赤城というのは腕は、いいけれど職人気質で曲がったことの許せない電車整備工の名前です。タイトルに赤城とついていますが、彼が出てくる場面は全体からするとそう多くはありません。引きこもりの青年、世の中を拗ねて生きてきた青年、妻を亡くした男、息子を亡くした男、電車会社の下請けで重圧にたえている三代目社長などなどの登場人物がもがいている傍らでさりげなく影のように寄り添い一歩踏み出したのを見届けて消えるように去っていきます。最初から最後まで謎のままの主人公です。この小説を書いた山田深夜さん自身が京浜急行電鉄に20年勤めていた経験から、電車のメカニズムその整備にかかわる人たちの営みがリアルに描かれています。油のにおいがする小説ですが一方ではハーモニカやギターのかなでるブルースが聞こえてくる不思議な小説です。なぜ?と思ったら是非手にとってみてください。旧型の電車が新型にとってかわり、むかしかたぎの整備工がリストラの対象になっている現実の中で、次の世代を育てていこうとする大人たちの必死さに心を動かされます。私は山田さんにエッセーや短編小説ではなく、是非この続編も書いてほしいと願っています。
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