告事例があるようです。
「国内の監査法人約260のうち、上場企業を担当するのは約130。その多くを中小の法人が占める。その独立性を問われかねない事態が最近起きた。
中小の「監査法人原会計事務所」(東京)が不当な運営をしていたとして、金融庁の公認会計士・監査審査会は2月26日、同庁に行政処分を出すように勧告した。非上場の顧客1社から監査手続きとは関係のない「特別監査報酬」を受けとり、この会社の役員に商品券を贈っていたという。
監査審査会によると、原会計事務所は会計士7人ら人員約10人で、上場2社の監査も長年手がける。約40年続ける化学メーカーからは年約6千万円の監査報酬を受けとっており、全体の収入の3割ほどを占めるという。監査審査会は「上場企業からの報酬の割合が高い」とし、特定の会社に依存する体質が問題の背景にあると指摘する。」
影響が出る監査事務所は40近くあるそうです。
「日本公認会計士協会の調査によると、依存度が15%超の企業を抱える中小の監査法人などは40近くある。新ルールが適用されると、監査人の交代を迫られるなど上場100社以上に影響がでるともいわれる。」
さらにいえば、大手監査法人から独立して、新たに監査法人を立ち上げ、軌道に乗せるというのは、今でも困難ですが、今後はもっと難しくなりそうです。
当サイトの関連記事(会計士協会倫理規則体系見直しについて)(国際基準で改正済みだが協会倫理規則に取り入れられていないものとして「報酬」があります。)
(補足)
国際会計士倫理基準審議会(IESBA)の報酬依存度規定の改定については、週刊経営財務が昨年1月に取り上げていました。
↓
当サイトの関連記事
ただし、そのときは「5年」という具体的な年数は出ていなかったと思われます。
PROPOSED REVISIONS TO THE FEE-RELATED PROVISIONS OF THE CODE(2020年1月)(IESBA)
(補足2)
会計・監査ジャーナル2021年2月号に解説がありました(75ページ)。「国際会計士倫理基準審議会(IESBA)会議報告」という記事です。
「PIEである監査業務の依頼人に対する報酬依存度が5年連続で15%を超えた場合に監査人を辞任しなければならないという規定については、大多数が支持した。」
日本の協会は反対だったそうです。
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