① 諏訪神社 ー4 太田健次郎様著
第三話 善蔵の先見の明
善蔵が宮大工職人として、棟梁について或る神社造営に従っていた頃の事である。
作業も進み、間もなく上棟式が目前に迫った或る日のことである。善蔵が余りにも技量が優れ、職人仲間にこばまれていたので、職人たちはこの際善蔵に嫌がらせをし、困らせてやろうと鳩首協議した。善蔵が作業分担で仕事を手掛けていた建物の丸柱に目をつけた。この丸柱を短く切っておこうと協議し、一決し丸柱を少し切り離して、素知らぬ顔をしていた。
次の日上棟式の日となり、建前も順調に進み、其の丸柱を建てる事となった。悪い職人達はどうするかと思いながら何食わぬ顔して作業を続け、其の丸柱を墨付け場所に建ててみると確かに短く切った筈の柱が、短くも長くもなく一分一厘の違いもなく納まった。
これに居合わせた悪い職人達はあ然として言葉もなかったという。こんな風にして上棟式は無事終わったのであった。この事は、前もって大工達の毎日の作業中の雰囲気で感じとり、切られる分だけ長くし、それらに備え、対処していたのではなかったかと言われている。