梅日和 umebiyori

心が動くとき、言葉にします。テーマは、多岐にわたります。

長靴の意味を複数挙げなさい。

2022-01-30 10:45:36 | 雑記 Communis2022

二十歳になったばかりの頃、通っていたコピーライター養成講座で出た課題です。

事物の意味は、そのコンテクスト(文脈)、そして発話者(送り手)と受け手の記号化能力、解読能力によって複数の解が存在します。

例えば、(想像にすぎませんが)ナチス政権下、息をひそめて隠れたユダヤのひとにとって、長靴は軍靴であり、不安や恐怖心を掻き立てるものであった可能性があります。一方、東京の下町で雨上がりの虹を見ながら水たまりで跳ねる子どもたちの長靴は、平和を意味するやもしれません。雪深い地域に住む70代の一人暮らしの男性にとっては、どうでしょう?毎日の食事同様、あって当たり前の必需品かもしれません。

某所に勤務していた30代の頃、事実関係を確認することもなく、瞬間湯沸かし器のように激怒する上司がいました。モデルから考えると、揺るぎない単一の文脈と単純な記号化能力をお持ちだと見ることもできます。多様な解を想定して、受け手との建設的な対話を進めるには、自分自身のなかに豊かなボキャブラリーを備えた辞書と想像力が必要だなぁ、と傍らに居て、学ばせていただきました。

 

追記 コピーライティングの世界では、ひとつのキーワードから連想を広げていくコピープラットフォームという発想法があります。連想を広げる際に、

自分自身のなかでコミュニケーションモデルを稼働させていると実感したことが多々あります。


ミードが考えた「自我」。

2022-01-29 08:30:05 | 雑記 Communis2022

コミュニケーションの送り手や受け手となる人間、自分とは何か?

シカゴ大学で教鞭をとったジョージ・H・ミードは、社会的自我論を展開しています。

ミードは、人間の自我が他者との関りにおいて形成されると考えます。社会の前に自我ありき、とする孤立説ではなく、社会が存在し、その中で、人間は 役割取得(role taking )を通じて、自我が社会的に形成されていくと考えています。

ここにAさんが居るとします。Aさんは、父や母、教師などAさんにとって

「意味のある他者」による期待を取り入れながら自我を形成していきます。もっとも他者の期待は一致しているわけでもなく調和していないこともしばしばです。そうなると対立や葛藤が起こるのですが、こうした対立や葛藤に創造的に取り組み、解決に導くもうひとつの自我があると主張しています。

自我は、主我(I)と客我(Me)というふたつの側面から構成されています。「客我は、他者の期待をそのまま受け入れたものを指し、主我はそのような客我に対する反応を表して」[1]います。

以前、リストラクチャリング(日本では、退職勧告という意味が色濃いですね)の対象となった一部上場企業のエリートに、「何か今後取り組みたいと思えることなどありますか」とお尋ねしたことがありました。彼は、その時「ないのです。やれといわれてきたことをやるのが仕事だと思ってきたのです」と、答えました。

ミードの思考を借りれば、客我ばかりを育て、主我に蓋をしてきたように思えました。主我を育てていなければ、創造的に解決していく力は持てないままになります。しかし、この極端なほど、客我の強い国民だからこそ日本経済は力を得てきた時代もあった点は否めず、強みであると同時に弱点だなと思います。

 

 

 

 

 

 

船津衛『ジョージ・H・ミード』東信堂,2000。

鶴見俊輔「「G・H・ミード」『(新版)アメリカ哲学』社会思想社,1971。

 

[1] 船津衛『ジョージ・H・ミード』東信堂,2000,p.7

 

 


伝言ゲームで、笑い、寛容になろう。

2022-01-27 11:43:02 | 雑記 Communis2022

1チーム10名で、4チーム。文字数にして100文字ほどのメッセージを前のひとから順に後ろのひとへ伝言してもらいます。2チームは、メモを取ってもらい、2チームは口頭だけ。もちろん携帯端末は全員バッグにしまってもらいます。

仮に、以下のメッセージを伝えてもらうことしましょう。

「滋賀県東近江市愛東地区の農家で、イチゴ狩りが始まっている。<中略>3月13日までは土日曜、祝日に開催。14日以降は平日などにも広げ、5月まで行う。申し込みは道の駅「あいとうマーガレットステーション」ホームページの予約フォームから。中学生以上1980円、3歳~小学生は1760円。(京都新聞、2022年1月27日掲載記事より抜粋)

