東電原子力発電所の事故に伴う損害賠償を支援する枠組みが決まったという記事。
「政府は、原子力災害の賠償を支援する組織として「機構」を新設する。機構設立の法案を国会に提出する予定だ。原発を持つ電力10社(日本原子力発電を含む)には、機構に負担金を拠出することを義務づける。今回の枠組みは、将来の原発事故にも対応できる制度とし、電力会社が資金を出しやすくした。
政府は、必要なときだけ現金化できる「交付国債」を機構に交付するかたちで、公的資金を投入する。機構は東電に対し、賠償や設備投資などのために必要な資金を援助し、債務超過にさせない。援助に上限は設けず必要があれば何度も行う。」
「東電が機構から支援を受けた資金は、電力の安定供給に支障がでないよう、設備投資資金を除いた毎年の事業収益の余裕分から長期間にわたって返していく。公的資金は機構を通じて東電が返済するので、国の財政負担は生じない。」
これを読んでも、機構から東電への資金援助がどのようなものなのかなどがよくわからない(たとえば贈与や出資でない、単なる貸付であれば、記事でいっている債務超過の回避には役立ちません)ので、経産省のホームページに掲載されている説明をみてみました。
東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて(経済産業省ホームページより)(PDFファイル)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/1b/08431cb10209e7b0a61be24118e78720.png)
経産省作成のこの図と「具体的な支援の枠組み」というたった1枚の資料を参考にして、東京電力とその他の電力会社への影響を考えてみます。
(「原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織(機構)」という文言もありますが、損害は既に発生しています。ひどいごまかしです。)
1.東京電力
「3.機構は、原子力損害賠償のために資金が必要な原子力事業者に対し援助(資金の交付、資本充実等)を行う。援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助し、損害賠償、設備投資等のために必要とする金額のすべてを援助できるようにし、原子力事業者を債務超過にさせない。」(「・・・枠組み」より。以下同じ)
まず、「援助(資金の交付、資本充実等)」が何を指すのかよくわかりません。資本充実は増資のことなのでしょうが、「資金の交付」は融資(東電では借入金処理)なのでしょうか。そうであれば、先ほど述べたように債務超過回避には役立ちません。
東電が返さなくてもよい資金の交付であれば、東電は受け取った時点(あるいは受け取る権利を得た時点)で利益に計上するのでしょう(ただし後述する別の問題あり)。
「7.原子力事業者は、機構から援助を受けた場合、毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別な負担金の支払を行う。」
増資や融資であれば、東電は配当や元利返済という形で機構に返していけばよいはずです。増資であれば、機構は、株式の売却で資金を回収することもできます。それ以外の「特別な負担金」とは何なのでしょうか。「機構から援助を受けた場合」に「支払いを行う」とすれば、援助と支払はひも付きだということです。そうすると、資金の交付を受けたときに東電が利益にしてしまうと粉飾になります。あとで「特別な負担金」として返さなければならない資金だからです。
増資のために援助を受けた資金をあとで「特別な負担金」として支払うのも同様の問題があります。つまり、後で返すことを約束した資金で増資すること自体、会社法(資本充実という考え方)に違反するのではないでしょうか。少なくとも、「特別な負担金」の支払いは資本の払い戻しではないかと思います。
2.電力会社(原子力事業者である電力会社)(東電は含まない?)
「2.機構への参加を義務づけられる者は原子力事業者である電力会社を基本とする。参加者は機構に対し負担金を支払う義務を負うこととし、十分な資金を確保する。負担金は、事業コストから支払を行う。」
「事業コスト」の意味がよくわからないので間違っているかもしれませんが、「事業コストから支払を行う」とすれば、各電力会社は、負担金を支払った時に費用計上するのでしょう(一種の税金)。ただし、東電原発事故とのひも付きの負担金だと厳しく解釈すれば、負担見込み額を一挙に計上することになるかもしれません。
経産省の図で不思議なのが、電力会社は負担する一方で、機構から資金が戻ってくることが想定されていないことです。機構は、電力会社、金融機関、国から得た資金を東電に回し、東電からは、東電株式、融資元利返済、特別の負担金などの形で資金(資産)が戻ってくるわけですから、金融機関や国に優先的にかえすとしても、電力会社に回る残余の資金があってもおかしくありません。しかし、この点に関しては、電力会社に戻ってくるかどうかわからない(戻ってくる可能性は低い)のであれば、負担金支払い時に費用計上(電気料金の計算にも含める?)でもよいのでしょう。
東電やその他の電力会社で実際にどういう会計処理になるのか、まったくわかりませんが(たぶん経産省や会計士協会が考えるのでしょう)、このスキームが巨大な「公的粉飾支援機構」とならないよう注意する必要がありそうです。
また、このスキームが完了するまでには10年以上かかることでしょう。その間にはIFRS導入が予想されます。日本基準では健全な会社だったのに、IFRSを適用した途端に債務超過になったりすれば、大きな悪影響が出ます。その点もよく検討してほしいものです。
東京電力IRカレンダー
決算発表日が明らかにされています。
「地震の影響に伴う諸般の事情により未定とさせていただいておりましたが、5月20日に行うことといたしました。」
あくまで「原発事故」ではなく「地震」の影響だそうです。
結局臨時報告書は出さないままなのでしょうか。
原発:津波で炉心損傷想定…経産省所管独法、07年度から(毎日)
「・・・防波堤(海面から高さ13メートルと仮定)がない場合は7メートル以上、ある場合でも15メートル以上の津波が来た場合、ほぼ100%の確率で炉心損傷まで至ると解析した。」
東電融資行に債権放棄求める?求めない? 政権内乱れ(朝日)
東電株で特損4千億円…大手銀行・生保決算(読売)