連結子会社ウェスチングハウス社等が、米国連邦倒産法第11 章に基づく再生手続を申し立てることを決議し、ニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てたという東芝のプレスリリース。
上記ページに記者会見(説明会)の動画や音声なども掲載されています。いままでの記者会見では、きれいなパワーポイントの資料がありましたが、今回はあっさりした資料が6ページだけです。
一読しても、全体像がつかめないのですが、気になる点を抜き出して、考えてみたいと思います。推測部分だらけで、確信は持てません。
「当社と WEC グループは建設中の米国原子力発電所2サイトの顧客である各電力会社との間で、本手続申立後の当面の米国原子力発電所建設プロジェク トの作業継続につき合意を目指して協議しております。」
大赤字プロジェクトの顧客との間では、まだ協議中ということで、顧客の事前の了解を得て申請したわけではないようです。
「WEC グループは、再生手続の開始により、当社の実質的な支配から外れるため、2016 年度通期決算より当社の連結対象から外れることになります。」
通期決算から連結除外ということですから、第3四半期は連結したままということでしょうか。しかし、第3四半期にチャプター11の影響を織り込む必要はないのでしょうか。
「当社としても、裁判所の管轄のもと、WEC グループと電力会社を含む利害関係者との適切な調整を図りながら米国原子力発電所建設プロジェクトに関する関係者間での合意形成を探っていくことが WEC グループの事業の再生に不可欠であり、また非連結化により海外原子力事業のリスクを遮断することを目指す当社の方針にも合致すると判断しております。」
記者会見でも、本当にチャプター11で、完全にリスク遮断になるのかという趣旨の質問が何度もありました。少なくとも、会計上の扱いにすぎない「非連結化」だけで、リスク遮断されるわけではないでしょう。
ウェスチングハウス社等の負債は「総額9,811 百万米ドル(2016 年12 月31 日現在)」だそうです。約1兆円となります。
「当社グループの WEC 及び TNEH (UK) に対する出資持分
WEC 4,176 億円(注)
TNEH (UK) 1,462 億円
(注: WEC については、 WEC の持株会社である東芝原子力エナジーホールディングス(米国)社(以下、 TNEH (US))への出資持分)」
ウェスチングハウス社等の非連結化により、今まで連結消去されていたこれら出資持分がいったんバランスシートに計上されるわけですが、あとの方で説明されているように、全額損失処理とのことです。
「WEC の持株会社の株式を保有する株式会社 IHI が、2017 年2月16 日付で保有する株式全て(出資比率3%)を当社に譲渡することができる権利(以下、プットオプション)を行使したため、プットオプションに基づいて設定されている株式取得日である2017 年5月17 日に、当社の WEC および TNEH(UK) に対する出資持分の総額約189 億円 (注) を取得する予定ですが、当該影響については当期に計上予定です。」
これは、いったん株式を189億円で取得したことにして、直ちに減損処理ということでしょうか。それとも、非連結化の前に取得したことにしてしまって、資本取引として処理するのでしょうか。どちらでも、純資産はこの分だけ減ることになります。
「本日現在で WEC の持ち株会社へ10%出資しているカザフスタン共和国の国営企業であるカザトムプロム社についても、契約上は、当社にその保有する持株会社の出資持分を所定の条件で譲渡するプットオプションを有しておりますが、同社がこの権利を行使可能になるのは2017 年10 月1日以降となっています。」
これについては、2017年3月期では特に会計処理はしないようです。こちらの方が、IHIからの買い取り分より金額が大きくなると思われますが、処理しなくてもいいのでしょうか。
「当社グループの WEC 及び TNEH (UK) に対する債権 (2017 年2 月末現在)
総額約1,756 億円」
これも、あとで説明されているように、全額引当てし損失処理するようです。
「再生手続の開始により、 WEC グループは、2016 年度通期決算から当社の連結対象から外れることになりますが、当社2016 年度業績への影響については現時点ではまだ影響額を確定できておりません。」
ただし、見込みの数字は出しており、報道では、その数字を使っています。
米国基準なのでよくわからない部分が多いのですが、非連結化の会計処理がなかなか理解しづらく感じます。記者会見でも、連結の理屈がよくわかっていないような質問がいくつもありました。
「当社が2017 年2月14 日に公表した2016 年度業績の見通し(以下、従来見通し)には、S&W 買収に伴って発生した損失影響として、営業利益ベースでは、原子力事業ののれん減損による7,125 億円の悪化影響を、当期純損益、株主資本・純資産には6,204 億円の悪化影響を織込んで、当期純損益▲3,900億円、株主資本▲1,500億円、純資産1,100億円としておりました。」
これを出発点として、非連結化の影響を2つのルートに分けて説明しています。
「① WEC グループ連結除外影響等
WEC グループが連結対象から外れることにより、営業外損益にて、のれん減損等の悪化影響額を除外する一方で、 WEC 及び TNEH(UK) への投資勘定の全額減損による悪化影響等を織込むことで、概算で計2,000 億円を超える当期純損益ベースで改善影響を計上する見通しです。」
第3四半期でのれん減損によりWECグループを大幅な債務超過にしたうえで、それを3月末に連結から外すわけですから、大きなマイナスが連結貸借対照表から消えることになり、損益にはプラスになります。その一方で、連結消去されていた子会社株式が復活するのを全額評価減するのでしょう。差し引きで2000億円のプラスになるようです。
「② 親会社保証引当金及び WEC グループ向け債権への貸倒引当金の計上影響
再生手続の開始により、主に米国原子力発電所建設プロジェクトにおいて当社が電力会社に提供している親会社保証に関連する損失計上及び WEC グループへの当社債権に対する貸倒引当金の営業外損益への計上を、当社として新たに検討する必要があります。 これらの計上額は、再生手続の過程で確定する再生計画の内容によって大きく変動し、また算出にあたっては当社グループの2016 年度第4四半期実績を踏まえる必要があるため、当社としては、 WEC グループの非連結化による影響額を現時点では確定できていない状況です。
上記①に加えて、仮に、上記②に関して、契約上の親会社保証額(2017 年2月末現在6,500 億円規模)の全額引当計上、及び債権全額(2017 年2月末現在 1,756 億円)に対する貸倒引当金を見積もった場合には、当期純損益ベースで 6,200 億円規模の追加悪化となります。この結果、2016 年度の当期純損益は、2017 年2月14 日に公表した▲3,900億円から、▲10,100 億円となる可能性があります。」
いくつもの仮定をおいた数字です。記者会見での質疑応答を聞くと、こういう考え方や見積りでいいのかどうかについて、監査人との協議もまだ済んでいないようです。(非公式には相談しているのかもしれませんが)
また、「親会社保証」には、契約上、上限の金額があるように、記者会見の質疑応答ではいっていました。本当にそれを信じていいのかどうか...。会社説明のとおりだとすれば、全額引当てするわけですから、それ以上の損失は出ないのでしょう。
訴訟を起こされるのではないかという質疑応答もありましたが、まだ起きていない係争に対して引当てすることはできないでしょう。契約上はっきりしている債務についてのみ、検討して引き当てるというのは、現時点ではしかたありません。
細かい話になりますが、決算日前の連結除外なので、内部統制報告書の対象からも外れるのでしょう。しかし、監査手続上は、連結されている期間の内部統制を調べる必要があります。いま連結除外したから、もめている第3四半期の内部統制問題が自動的に解決するわけではないでしょう。
(補足)
連結除外の会計処理に関する当方の説明は、かなりあやしいので、鵜呑みなさらないように(特に①のところ)。たぶん、債務超過子会社をゼロ円で売却するのと同じ処理だとは思うのですが...。
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