会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

内部統制構築における監査人の対応について

週刊経営財務の2008年3月17日号に青山学院大学の町田教授による「内部統制構築における監査人の対応について」と題する解説が掲載されています。企業の内部統制構築担当者に対するインタビュー結果をまとめたもので、「監査法人の対応において、制度の趣旨を損ないかねない実務が散見され、それが企業側の監査人自身に対する不信を招きつつある」と総括されていることからも明らかなように、監査人にとって厳しいことも書かれていますが、参考として目を通しておいた方がよいでしょう。

内部統制報告制度の最近の動きを見ていると、会計士には勝手なことはやらせないというABCD包囲網(A=academia 学界、または八田・町田教授の青山学院大学、B=business産業界、C=金融、D=(第2の建築基準法をおそれている)代議士(政界))ができつつあるようです。

しかし、監査人も、制度で求められている以上のことをクライアントに要求して得になることはないので、そのうち落ち着くところに落ち着くとしかいえません。

ただ、日本の基準もわかりにくいところがたくさんあります。

例えば、評価範囲について、町田教授の解説では「・・・日本の内部統制報告制度では、・・・その他の業務プロセスについては、大幅な評価範囲の絞り込みを認めている以上、何もかも評価範囲に含めることが適切とは思われない」といって、買掛金や人件費プロセスを含めるべきという要求を否定していますが、実施基準では、原則として評価対象としなければならない企業の事業目的に大きく関わる業務プロセスの例示として、売上・売掛金・棚卸資産の3勘定が挙げられているだけで、3勘定に関連するプロセスの内部統制だけを評価すればいいとはいっていません。むしろ、「財務報告への影響を勘案して、重要性の大きい業務プロセスについては、個別に評価対象に追加する」とまで実施基準ではいっています。

また、日本基準で評価範囲の大胆な絞り込みが認められているのだとすると、企業の内部統制報告書の「当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断した」という結論部分は、財務報告に係る内部統制全体に対する結論というよりは、基準にしたがってぎりぎりまで絞り込まれた評価範囲を評価した限りでは重要な欠陥は発見されなかったという消極的保証に近い保証であるといえるでしょう。そうした低い水準の保証に対して、監査人が監査という高い水準のお墨付きを与えても、両方合わせて考えれば、低い保証しか与えられていないわけで、本当に意味があるのだろうかという疑問もわいてきます。

町田教授の本の新しい版が出ています。↓
内部統制の知識 第2版 (日経文庫 C 54)内部統制の知識 第2版 (日経文庫 C 54)
町田 祥弘

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この本の199ページ-200ページに著者による内閣府令に基づく内部統制報告書の記載例が載っています。これをみると、(あくまで個人的印象ですが)評価範囲については相当細かく記載されています。

「過度に保守的な対応」に警鐘、金融庁が日本版SOX法に対する“11の誤解”を発表

企業の内部統制報告制度への対応状況を調査(監査法人トーマツのサイトより)

こちらは、八田・町田グループとは違う系統の解説書です。↓
内部統制報告制度の実務―基準・実施基準・内閣府令・ガイドライン・Q&A・監査実務取扱いの徹底解説内部統制報告制度の実務―基準・実施基準・内閣府令・ガイドライン・Q&A・監査実務取扱いの徹底解説
土田 義憲

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