就職前線でがんばっている学生たちに焦点を当てたドキュメンタリーかなにかで、某企業の人事部の方が「新入社員に求めること」として「コミュニケーション能力」と回答している姿を何度か目にしました。なんだか曖昧な言葉で、どういう意味で使用しているのだろうと、不思議に受けとめています。すでに入社したひとたち、全社員は、人事部の方がおっしゃるコミュニケーション能力をお持ちなのだろうか?と意地悪な質問をしたくなります。人によっては、母語以外の語学力と混同しています。
カナダの言語学者、カナーリーとスウェイン(1980,1982)は、コミュニケーション能力を4つの要素で定義しています。「1.文法能力(grammatical competence)」「2.談話能力(discourse competence)」「3.社会言語的能力(sociolinguistic competence)」そして「4.方略的能力(strategic competence)」の4つです。それぞれ
- 文法を運用して正確な文を生み出す力、
- 場面に応じて適切な話題を選択する力、
- ある程度まとまった内容をわかりやすく伝える力、
- 知っている知識を組み合わせて、伝え合う力です。
この定義は、語学教育の中で活用されています。
コミュニケーションモデルをもとに、この4つの力を考えると、送り手や受け手がそれぞれにコミュニケーション行為を構成する9つの要素について知識を深め、情報量を増やしてこそ発揮できるように思えます。つまりは、全人的と言えばよいでしょうか。そのひとの価値観、学び、生き方すべてが、4つの力の源であり、構成要素となりそうです。また、コミュニケーション行為は相互作用なのですから、いよいよもってコミュニケーション能力の高低を判断するのは複雑です。こう考えてくると、曖昧で抽象的なものですから、他人に求める能力ではないのかもしれませんね。もし、それらの能力に漠然とでも気が付いたら、「求める」のではなく、「認める」もののように思います。
しつこく再掲しておきます。この雑記の「基礎」であり、「すべて」でもありますので。
出典:Benjamin,1996,訳書,5ページをもとに筆者作成
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