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学校法人ガバナンス改革会議報告書(文部科学省)

学校法人ガバナンス改革会議報告書

文部科学省は、学校法人ガバナンス改革会議報告書「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」 を、2021年12月3日付で公表しました。(同会議の座長は、増田 宏一 日本公認会計士協会相談役です。おなじみの八田教授も参加しています。)

機関としての会計監査人の設置など、会計士業界に直接影響が及びそうな事項も含まれています。

報告書の背景は...

「近年、大学を設置している学校法人では経営を巡る不祥事が多数起こり、理事長が懲役の実刑判決を受けたり、理事が背任容疑で逮捕されたりする例が相次ぎ、大きな社会問題となっている。学校法人全体に対するガバナンス体制不備も繰り返し指摘されている。

また、日本の大学の国際的な評価が低下し、少子化もあいまって現状のままでは私立大学の経営が成り立たなくなる事態の到来が予想され、学校法人の経営力の強化が喫緊の課題になっている。そうした中で、公益法人として破格の税制上の恩典を受け、税を通じた実質的な補助金(tax expenditure)だけでなく、さらに多額の助成金も国から享受する、学校法人の経営の透明性を強化し、アカウンタビリティを徹底する、他の公益法人と同等のガバナンス体制の抜本整備は焦眉の急である。」

学校法人ガバナンス改革会議設置のきっかけは、2019年と2021年の「経済財政運営と改革の基本方針」でした。

「政府が 2019 年6月 21 日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2019」において、「公益法人としての学校法人制度についても、社会福祉法人制度改革や公益社団・財団法人制度の改革を十分踏まえ、同等のガバナンス機能が発揮できる制度改正のため、速やかに検討を行う」との方向性が明示された。」

「2021 年 6 月 18 日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針 2021」においてさらなる抜本改革の議論の必要性が示され、文部科学大臣直属の会議として文部科学事務次官決定により外部有識者で構成される「学校法人ガバナンス改革会議」が設置された。」

機関設計の全体像

「現行の学校法人の機関設計は、理事及び理事会、監事、評議員会であるが、これに計算書類等の会計監査を行う会計監査人を加え、以下のとおりとする。

① 評議員会
② 理事会
③ 監事
④ 会計監査人」

(現在も、補助金をもらっている学校法人は会計士・監査法人による会計監査が行われていますが、その監査人は監査業務を請け負っているだけであり、学校法人の機関というわけではありません。)

評議員・評議員会

「現行の学校法人における評議員会は、理事長が業務に関する一定の重要事項についての意見を聴取する諮問機関という位置付けであるが、理事による業務執行の監督機能を強化するため、評議員会を最高監督、議決機関と定めることとする。また、現行の学校法人では評議員を理事が兼務する例が多く見られるが、監督機能の実効性を担保するため、現役の理事、監事及び教職員との兼任は認めず、その選任も理事又は理事会において行うことを認めないものとする。その一方で、評議員については、その任務に適する人材が確保され、適切な議決及び監督が行われるようにするため、条文上、善管注意義務を明記することにしている。」

理事・理事会

「理事及び理事会については、その性質に反しない限り、一般法人法における理事及び理事会に関する定めに準じた内容を定めるべきであるが、特に重要な点は以下のとおりである。(一般法人法:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)

(1) 選任・解任、適格基準

法定事項として以下の各事項を定めるべきである。

理事の選任・解任は評議員会が行う(いつでも評議員会の決議によって解任することができる)。

② 他の特定の団体・法人の関係者(理事又は職員である者等)が一定数を占めることを禁止する。

...

(5) 理事長

法定事項として以下の各事項を定めるべきである。

理事長は、理事会が選定・解職する。

② 理事長は、3 箇月に 1 回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。」

会計監査人

「計算書類等の会計監査機能を強化するため、新たに学校法人の機関として会計監査人の設置を義務付ける

法定事項として以下の各事項を定めるべきである。

① (私立学校振興助成法に基づく会計監査制度は維持した上で)機関として会計監査人の設置を義務付ける

② 学校法人の財産目録・貸借対照表等の作成期限は、毎会計年度終了後 3 ヶ月以内とする。

③ 会計監査人の選任・解任、権限・義務、任期等については、その性質に反しない限り、一般法人法における会計監査人に関する定めに準じた内容を定めるべきであるが、特に重要な点は以下のとおりである。

