日本公認会計士協会は、会員1名に対して、2022年6月6日付で懲戒処分を行いました。(会員ページでは、同じ案件でこの人を含む計3名の懲戒処分が公表されています。)
処分内容は、「会則によって会員及び準会員に与えられた権利の停止7か月」です。(公認会計士業務は制限されません。)
「サーバーラック等の函物及び機械設備関連事業、在宅介護サービスを行う介護事業を主として営み東京証券取引所 (JASDAQ スタンダード) に上場した会社」の監査に関連した処分です。
「関係会員は、2015 年9月期から2018 年9月期までの当初の財務諸表監査及び内部統制監査において、相当な注意を怠り、 重大な虚偽、錯誤又は脱漏のある財務書類を重大な虚偽、錯誤及び脱漏のないものとして意見又は結論を表明した」とされています。
金融庁からは、すでに処分(業務停止2年)を受けています。
「公認会計士・監査審査会の勧告を受け、2020 年11 月27 日付けで、会社の2017 年9月期及び2018 年9月期の監査業務に関して、監査法人Aに対しては、業務停止5か月(清算業務を除く。)、B元会員に対して、登録抹消、××××会員に対して、業務停止2年(2020 年11 月30 日から2022 年11 月29 日まで) の行政処分をそれぞれ行った。」(監査法人A:監査法人大手門会計事務所)
公認会計士・監査審査会の勧告などと違って、協会の処分では、違反している監査基準委員会報告書などの規定を逐一挙げて、指摘しています。
いくつか引用すると...
「原材料等が長期滞留していることを認識していたにもかかわらず、受注生産のため評価損の計上は不要という過去の監査経験に基づく理解について、 リスク評価手続において、状況の変化に関する経営者への質問、滞留がないことを把握するための方法や関連する内部統制の理解等の手続を実施しておらず、リスク対応手続としては、棚卸立会時に会社の担当者に滞留の有無を質問し該当がないという回答を得るにとどまり、その裏付けとなる見積りの基礎データの検討を実施していないことから、監基報540 「会計上の見積りの監査」第7項、第12 項に準拠していないものと認められる。」
「2017 年9月期及び2018 年9月期の監査において、関係会員は、買掛金残高が大きく減少していることに疑問を持ち、買掛金の確認手続を実施するに当たり勘定明細の提出を会社に依頼したが、債務管理システムの故障という回答を受け、勘定明細の提出がなされなかった。 この状況において、関係会員は、システム故障に係る会社の調査の状況や、 故障の原因等について確認しなかった。 監査人は、 財務諸表の重要なアサーショ ンについて十分かつ適切な監査証拠を入手していない場合には、 監査証拠の入手に努めなければならいないが行っておらず、監基報330 「評価したリスクに対応する監査人の手続」第26 項に準拠していないものと認められる。
さらに、債務管理システムの故障という信憑性が疑われる説明と勘定明細が提出されていないということが、証拠の隠蔽という不正による重要な虚偽表示を示唆する状況を識別すべき状況と考えられる。 買掛金残高の減少理由として回答を受けた固定資産の計上未処理に関連する固定資産の実在性に関する根拠資料について会社からは合理的な理由なく提出もなされなかったことも同様である。 この場合、不正による重要な虚偽表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施し、経営者の説明の合理性を判断することが必要であるが行っていないことから、監基報240 第 F35-2 項に準拠していないものと認められる。」
「毎期複数の点において監査証拠の入手が制限されている。 これらの状況は、監基報240 第 F35-2 項における不正による重要な虚偽表示を示唆する状況に該当するが、関係会員は、毎期それらの複数の状況のいずれにおいても、その状況を認識していたにもかかわらず、それらが不正による重要な虚偽表示の疑義を示す状況に該当するかどうかの検討を行っていない。 加えて、これら多数の点において、監査証拠の入手が制限されていることは、監査範囲の制約があったものと考えられるが、関係会員はその制約を取り除くことの経営者への要請及び取り除かれなかった場合の監査役等への報告や代替手続を実施できるかどう かの検討を実施していない。」
会員の氏名、登録番号などを消した上で、監査法人の研修に使うとよいかもしれません。(著作権侵害だといって、協会からクレームがつくかもしれませんが)
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