会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

IASBがマクロヘッジの会計処理に関するディスカッション・ペーパーを公表

IASBがマクロヘッジの会計処理に関するディスカッション・ペーパーを公表(企業会計基準委員会のサイトより)

国際会計基準審議会(IASB)は、マクロヘッジの会計を検討するディスカッション・ペーパーを公表しました。

IASBは、IAS第39号を全く新しい金融商品会計基準(IFRS第9号「金融商品」)で置き換えるプロジェクトの中から、マクロヘッジの部分を取り出して、別個のプロジェクトとして扱うことを決定しています。

「本日公表したディスカッション・ペーパーは、このプロジェクトの第一段階となるものであり、企業の動的リスク管理活動の会計処理に対しての考えられるアプローチ(ポートフォリオ再評価アプローチ(PRA))に関して一般のコメントを求めることによるものである。PRAでは、

・動的にリスク管理が行われるエクスポージャーを、管理対象リスクの変動について純損益を通じて再評価する。

・このリスクの管理のために使用するリスク管理金融商品(デリバティブ)から生じる公正価値の変動も、純損益に認識する。

・企業の動的リスク管理の成否は、純損益における上記の測定の正味の影響によって反映される。

・動的に管理されているリスク・エクスポージャーの公正価値評価は要求されない。

またPRAは、企業の動的リスク管理活動に関してのより包括的な開示のセットを提供することによって利用者のニーズに対処している。」

「エクスポージャーを、・・・再評価する」のに、「リスク・エクスポージャーの公正価値評価は要求されない」というのはわかりにくいのですが、マクロヘッジの対象自体は、あらためて時価評価することはしないが、ヘッジの対象となっているポートフォリオ(貸出金のような資産も預金のような負債も含まれる)をネットで再評価し、その評価差額を「再評価調整」(revaluation adjustments)みたいな勘定により資産または負債に計上するようです(貸借対照表におけるその表示方法についてもコメントを求めています)。その変動は損益となります。

ヘッジ手段(デリバティブ)の方は時価評価され、その評価変動額は損益に計上されます。ヘッジの対象となっているポートフォリオの再評価から生じる損益との合計(ヘッジがうまくいっていれば打ち消されるはず)で、「企業の動的リスク管理の成否」が判断されるという考え方のようです。

適用される例としては、金融機関における金利リスクに対するヘッジを挙げています。

プレスリリース原文はこちら

IASB publishes Discussion Paper on accounting for macro hedging

箇条書きになっている部分の原文

・Exposures that are risk-managed dynamically would be revalued for changes in the managed risk through profit or loss.

・Fair value changes arising from risk management instruments that are used to manage this risk (derivatives) would also be recognised in profit or loss.

・The success of an entity’s dynamic risk management is captured by the net effect of the above measurements in profit or loss.

・Fair valuation of the risk exposures that are dynamically managed is not required.

実際に基準になったり、日本の会計基準に取り入れられるのはだいぶ先だと思いますが、金融機関やその監査人は、勉強しておいた方がよいのかもしれません。また、金融商品のヘッジだけでなく、棚卸資産の取引のリスクヘッジについても、適用範囲として考えているようなので、一般企業にもまったく無縁ではなさそうです。

そのうちに金融商品会計の専門家による解説が雑誌等で書かれると思われますので、正確な情報についてはそれらをご参照ください。

IASBによる解説

Snapshot: Accounting for Dynamic Risk Management:a Portfolio Revaluation Approach to Macro Hedging

解説によれば、PRAにおける、ヘッジ対象となっているポートフォリオの再評価は、完全な時価評価ではなく、ヘッジの目的となっているリスクの変動についてのみ行う再評価です。

When applying the PRA, an entity would identify the risk being managed that has arisen from exposures within open portfolios and would revalue those exposures (managed exposures) only for changes in the risk being managed (represented by the green portion of the assets and liabilities in the following fi gure). Risks that are not dynamically managed (for example, credit margin, represented by the white portion of the assets and liabilities in the following fi gure)would not be ncluded in the PRA. The PRA is accordingly not a full fair value model.

KPMGによる簡単な解説

IFRS News Flash ダイナミックリスク管理に対応する、新たな会計アプローチをIASBが提案

新日本監査法人による簡単な解説

ディスカッション・ペーパー「ダイナミックヘッジ・リスク管理:マクロヘッジに対するポートフォリオ再評価アプローチ」の公表

トーマツによる解説(比較的詳しい)

2014.04.25 「IASBが、マクロヘッジに関するディスカッション・ペーパーを公表」

IASBがマクロヘッジ会計に関するディスカッション・ペーパーを公表(新日本監査法人)(やや詳しい)

「DPは、リスク管理活動が実施される場合にはPRAの適用を強制すべきか、あるいはヘッジを通じたリスク軽減活動が行われた場合のみ適用すべきかを検討している。」

「PRAの適用範囲が、リスク軽減ではなく、リスク管理活動に関連付けられる場合には、意図的にヘッジされることのないポジションから生じる純損益の報告額の変動性の方が、これらの変更による便益を上回ることにもなりうる。」
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