総会の延期か継続会か、割れる企業の判断
新型コロナの影響で、3月決算企業の株主総会に異変が生じているという記事。
決算・監査の遅れや、通常であれば6月下旬に開催される株主総会の問題(延期や継続会の可能性など)を取り上げています。
会計監査などへの影響は...
「具体的には、企業が倉庫などに保管している在庫を実際に数えて確認する「棚卸の実地調査」ができないケースが報告されている。ある監査法人の関係者は「棚卸の様子をビデオ中継して、その様子を監査人が観察するという手法を採用しているところもあるが、クライアント(監査先企業)がテレワークになったことで決算手続きが遅れ気味になり、それに引きずられて監査も遅れ気味になる」と打ち明ける。
特に、海外拠点を抱える大手グローバル企業の場合、決算作業が遅れ気味になりやすい。強制力のある外出禁止令が出た国や地域では、決算作業のために工場内に立ち入ることすらできない。
大手電機メーカーの関係者は「海外工場が立ち入り禁止になり、社内のシステムにもアクセスできなくなった。決算の数字が出せない状況になった」と話す。」
本当にビデオ中継式棚卸立会が実施されたとすれば、画期的です(海外事例?)。監査実務的には大ニュースでしょう。
株主総会については、決算や会計監査の遅れの影響という問題と、そもそも「コロナ禍で会場に多くの株主を集めることがよいのかという問題」があります。
その対応として検討されているのが、総会の延期と継続会です。延期には配当基準日の問題がありますが、継続会についても「株主が監査付きの決算書なしで配当や取締役等の選任について意思決定しなければならない」という問題があり、専門家などの意見は分かれているようです。
「機関投資家向けに議決権行使の助言を行っているISSは継続会に難色を示している。継続会を選択した企業が提出する剰余金処分などの議案について、「責任ある株主にとって、計算書類および監査報告書が提供される前に(配当について)判断することは困難」と指摘。「賛成でも反対でもなく棄権票の『投票』を推奨」するとして、事実上、株主総会の延期を求めた格好だ。」
「継続会の是非については専門家の間でも意見が分かれている。企業法務に詳しい山口利昭弁護士は、「監査なしに機関投資家が多数の企業決算の適正性を判断するのは困難。機関投資家にはスチュワードシップコードに基づいて、議案に対する賛否の理由まで開示する実務が進んでいるが、最終的な受益者に対して説明がつかなくなる。監査を後回しにする総会は一律延期するべきだ」と提案する。
一方で、「アセットマネジメント会社では『(企業が)出せる情報をなるべく出してくれれば、決算短信などから暫定的にROEなどを計算して議決権行使できる』と話しているところもあり、柔軟な体制をとるところが多い」(京都大学の川北英隆名誉教授)のように、継続会の影響は実際には大きくないという見方もある。
また、「継続会にも過去に十分な実例があり、実務が確立している。いまさら裁判所が出てきて継続会が不適合ですと言うリスクは事実上ゼロと言っていい。むしろ株主にとってどの選択肢がリーズナブルか考えるべきだ」(澤口実弁護士)と、継続会の実施に向けて企業の背中を押す意見もある。」
傾向としては...
「実際に総会の延期や継続会を検討する企業は増えている。東京証券取引所によると、4月30日時点で85社が継続会を検討し、延期を決定したのは9社、延期を検討中とする会社は39社だった。決算期が3月の上場企業約2400社と比べて少ないようだが、金融庁は「決算短信の発表も遅れており、今後はさらに数が増えてくる」と予想する。」
記事の中でふれているISSの見解。
↓
新型コロナウイルス感染症の世界的流行を踏まえたISS 日本向け議決権行使基準の対応(ISS)(PDFファイル)
ISS議決権行使助言方針改定—コロナ禍対応
継続会を検討する上場企業には厳しい判断になる可能性(大和総研)
定時株主総会の開催について(法務省)
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