梅日和 umebiyori

心が動くとき、言葉にします。テーマは、多岐にわたります。

猫の正月。

2021-11-22 06:02:42 | エッセイ おや、おや。ー北九州物語ー

或る日ともに仕事をしていたデザイナーが顔面神経痛になった。病院に行ってもいっこうに事態は改善しないと言う。売れっ子のデザイナーは、仕事もままならず、ほとほと困り果てていた。たまたま打ち合わせで会う機会があり、事情を知った。

マコちゃんを思い出し、そして、同時に多くの患者さんを思い出した。マコちゃんの針治療で多くの方が完治していた。彼の仕事場から治療院まで行こうとすれば、車で1時間半。距離にして80キロほどの距離がある。さらに、なにせ30代のデザイナーに鍼灸は謎の世界である。

さて、紹介しようかどうしようかと躊躇したものの結局「なんとかしたい」との話に乗り、その場でマコちゃんに電話をいれ、事情を話した。可能な限り、早くに診療の予約を入れてもらい、彼は、1時間半かけて通い始めた。針治療が功を奏したのか、4,5回ほど通院するとほぼ治まったようだった。

この間、彼から数回電話をいただいた。聞けば、治療費をお支払いしようとお尋ねするのだが、マコちゃんからこう言われる。

「猫の正月で良い」。

自分としては、意味が分からず、お尋ねするのだが、「意味を考えなさい」と言われる。どう考えてもわからない。意味を教えてもらえないだろうか。

「猫の正月?」。娘とて、意味不明であった。早速、治療院に電話を入れた。

マコちゃんに替わる。笑いながら、彼は言った。

「猫に正月はあるか?」。

ない。おそらく、寒い暑いは感知して毛づくろいしても、正月行事を認識できるとは思えない。

マコちゃんは、治療を進めながら、彼に小さなお子さんが居ること、そして1時間半もかけて自分で運転をし、通っていることなどを聴いていたために、彼の負担を軽くするように配慮したのだろう。結局、治療費がどうなったのか、詳細は不明のままである。他の患者さんからも、実は帰り際にいつも手を握っていただき、その中には一部お渡しした治療費があって、かえってその手のぬくもりに勇気づけられたといった話もあった。

こうしたあたたかな配慮があった一方で、娘には厳しい一面を見せたことがある。軽い交通事故に遭い、腰を打撲したことがあった。近所の医院に通うものの痛みはとれず芳しくない。ここはマコちゃんに頼ろうと、治療院に電話をした。聞けば、予約でいっぱいだという。

順番は、順番。勘案することはしないと言う。かくして、3日後くらいにようやく鍼灸院に行けた。

娘といえども、患者は、患者であった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