金融庁は、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ報告-建設的な対話の促進に向けて-」を、2016年4月18日付で公表しました。
昨年 10 月、金融審議会に対し、企業と投資者の建設的な対話を促進する観点も踏まえつつ、投資者が必要とする情報を効果的かつ効率的に提供するための情報開示のあり方等につき幅広く検討を行うことについて諮問がなされたことを受け、ワーキング・グループで検討してきた結果をとりまとめたものです。
大きく、開示のあり方、非財務情報の開示の充実、その他に分けて検討しています。
このうち、開示のあり方(「より適時に、かつ、より効果的・効率的な開示が行われるよう、開示に係る自由度を向上させることが重要である」)に重点が置かれており、具体的には、「開示内容の整理・共通化・合理化」と「開示の日程・手続のあり方」を議論しています。
「開示内容の整理・共通化・合理化」では、以下のように、開示書類ごとの見直しの方向性が示されています。
1.決算短信及び四半期決算短信
・監査及び四半期レビューが不要であることの明確化
「決算短信及び四半期決算短信による情報開示の意義が速報性にあることを再確認し、監査・四半期レビューを待って短信の開示を行っている企業については、決算の内容が定まった段階での迅速な開示を求める趣旨からも、短信公表前に監査及び四半期レビューが終了している必要はないことを改めて明確にすべきである。」
・速報性に着目した記載内容の削減による合理化
「現在、決算短信に記載している経営方針については、中長期的な投資を行う投資者がその投資姿勢に適合する企業であるかを判断する上で有用な情報であるが、必ずしも速報性が求められる情報ではないことから、有価証券報告書において記載することが適当と考えられる。」
・要請事項の限定等による自由度の向上
「証券取引所が決算短信及び四半期決算短信への記載を要請する事項をサマリー情報、経営成績・財政状態・今後の見通しの概況(決算短信のみ)並びに連結財務諸表(四半期決算短信については、四半期連結財務諸表。...)及び主な注記に限定する。また、その他は企業が任意に記載できることとするなど、義務的な記載事項及び記載を要請する事項を可能な限り減らすことにより、それぞれの企業の状況に応じた開示を可能とする。」
「適時開示ルールなども踏まえ、制度上、投資者の投資判断を誤らせるおそれがない場合には、決算短信及び四半期決算短信の開示時点では連結財務諸表の開示を行わなくともよいこととし、開示可能になった段階で連結財務諸表を開示することを認めることとする。」
2.事業報告・計算書類
「経団連ひな型に即していなくても、会社法施行規則及び会社計算規則の記載事項と有価証券報告書の記載事項に共通の記載を行うことが可能であることを明確化することが適当である。」
3.有価証券報告書
・経営方針等の記載の追加
「決算短信で記載を削除することとした経営方針については、投資者の投資判断に必要かつ重要な情報であり、対話に資する情報でもあるため、有価証券報告書に記載することで開示内容を整理し、例えば、「対処すべき課題及び経営方針等」として、現行の対処すべき課題に加えて経営環境及び経営方針・経営戦略等の記載を求めることが適当である。 」
・「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の記載の合理化と対話に資する内容の充実
「内容が重複している部分の合理化を図りつつ、「業績等の概要」、「生産、受注及び販売の状況」や「MD&A」で本来意図されていた開示をより充実させ、より体系立った分かりやすい開示を行う」(具体的な改正点も明示)
・新株予約権等の記載の合理化
「これら(「新株予約権等の状況」、「ライツプランの内容」及び「ストックオプション制度の内容」)の各欄を統合し、ライツプラン及びストックオプション制度の内容を記載することで開示項目を合理化することが適当である。 」
「開示の日程・手続のあり方」では、以下のような考え方が示されています。
「上場会社においては、...例えば、
・ 株主総会前、できるだけ早い時期に有価証券報告書を開示する
・ 株主総会議案の十分な検討期間を確保するため、適切な株主総会日程の設定や事業報告・計算書類等の早期提供等を行う
などの取組みを進めることにより、株主との建設的な対話を充実させていくことが望まれる。 」
そのような「株主総会日程の柔軟化のための開示の見直し」として、有価証券報告書及び事業報告の「大株主の状況」の記載を取り上げ、「大株主の状況等の記載時点を決算日から議決権行使基準日へ変更することが考えられる」としています。
また、「事業報告・計算書類等の電子化の促進」についてもふれています。
「非財務情報の開示の充実」については、「今後とも、ステークホルダーのニーズに応じて企業の創意工夫を生かした開示を行っていく観点から、任意開示の形で充実させていくことが考えられる」としています。
その他では、以下の項目を取り上げていますが、具体的な方針は示されていません。
・単体財務諸表における IFRS の任意適用
・情報の公平・公正な開示についてのルール(フェア・ディスクロージャー・ルールのことです)
・中長期的な視点からの投資判断
(感想)
結局、大きく変わる可能性があるのは、決算短信だけのようです。取引所の規則で決まっている話なので、変えやすいのでしょう。有報の株主総会前開示や、有報と会社法開示書類の共通化にもふれていますが、そのための制度変更までは踏み込んでいません。特に、会社法の開示・監査制度については、金融庁の管轄外ということなのか、ほとんど検討の対象外だったようです。経済界の抵抗も大きかったのでしょう。
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