ヤマウラ(東証プライム)における巨額横領事件について、会社が警察に被害届を出していたという記事。横領疑惑自体については、すでに開示済みです(→当サイトの関連記事)。
「東証プライム上場の建設会社ヤマウラ(長野県駒ケ根市)が、同社の経理担当社員が子会社のヤマウラ企画開発(東京)で計約25億円の不適切支出に関わっていたとして、県警駒ケ根署に被害届を提出していたことが23日、ヤマウラへの取材で分かった。同署は受理し、業務上横領の疑いで捜査している。」
記事では、「経理担当社員」とありますが、調査報告書をみると、ただの担当者ではなく、(子会社ではなく親会社であるヤマウラの)経理部門幹部だったようです。
それにしても、業務上横領された疑いがかけられている支出が、ただの「不適切支出」という表現でいいのでしょうか。
7月末に過年度有報・四半期報告書と2023年3月期決算短信の訂正を行っています。
過年度の有価証券報告書等及び決算短信等の訂正に関するお知らせ(2023年7月31日)(ヤマウラ)(PDFファイル)
「このたび、調査報告書(中間)を受領し、調査結果に基づき、過年度に公表いたしました有価証券報告書等及び決算短信については、不適切支出に関し仕訳されていた未収入金及び開発事業等支出金などを長期未収入金へ組換え計上を行い、長期未収入金の回収可能性を検討して全額を貸倒引当金として計上し、訂正のうえ公表いたします。」
訂正対象は、本決算が、2021年3月期から2023年3月期まで(2023年3月期は決算短信の訂正)、四半期報告書が、2021年3月期第1四半期から2023年3月期第3四半期までです。
2023年3月期で影響額を見ると...
(単位:千円)
純資産の10分の1が消滅してしまいました。
2022年3月期では約13億円、2021年3月期では約6億円の影響額(純資産ベース)でした。
訂正報告書提出の少し前に調査報告書を開示しています。30ページ強の比較的コンパクトなものです。
第三者委員会の調査報告書(中間)受領に関するお知らせ(2023年7月28日)(ヤマウラ)(PDFファイル)
主な登場人物。Aが問題の「経理担当社員」です。
Aについて、詳しく説明している部分(報告書22ページ)。経理部門の管理職であっただけでなく、問題の子会社の管理業務も任されていたようです。
「他方、 Aは、35年間経理畑を歩んできたという実績、能力、 信頼度 等から、2020年からはヤマウラの管理本部財務経理チームのマネー ジャーを任され、下記のとおりの業務を単独で行うことが許されていた。 企画開発の業務に関しては、担当取締役がプロジェクト全体を企画して稟議を上げ、 それに係わる支払を起案、決裁してAに依頼し、それに基 づきAが支払と仕訳をすることをしていたが、Aは、同業務の中で、 独自に操作や経理処理を行うことが可能であったため、 ヤマウラは もとより、 企画開発の東京にいる上司 (担当取締役) の目の届かないところで、本件の不正支出をフリーで行うことが可能だったものである。
ちなみに、Aは、ヤマウラの経理責任者であると共に、 企画開発の経理処理、書類管理を行っており、 (企画開発の) 銀行印や通帳を管理し、 自由に使用することができたし (ヤマウラの金庫内に保管されており、 役員以外はAしか鍵の保管やダイヤル施錠方法の認知をしていなかっ た)、預金通帳からの引き下ろしや振込も自由にできていた。 前述の正規の支出(担当取締役からプロジェクトとして下りてくる事業に対する 支払)以外に、 A個人で預金の引き下ろしや振込、仕訳が自由にできる 状況にあったものである。もとより、帳簿も一人で付けており、 四半期 にまとめて作成することが可能であったため、共同で不動産事業を営 んできたF社の名を利用し、 時には請求書の偽造工作を試み、あるいは 経費負担としたり未収入金の処理扱いにしたりして、B等への不正支出 を行ってきた。」
東京の子会社なのに、経理業務は長野の親会社の管理部門でやっていた、親会社の帳簿であれば、日常的にチャックがかかっていたのでしょうが(監査人もみていたでしょう)、子会社の帳簿や資料となると、チェックはなされていなかったのでしょう。この子会社で資金が足りなくなった場合は、短期貸付金として親会社から出していたそうですが、その権限も、Aにあったようです(19ページ)。子会社の好き勝手にやらせず、親会社の管理部門が管理業務を担う(通帳や銀行印も親会社で保管する)ことでコントロールすることがねらいだったのでしょうが、その管理部門の幹部が不正を行ったということですから、裏目に出てしまったようです(29ページ)。
金商法の内部統制報告制度による評価作業にもふれています。一応、この子会社の業務プロセスも対象にしていましたが、内部統制基準でいっている3勘定に含まれない仕入・経費支払い関係は評価範囲にしなかったそうです(27ページ)。
この中間報告書では、A以外の資金流出先であるB、C社、D社、E社から先の資金の流れについてはふれていません。今後受領する予定だという最終報告書ではあきらかにされるのでしょうか。