岸田首相が見直し目指す四半期開示、廃止賛成ゼロ-金融審作業部会(ブルームバーグ)
「岸田文雄首相が掲げる四半期開示の見直しについて、18日の金融審議会作業部会では短期主義を助長してはいないとの趣旨の発言が相次ぎ、廃止に賛成する委員はゼロだった。四半期報告書と決算短信の一本化を求める意見も多数出た。」
ブルームバーグの記事では、委員たちの主な意見を紹介しています。
例えば...
「早稲田大学大学院法務研究科の黒沼悦郎教授
非財務情報は財務情報を代替するものではなく、非財務情報の充実は、財務情報を後退させる理由にならない
四半期は法定開示として維持すべきだ。短期主義を助長しているというのは誤解にすぎない」
「学習院大学法学部の松元暢子教授
四半期報告書は、必要だから法制化されており、やる必要がなくなった状況になった訳ではない。簡素化・廃止には十分な根拠が必要。ショートターミズムが根拠になってるかは、少なくとも現時点で助長することになってる学術研究も出てない。ショートターミズム懸念で四半期報告書を廃止するのであれば、短信とまとめてやらなければ意味がない」
「みずほ証券グローバル戦略部産官学連携室の熊谷五郎上級研究員 (日本証券アナリスト協会の企業会計部長)
アナリスト協会は、四半期開示そのものをやめるのは反対で一致。四半期報告書を残してほしいという意見もある。開示内容については、財務諸表フルセット求めなくていいという考え方もある」
産業界の委員は、廃止はいっていませんが、決算短信と法定の四半期報告書の重複を改善すべきという意見のようです。
「住友化学の佐々木啓吾常務執行役員
決算短信と四半期報告の併存を見直し、一本化には賛成。住友化学の決算期は1990年代半ばまでは12月期だったが、同業他社との比較可能性や、国の統計との分析しやすいように変えた
三菱商事の藤村武宏サステナビリティ・CSR部長
四半期報告の情報にどれくらい意味があるのか疑問。短信と報告書は重複が多く改善が望まれる」
金融庁、四半期開示を議論 完全撤廃には反対論根強く(日経)
「委員からは、投資家に対する情報の平等性や企業財務の健全性を保つために四半期開示の継続を訴える意見が目立った。委員の一人である法政大学の中野貴之教授は実証研究の成果を示し、「経営者の短期主義志向の原因を四半期開示のみに帰するのは、必ずしも適切とはいえない」との結論を述べた。今回の見直しの議論が「海外から開示後退の動きと受け取られてはいけない」との意見もあった。
作業部会では非財務情報の開示充実に向けた議論も並行させている。複数の委員が「非財務情報は財務情報を補完するもので、代替するものではない」として、企業の実務負担を軽減するために四半期開示をなくすことは不適当だという考えを示した。」
「四半期開示」見直しの議論開始 専門家からは慎重意見相次ぐ(NHK)
「...金融庁は18日から金融審議会の作業部会で議論を始めました。
この中で、専門家からは「市場の透明性や信頼性を確保するため法律で定めた四半期開示は必要だ」という意見や、「長期的な投資にとっても企業情報を定期的に確認できる環境が大事で、開示情報が減れば海外からの評価が下がり投資が減るおそれもある」という指摘など、見直しに慎重な意見が相次ぎました。
一方で、法律で開示が求められている「四半期報告書」と、証券取引所が開示を求める「決算短信」には内容が重複する部分があり、企業の負担を減らすため、より効率的な開示の在り方を探るべきだとする意見も出されました。」
四半期開示、義務廃止は見送りへ 金融庁有識者会議(朝日)(記事冒頭のみ)
「企業に3カ月ごとの業績公表を義務づける「四半期開示」の見直しについて、金融庁の有識者会議が18日から議論を始めたが、義務自体の廃止は見送る方向が固まった。企業に短期利益を気にする経営から脱却してもらおうと、岸田文雄首相が「新しい資本主義」の重要政策の一つとして見直しを掲げたが、廃止には専門家らの反対が相次いだ。」
18日の会議は生配信されていたので、後半だけですが傍聴しました。2時間の予定が15分ほど延長になるなど、議論はそれなりに盛り上がったようです。会議資料などもふまえて、今後の方向性を考えてみます。
まず、現行制度は変えないという案があります。「ディスクロージャーワーキング・グループ」は、そもそも、有報などの法定開示を非財務情報などの面で拡充しようという趣旨でメンバーを集めているわけですから、普通に考えて、法定開示を後退させてよいという結論になるはずがありません。金融庁の事務局はそれを承知でこのWGで議論させたのですから、四半期について、法定開示も四半期レビューも維持するつもりとみることができます。
2番目としては、法定開示は廃止、取引所の適時開示としての決算短信は維持という案があり得ます。会議資料をみると、適時開示したことを金商法上の制度である臨時報告書で報告させる、そうすることによって、適時開示の内容も財務局の監視対象にできるという考え方があるようです。それであれば、適時開示のみにしても、でたらめな開示の横行を防ぐことができます。会議の中でも、法定開示がなくなれば、正式な開示がなくなるのではないかという委員の質問に対し、取引所のルールで決まられた開示も正式なものだというようなことを事務局が回答しており、また、企業の委員からも、取引所ルールの開示もきちんとやっているという発言がありました。取引所ルールによる開示だけでも、開示の後退にはならないということなのでしょう。
決算短信のみにするという案でも、開示の内容を、現行のとおり、フルセットの四半期財務諸表まで義務づけるか、それとも、ある程度企業の任意にするかという論点があります。企業の裁量幅を大きくとれば、限りなく、任意開示に近づいていきます。いずれにしても、法定開示がなくなれば、取引所のルールの問題になるので、取引所にボールを投げるということになるのでしょう。
なお、会議の中での事務局の説明によると、四半期の法定開示を廃止した場合、自動的に半期報告に移行するわけではないそうです。あらたに法律で半期報告書の提出を規定しないといけません。半期報告書まで不要だということになれば、話は別ですが、この点の議論はあまり報じられていないようです。また、半期報告書や中間監査の見直しも必要になるでしょう(それぞれ四半期報告書や四半期レビューと同等のものに改正すべきでは)。
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