過去複数回伝言ゲームをおこなった経緯から推測すると、メモ利用チームは、7割がた最後のメッセージを受け取る人に伝わっていきます。口頭チームは、おもしろいほど文章の原型もとどめず、5W2Hが一体どこでそうなるの?というくらいに変わってしまいます。たいてい、参加してくれたひとたちは、10番目の受け手のメッセージを聴いて、爆笑します。

滋賀県が佐賀県になってしまったり、マーガレットがスカーレットになったりします。

正確に情報を受け取るにはメモが有効。ですが、わたしたちは、毎日こまやかにメモを取っているわけではありません。むしろ、口頭でのコミュニケーションというものは、これほどまでに不安定で誤りがいともたやすく起きてしまうのだと意識します。不安定で間違えそうならば、それを織り込み済みで会話ができそうですし、うまくいかないときは、今少し寛容になって、コミュニケーションモデル(1/23に掲載しています)を点検してみます。

いろいろと気づけそうです。


世界は、言葉が創る?

2022-01-26 10:18:36 | 雑記 Communis2022

言語によって話し手(送り手)の思考は影響を受けているとする考え方があります。言語人類学者のエドワード・サピア(Edward Sapir)と、サピアのお弟子さんであったベンジャミン・リー・ウォーフ(Benjamin Lee Whorf)による考え方です。「サピア=ウォーフの仮説」と呼ばれています。

例えば、日本語で「飛行機」と「鳥」は全く異なるものとして認識されています。ところが、ネイティブアメリカンのホピ族の言語では、そのいずれもが「飛ぶもの」というひとつの言葉で語られます。このノートの最初に述べたように、「コミュニケーション」という言葉が日本語になさそうなため、そのままカタカナ語として使用させてもらい、定義を決めてから使用していますので、この主張は実感として理解できます。ただし、言語が認識・思考にどの程度強い影響を及ぼすのかは不明ですし、思考は言語から独立しているとする反対意見もあります。

真偽の追及は、研究者の方にお任せします。

この仮説を知ったことで、「表現を鵜呑みにするのではなく、言葉の背後にある認識を上手に聞き取って、理解できるようになるには?」と考えることができます。言葉の背後にある認識、言い換えると、話し手独自のボキャブラリーとその意味を掴むことが、話し手(そのひと)を理解し、相互理解の共有ゾーンを広げていくには必要だとわかります。

 

 

参考図書

E. サピア , B.L. ウォーフ (著), 池上 嘉彦 (翻訳)『文化人類学と言語学 』,弘文堂,1970年。


みんな違って、あたりまえ。

2022-01-25 08:50:49 | 雑記 Communis2022

送り手は、何かを伝える、あるいは表現しようとするとき、記号を用います。記号とは、言語をはじめとする意味作用を伴う文字や符号のこと。殊、記号については、記号学や記号論(ふたつは異なります)といった奥深い研究領域がありますので、一旦ここでは横に置いておきます。この記号化するちからって、そのひとのDNAやら生きてきた経験知やら、持てる情報や感覚をすべて活用して生まれ、メッセージとなっています。(図を再掲しておきます。思考のプロセス、感情、行為の能力を背景にした記号化という部分です)

この世に、誰一人として同じ情報の量や質、感覚を持つ人など存在しません。その送り手だけです。一方、受け手もまたその人自身の持てるちからで受け取ったメッセージを解釈します。異なる知識を背骨にして、会話や対話をしているわけですから、むしろスムーズにいく方が珍しいことも、モデルから読み取れます。

E.M.ロジャースは、コミュニケーションによって生まれるふたりの人間の相互理解を、マ〇〇―カードのシンボルマーク[i]と同じ図で表しました。ふたつのサークルがわずかに交じり合う。その交差ゾーンが、理解あるいは共有を表します。

「自分のことをわかってもらえない」と嘆く女性が居ました。このモデルから考えると、「そりゃあ、そうだろうねぇ」となります。共有ゾーンをいかに広げるか、というお話になりますから、9つの要素をいかにデザインしていくか。腕の見せ所、愉しい課題になります。

 

 

参考図書

Rogers, E. M. 『Communication technology: The new media in society.』New York, NY: Free Press.1986.

安田寿明訳『コミュニケーションの科学―マルチメディア社会の基礎理論』共立出版, 1992年。

 

 

[i] ロゴマークが開発されたのは、1968年。