評議員会の決議により選任・解任する。
・一定の事由(①職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき、②会計監査人としてふさわしくない非行があったとき、③心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに耐えないとき)に該当する場合、監事が解任することができる。
・公認会計士又は監査法人でなければならない。
・評議員会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容は、監事が決定する。
・会計監査人は監査意見が異なるとき、或いは出席要求決議があるとき評議員会に出席して意見陳述することができる。
・評議員会において会計監査人の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができる。
・実質的に支配する子法人の業務・財産の状況も調査することができる(連結・実質支配グループについて対象とする)。
・任期は原則として選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。
・学校法人と会計監査人との関係は委任とする。
・法人及び第三者に対して損害賠償責任を負う(会計監査報告の重要事項の虚偽については過失責任とする)。
・理事は、会計監査人の報酬等を定める場合には、監事(監事が二人以上ある場合にあっては、その過半数)の同意を得なければならない。

その他の意見、方針は以下のとおりである。

・「私学法に基づく監査」と「私立学校振興助成法に基づく監査」が重複しないように「助成法」に基づく計算書類等も私学法に基づく計算書類等に取り込み、作成と監査の一元化を図る。

学校法人会計基準は、根拠法令を私立学校振興助成法から私立学校法に変更し、両法律の趣旨に適合した学校法人会計基準を策定する。」

事業活動実態に関する情報開示

「外部からの牽制が適切に機能するようにするため、学校法人の事業活動実態、業務の状況に関する情報開示を拡大することとする。」

そのほか、「規模等に応じた取扱い」という項目で、「文部科学大臣所轄学校法人(大学、短期大学及び高等専門学校を設置している学校法人)」と「都道府県知事所轄学校法人(都道府県が所轄する学校・専修学校等のみを設置している学校法人)」に分けて、適用を規定しています。全部適用は前者のみです。

この記事を読むと、この報告書どおりになるかどうかは、全く不透明なようです。

日大事件の教訓はどこへ…「学校法人ガバナンス改革」を私大経営者と文科省が骨抜きにしようとしている(デイリー新潮)

「改革会議では座長(増田宏一・元日本公認会計士協会会長)自らが報告書を執筆、役所には一切触れさせないという異例の展開になったという。対する文科省は、この報告書を何とか「骨抜き」にしようと必死だ。」

「それにしても、改革会議が提出した報告書は大学経営者がこぞって反対するほどの内容なのか。取材しているジャーナリストが説明する。

「いえいえ、一般の財団法人や社会福祉法人と同等のガバナンス体制に変えると言っているだけで、実際は大した内容ではありません。ちなみに財団法人は全国に5000以上もある。理事の選解任権を評議員会に持たせることや、決算や予算、重要な財産の処分などで評議員会の議決が必要になるだけです。税制上の恩典を受けているうえ、国民の税金から多額の補助金をもらっている大学が透明なガバナンスを求められるのは当然のことでしょう」」

「世間一般から見れば、学校法人の改革は当然のことと思えるが、大手新聞の文科省担当記者は、「改革できるかどうか、微妙なところでしょう」と語る。

「改革会議は萩生田光一前文科相が事務方を抑えて設置させたのですが、岸田内閣で就任した末松信介文科相はまだ状況がつかめていないようです。大臣の記者会見でも事務方の振り付け通り、『改革会議の報告書はひとつの意見』と発言していました。要は“参考程度”にするということなのでしょう。しかも、大臣に報告書を手交することになっているのに、座長が繰り返し求めても事務方は日程調整もせず、記者会見も設定しない『抵抗』に出ているそうです。自民党の文科部会でも『(報告書の)改革案を白紙に戻せ』といった声が出ており、大学経営者からの働きかけを受けて反対に回る議員は多そうです。政治と官僚と大学経営者の“政官業の癒着”と言っても過言ではありません。まさに鉄のトライアングルが国民のカネをむしり取っている構図と言えます」」

私立大学の団体からは、反対意見が公表されています。

当サイトの関連記事(学校法人ガバナンス改革会議の最終報告に対する意見声明)について)
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