独立性なき「自主規制法人」では投資家は守れない
東芝の上場廃止問題を取り上げた記事。日本取引所の自主規制法人理事長(元金融庁長官)が、『文藝春秋』に手記を書いており、この記事ではそれを批判的に紹介しています。
上場維持を決めたタイミングについて。
「なぜ、臨時株主総会で決算書を承認する前に、上場維持を決めたのか。佐藤氏は手記の中でこう答えている。
「臨時株主総会の日付についても知ってはいましたが、意識はしていませんでした。株主総会の2週間前というタイミングに関しては、しかるべき議論を進めた結果そうなったという偶然に過ぎません」
決算書の承認だけでなく、半導体事業の売却という会社の存亡に関わる株主総会をまったく意識していなかった、というのは呆れた話だ。本当だとすれば、なんとも間が抜けている。」
「臨時株主総会の直前に指定を解除したことについて、6月まで自主規制法人の外部理事を務めていた久保利英明弁護士は、「むしろ総会での株主による投票結果をみた上で解除するかどうかを判断すべきだった」と語る。決算書について株主たちが問題なしとするならば、上場を維持して仮に東芝が再度問題を起こしても、株主たちの自己責任だから仕方がない、というのだ。」
東芝臨時株主総会について。
「実際、東芝の臨時株主総会では、1号議案だった「計算書類承認の件」には議決権の11.40%が反対票だったが、87.97%の賛成で可決された。東証が特注指定を解除したことが投資家の投票行動に影響したかどうかは分からないが、決算の承認で1割以上の「不承認」が出るのは極めて異例だ。ちなみに綱川智社長の取締役選任議案には12.67%が反対、監査委員長を務める社外取締役の佐藤良二氏(元監査法人トーマツのCEO)にも11.87%が反対した。一部の大手の機関投資家が反対票を投じたとみられている。」
報じられている佐藤委員長の発言を見ると、とても大手監査法人の元トップとは思えません。反対票が多かったのも当然でしょう。
監査に関する自主規制法人理事長の見方について。
「自主規制法人は内部管理体制(内部統制)について「相応の改善」がなされたと結論づけたが、実は内部統制についても監査法人がチェックして意見を言うことになっている。PwCあらたの結論は「不適正」だった。
一方で、不適正意見が出ると東芝は問題は改善されていると反論した。自主規制法人は第三者のプロである監査法人よりも、当事者の東芝の主張を受け入れたわけだ。まさに驚天動地の判断だが、この点について佐藤氏は「投資家の保護者」とは思えない反論を手記で展開している。
「私は、監査法人の意見を無条件で絶対視するのは資本市場のあり方として危険なことだと思っています」
資本主義の世界で普遍的なルールになっている監査制度を真正面から否定しているのだ。「多くのメディアが、監査法人の意見があたかも無謬性を備え、神聖不可侵であるかのような前提を置いているように感じられてなりません」というのだ。監査は国が認めた試験に合格した公認会計士でなければ行うことができない、それを否定して、誰が監査を行うというのだろう。」
監査人が間違うことは、もちろんあり得ます。また、監査意見というぐらいで、「意見」にすぎないので神聖不可侵ではないでしょう。しかし、それなら、会社に別の会計事務所を使って調べさせるとか、監督当局(取引所含む)が自分で調べるとかして、東芝に粉飾決算があったのかどうか、決着をつけるべきでしょう。東芝に粉飾決算があるという限定付き適正意見を無視するのは、それこそ「資本市場のあり方として危険なこと」です。
監査法人への批判について。
「手記では佐藤氏はPwCあらたの対応を強く批判している。有価証券報告書などに付した監査意見について「監査法人の側から明快かつ十分な説明がないことです。型通りの記述の域を出ない監査意見の書面からも、説明責任を果たそうという意欲は伝わってきません」というのだ。
監査法人に守秘義務を課しているのも、紋切り型の監査報告書を定めているのも金融庁だ。監査報告書についてはもう少し説明を増やす長文化の議論が金融庁の審議会で始まっている。
佐藤氏は「契約相手方である企業が、守秘義務を限定的に解除すれば、世間に対して、投資家に対して、もっと説明することは可能なのではないでしょうか」ともいう。これには大賛成だが、東芝は守秘義務を解除しないだろう。PwCあらたの前に監査をしていた新日本監査法人は東芝の不正会計と監査について内部で詳しい検証報告書を作っているが、一切、明らかにしていない。理由は「公表すれば東芝から訴えられます」という法律事務所のアドバイスだという。是非とも、東芝の現経営陣は両監査法人の守秘義務を解除して、真実を明らかにしてほしいものだ。」
新日本は、訴えられるリスクがあっても、報告書を公表した方がよかったのでは。金融庁による行政処分や、東芝関係者によるマスコミへのリークにより、監査法人としての評判が落ちてしまったわけですから、それを打開するためには、きちんと反論すべきでしょう。あらたも、臨時株主総会で、株主にきちんと説明すべきでした。
自主規制法人の理事会では、東芝の上場維持に反対した理事がいたそうです。
「実は、今回の決定に当たって開かれた自主規制法人の理事会は、満場一致ではなかった。手記で佐藤氏が明らかにしているが、7人の理事のうち、1人が特注指定解除に反対した。「全会一致のケースがほとんどである理事会では、極めて稀なことでした」としている。
7人の理事は佐藤理事長のほか、東証の上場審査担当ら内部の理事3人に、日本公認会計士協会の会長を務めた会計士の増田宏一氏、京都大学教授を務めた川北英隆氏、そして久保利氏の後任として6月に加わった石黒徹氏の外部理事3人で構成される。
自主規制法人の関係者によると、反対したのは増田氏。川北氏も厳しい発言を繰り返していたが、政策的な判断には関与したくないとして、反対には回らなかったとされる。」
増田氏は、筋を通したといえるでしょう。
最近の「不正経理」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2000年
人気記事