会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

日本唯一「海底資源掘削」会社に迫る経営危機(東洋経済より)

日本唯一「海底資源掘削」会社に迫る経営危機
債務超過で社長交代、日本海洋掘削の崖っ縁


破綻した日本海洋掘削(東証1部上場)に関するやや詳しい記事。会社更生法申請の少し前の記事です。

同社は、新しいリグ(移動式海洋掘削装置)への投資が破綻の原因となったわけですが、発注していたそのリグの引き渡しを、2017年3月期において、延期していたようです。

「新リグ導入には多額の資金を要することから、三菱UFJフィナンシャルグループ傘下の東銀リースがシンガポールの造船所にリグ2基(「HAKURYU-14」、「HAKURYU-15」)を発注。完成したリグを日本海洋掘削がリース方式で運用する形をとった。

つまり、顧客を見つけリグの活躍の場を見つけるのは日本海洋掘削の仕事だ。だが、原油安の影響を受けてリグの需要は減少。このままでは最新鋭リグ2基が完成しても港につながれたままになってしまうのは明白だった

そこで、東銀リースと日本海洋掘削は2016年後半、2基のリグの完成引き渡しを延期すると決定。HAKURYU-14を2016年10月末から2018年1月末、HAKURYU-15を2016年12月末から2019年1月末の引き渡しとした。しかし、リグの需給をめぐる状況は好転せず、日本海洋掘削はHAKURYU-14の引き渡しまでの間にリースを組成することができなかった。

東銀リースとの契約では、リースを組成できなかった場合は日本海洋掘削がHAKURYU-14を買い取らなければならない。建造に要した総額279億円のうち既に1回目の支払い(100億円)は何とか終えたものの、7月31日に179億円という2回目の支払い期限が迫る。」

リース契約のことを無視して考えると、予定どおり、2016年10月や12月に引き渡しがなされていた場合、2017年3月期には、この2基のリグが資産に計上されていたのでしょう。そうすると、当然、減損会計の検討の対象となります。「完成しても港につながれたままになってしまうのは明白」という状態であれば、一挙に減損損失計上となっていたかもしれません。リースが絡んでいるので、少しややこしそうですが、2018年3月期には、1基について引き渡しを受け、資産計上し、引き渡し前のもう1基も含めて、大きな損失を計上しているわけですから、日本海洋掘削がリスクを負う投資だったのでしょう。

そのように考えると、引き渡し延期によって、減損損失計上を遅らせる結果になったのではないかという疑念が生じます。

そこで、2017年3月期の有報で、この2基のリグへの投資について、どのように開示されていたのを見てみると、「事業等のリスク」の中の「リグの減損損失等計上に関するリスク」という項目で以下のように書いています。

「(10) リグの減損損失等計上に関するリスク

当社グループが保有あるいはリースするリグ等について、市況の悪化に伴う収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなる可能性があります。その結果として損失を認識するに至った場合には、当社グループの業績及び財務状況が影響を受ける可能性があります。

なお、当社と東銀リース株式会社(BOTL社)が平成26年9月25日に締結したプロジェクト取組合意書に基づき、BOTL社が平成26年10月にシンガポール造船所に新規建造発注した2基の新ジャッキアップ型リグにつき、当社グループはそれらの完成引渡し後にリース契約を締結し、運用することとなっております。」

2基のリグについて、引き渡しを延期しているということはまったく書かれていません。冒頭で「当社グループが...リースするリグ等」(「リースしている」ではなく「リースする」となっている点に注意)と書いているので、将来リースするリグについても、減損対象になり得るということはかろうじて読み取れますが、「なお」以下で書かれている2基のリグが、特にリスクが高いということは、これではわかりません。

(こういう記述は、「なお」書きの方が、重要なのかもしれません。あぶなそうだと思うから、わざわざ付け加える場合もあるのでしょう。このケースでも、ほかのリスク情報(「継続企業の前提に関する重要事象等」以外)は抽象的・一般的記述となっているのに、ここだけが具体的な取引についてふれています。)

リスク情報では、最後の「継続企業の前提に関する重要事象等」で、財務制限条項についてふれているだけです。

そのほかに、2基のリグについて、何か開示されているのか、ざっとみてみましたが、財務諸表の注記も含めて、上記記述以外には、何もふれていないようです(見落としているかもしれませんが)。

「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で、各リグの稼働状況が比較的詳しく記述されていますが、発注済み未引き渡しのリグについてはふれていません。また、「設備の新設、除却等の計画」では、「重要な設備の新設の計画はありません」と書いています。

監査人が、2017年3月期の監査において、この2基のリグをめぐる状況について、きちんと把握していたのかどうか、そして、それに関する会計処理や開示についてどのような助言を行っていたのかが注目されます。KAM導入後であれば、監査報告書でも詳細に記載されていたことでしょう(それとも、会社の反対で記載できない?)。

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