会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

会計監査費5%増、ルール厳格化で 上場主要100社 20年3月期(日経より)

会計監査費5%増、ルール厳格化で 上場主要100社 20年3月期(記事冒頭のみ)

2020年3月期の主要100社の監査費用が合計1365億円で、前の期に比べて5%増だったという記事。非監査業務は9%減とのことです。

日経が調べたそうです。

「14日時点で時価総額100位までの3月期決算企業の有価証券報告書に記載された「監査報酬の内容等」などの項目を集計した。決算にお墨付きを与える監査証明、買収先を連結するためのデューデリといった直接的な監査費用は100社のうち64社で増えた。

コンサルティングなど「非監査」を含む監査法人への支払総額は100社の合計で1610億円と3%増だった。」

「一方、税務アドバイスやコンサルティングといった「非監査」業務で監査法人に支払った費用は主要100社で244億円と9%減った。青山学院大学の八田進二名誉教授は「近年加速していたIFRS(国際会計基準)への移行が一巡していることが背景」とみる。」

デューデリ業務は、監査証明を出すわけではないので、非監査業務でしょうし、そもそも、監査法人ではなく、グループの別会社でやることも多いでしょう。また、記事の中で監査法人の非監査業務として、「税務アドバイス」が挙がっていますが、そもそも、税務業務は税理士・税理士法人しかできないので、監査法人が提供することはありません。非監査業務の減少理由として、IFRS業務のことにふれていますが、それ以外にも、監査法人のグループ内再編で、コンサル部門を分離したところもあるようですから、そのあたりも原因として検討すべきでしょう。

監査費用(監査報酬)の増加原因は...

「費用が増加傾向なのは、ここ数年で上場企業の情報開示をめぐる制度変更が相次いでいる影響が大きい。そのひとつが21年3月期から義務付けられる「KAM(キー・オーディット・マターズ)」だ。」

「会計監査に詳しい大和総研の藤野大輝研究員は「定性的な要素が重視されるようになり、監査人と会社側との間で必要なコミュニケーションが増えている」と指摘する。」

「M&Aやグループ再編も監査費用を押し上げている。19年10月に旧ヤフーから持ち株会社体制に移行したZホールディングスは前の期に比べて42%増えた。同社は「持ち株会社化や子会社の増加の影響」としている。バイオ医薬品のUMNファーマを買収した塩野義製薬は53%増だった。」

KAMを理由に挙げていますが、KAMは2020年3月期はまだ早期適用であり、適用した会社は少ないようです。準備のための時間はかかったかもしれませんが、そもそも、KAMは、従来からの監査基準で求められていた、特別に検討を要するリスク(英語の直訳だと単に「重要リスク」)への対応や、それについての監査役・監査委員会とのコミュニケーションを、さらに一歩進めて、その一部を監査報告書にも書くというだけの話ですから、KAMのために工数が大幅に増えるということはちょっと考えられません。KAMのために何割も報酬が増えたとしたら、いままで監査基準どおりの監査をしていたなかったことを自白するようなものでしょう。

M&Aは、たしかに、監査報酬増加の要因ですが、買収された会社も、上場会社や大会社であれば、監査を受けていたはずですから、監査業界全体の収入が大きく増えるものではないでしょう。

記事の最後の方では、監査人交代との関係についてふれています。

「上場企業と監査法人の関係をめぐっては「開示内容の充実で監査は年々『重装備』になっている。これを理由に大手監査法人が報酬改定を打ち出し、担当企業を絞っている面もある」(八田氏)との指摘がある。

金融庁の調査によると、19年6月までの会計年度で監査人を交代した上場企業145社のうち約40社が「監査報酬」を理由に挙げた。その多くは4大監査法人から準大手や中小の監査法人に変更していた。」

ビッグ4監査法人からすれば、大きな上場会社で監査報酬の値上げが可能であれば、採算が悪い中小上場会社の契約がなくなっても、差し引きプラスになるのでしょう。

記事の中の表で監査費用の増加率が高い企業を示しています。第一生命(2.2倍)、NEC(84%増)、ソフトバンク(74%増)などです。

第一生命HGの有報を見ると、監査報酬で増えているのは、「監査公認会計士等と同一のネットワーク(KPMGメンバーファーム)に対する報酬」で、特に連結子会社が157百万円から、795百万円に増加しています。前の期はある海外子会社の監査報酬としてPwCに833百万円支払っていたのが、2020年3月期はなくなっています。この会社の監査人をKPMGに変更したので、増えたのかもしれません。あずさ監査法人への監査報酬は、増えるどころか、前の期の350百万円から299百万円に減っています(有報146ページ)。

(第一生命の例を見ると、日経は、ネットワークファーム(例えば日本の監査法人が提携している海外のビッグ4事務所)が受け取っている報酬も含めて計算しているようです。)

かさむ監査費用 KAM、詳細記述…制度改正相次ぎ(日経)(記事冒頭のみ)

この記事で登場する「詳細記述」というのがよくわかりませんが、開示府令改正で拡充された「記述情報」のことなのでしょう。監査対象ではないので、監査人にはあまり影響はないはずです(ただし会計士協会から監査対象外の情報に対する手続に関して文書が出ています)。
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