揚げ雲雀
(2015,2016年分 補足)
日本福音ルーテル教会引退牧師
松 隈 貞 雄
2015年
(1月)
隣家よりお節の届く大晦日
友来る鍋物サラダ風邪見舞
元日は家庭礼拝創世記
わが庭は冬鳥の楽園鳥図鑑
(2月)
節分や穏やかな日差し福笑ふ
訪れし教会堂にスイトピー
線路越しの枯れ野の果てに春の海
節分や恵方定めて寿司を食む
春近し姉妹揃って教会に
(3月)
春風に誘われ蜜蜂巣を出ずる
野に出でし霞の中の姉妹かな
卒業式招きに時越え五十年
讃美歌で始まる母校の卒業式
(4月)
菜の花や大川の流れ動かざる
満開の湖畔の桜に今年また
静かなり老人ホームの散る桜
子どもらの集う教会桜咲く
教会の友らとドライブ桜見に
(5月)
教会の交わり和やか新茶汲む
空晴れて国旗掲揚こどもの日
満月に向いて開く月見草
楠青葉城の石垣高く立つ
瀬音聞く野外礼拝揚げ雲雀
(6月)
梅雨晴間素早く終へる庭仕事
水色の額紫陽花の雨に濡れ
梅雨の雨読書に誘ふ余生かな
会堂に人満ち礼拝梅雨真中
ゆったりと信徒の集ひ梅雨の午後
(7月)
梅雨晴間天気図確かめ洗濯に
万緑や大川の流れ悠々と
(8月)
迷い蟻礼拝中の式文に
取り立ての無花果籠に礼拝後
平和への祈り新たに敗戦日
南瓜の黄色いラッパ朝空に
朝風の涼しき座敷お茶を汲む
大漁か広がる今朝の鰯雲
(9月)
憲法の存立危機や秋の雨
秋の雲ヤコブの梯子空高く
教会の塔を目掛けて雨台風
陶磁祭白磁のカップ秋の色
(10月)
庭くまに杜鵬草咲く今年また
教会の敬老の祝い皆若し
天高し剪定枝の木の香り
菜園に南瓜ごろりと十(とお)余り
(11月)
倉庫より暖房具出す秋日和
友と行く改革主日ただ恵み
父の日の写真の笑顔諸聖徒日
時雨去り教会バザー炭火起こす
兎逃げ狸出没秋の暮れ
(12月)
人生はただ感謝なり師走かな
初雪を庭を巡りて確かめぬ
霜の朝公園の人皆立てり
門柱に2枚残して銀杏散る
クリスマス持ち寄り料理バイキング
喜びの溢れる讃美クリスマス
2016年
(1月)
節料理届けて弟庭掃除
喜々として年賀の挨拶国旗上ぐ
千両の命の輝き庭くまに
公園の砂場を覆い枯落葉
弟と新年祝し幸祈る
(2月)
笑み浮かべ退院する人春の風
寝室に春風招き療養す
音もなく庭石濡らす春の雨
春日受け雪柳の枝伸び伸びと
しずけしや鳥去りし庭に石の声
「石の声」について
聖書日課の3月20日の頁に栞が挿入されており,見ると「言っておくが,もしこの人たちが黙れば石が叫びだす」(ルカによる福音書19:40)のことばがありました。
(松隈 茂 注)
(2月に記されたメモ帳に記されたもの)
春立ちて朝の光の病棟に
笑み浮かべ患者退院春の風
遥かなる阿蘇の山脈霞おり
節分や病院食に福の豆
病室のカーテン揺らす春の風
注 松隈 茂
この句は2月2日に茂が
入院中の病室に届けた縦12.5cm×横8.8cmのメモ帳に
2月中に記入したものと考えられます。
貞雄兄は2016年1月29日(金)入院,
2月22日(月)に退院しておりますが,
2月19日には退院する旨の連絡が末弟の実に届いておりました。
(2016.9.11)