東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴う損害賠償を政府管理で支援する枠組みが固まったという記事。
「賠償の枠組みは、東電を含む電力各社が資金を出して「機構」を新設。機構は東電が発行する優先株を引き受けるなどして、東電に資金支援する。電力の安定供給に支障がないように、機構から受けた資金の返済は、毎年の事業収益の範囲内でまかなう。
機構には、政府が必要な時だけ現金化できる「交付国債」の形で公的資金を投入し、数兆円にのぼるともみられる賠償金の支払いを迅速に進める。公的資金は機構を通じて電力各社が返済し続けるので、最終的に国の財政負担は生じない。
東電の賠償負担に上限は設けない。政権は、賠償総額が5兆円になった場合、東電が年2千億円、他の電力各社が計年2千億円を約13年かけて機構に返済していくと想定している。」
「東電は11年3月期連結決算で原発事故に伴って約1兆円の特別損失を出し、純損益が7千億~8千億円の赤字になる見通し。赤字により、約3兆円の純資産(自己資本)が減って財務基盤が弱るため、東電は政府の支援の枠組みに基づき、機構に対して優先株による出資を求める方針だ。」
この記事で抜けているのは、機構から東電に提供された資金を、東電が返す(融資であれば元利返済、出資であれば配当などとして)必要があるのかどうかという点です。
仮に、贈与ではなく資金提供(融資・出資)であれば、東電の利益にはならないので、東電は、賠償金を含めた原発事故関連の損失について、保険でカバーされる以外の金額を全額、いずれかの会計期間(原則的には事故が発生した2011年3月期)に計上することになります。逆に、機構に資金提供する他の電力会社にとっては、その資金はいずれ東電が機構を経由して返してくれるものですから、資産として計上することになります(電力料金を上げる必要はない?)。
記事をすなおに読むと、そのようなスキームのようです。
なお、「資金の返済は、毎年の事業収益の範囲内」とありますが、資金の返済は資金繰りの話であり、事業収益(何を指すのか必ずしもはっきりしませんが)からでなくても、例えば、資産や事業の売却による収入から賄うこともできるはずです。逆に設備投資に資金を取られれば、それだけ返済に回せる金額は減ることになります。
また、機構が出資するという優先株の部分は、よく考えなければなりません。優先株による増資で東電の自己資本を膨らませても、その原資は、最終的には電力会社からの資金提供であり、その半分は東京電力の拠出部分です。東電にとっては、増資したといっても、その半分は最終的に自分で賄わなければならないわけですから、そもそもその部分は増資といえるのか疑問ですし、仮に増資だとしても、その後の東京電力から機構への資金拠出は、資産ではなく、資本の払い戻しでしょう。
(融資や出資ではなく贈与だとすれば、東電とその他の電力会社の会計への影響はまったく異なってきます。以前述べたように、東電が機構から贈与を受ける(利益計上する)タイミングと、機構へ拠出する(費用計上する)タイミングの差をどう考えるのかという問題もあります。東電原発事故のための負担ですから、そもそも、各社とも拠出時の費用計上でよいのか(引当ては必要ないのか)という問題もあり得ます。)
支援策の内容は、もうすぐ公式に発表されるようですから、機会があれば、それに基づき、もう一度考えてみようと思います。いずれにしても、公的粉飾支援スキームとならないことを期待しています。
燃料の大量溶融、東電認める 福島第一1号機(朝日)
(補足)
報道に基づいて書いたので、スキームの中身や解釈がちょっとずれてしまったようです。
経産省のサイトに公式発表が出ていますので、そちらでご確認ください。
原子力発電所事故に関する賠償などについて
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