ひと呼吸おいて、電話口でマコちゃんがこう言った。
40歳を過ぎて、大学に戻ると言った娘への開口一番の言葉である。いまでこそ
社会人入学も多いようだが、まだまだ一般的ではなかったように思う。
参考書を買いに行くと
「お子さん、受験ですか?」
「いえ、自分用です」
「???」。
2度目の入学式には、
「保護者の方のお席はあちらです」
「いえ、入学者本人です」
「???」
といった具合であった。
3度目もそうだった。
娘は単純であった。大学を卒業後20年、さほど荒波を受けることもなく、仕事に恵まれた。その間、出会いに恵まれて、育てていただき、また、助けてもいただいてきた。32歳でベンチャー企業の立ち上げに参画し、35歳で独立をした。
お金も時間も自由になり、若いころにすっぽかしたW大学のエクステンション講座にも何度か行った。しかし、マコちゃんとスーちゃんに行かせてもらった4年間のおかげで20年間も仕事ができたわけだから、そろそろ次の20年のために自身をリファインする必要があると思えた。今度は、自分のお財布で、である。
教え通りに合格通知を得て、その日にマコちゃんに電話を入れた。
「母校に戻る」
しばらく沈黙があり、ひとこと
「おもしろい奴ちゃ」と返事が来た。
それからあとは、
「お父さんがとやかく言う話ではない。Tくん(ダンナ)とよく話したらいい」
振り返れば、よく、マコちゃんに「おもしろい奴」と言われてきた。
娘には、その言葉が、一番の応援メッセージだった。基本的に、父親に信頼してもらえているという安心感がいつもあったように思う。だからこそ、いつも、どのように行動するか、自分なりに筋道を立てて考え、決めてきた。いつでも、「なぜ?」という問いに答えられるように自然に動いていたように思える。
思えば、マコちゃん、「なぜ?」をよく聞いてくれた。誤りがあれば、やんわりと気づかせてくれた。気づきは、「どうして?」「なぜ?」から始まった。
「君は、なぜ、なに、どうして、のY君だねぇ。実によろしい。クリエイティブの基本だよ」。
勤務していた広告代理店のトップに、笑いながら言われるほど、身についてしまった。マコちゃんの言葉は、後に、娘の口癖となった。ひとによると思うが、たいていは、この<なぜ、なぜ攻撃>は、煩がられる。嫌がられる。
それを良しとする。出会えた上司もまたこういうひとであり、その後、なぜか幸運な出会いをいただけていくのである。
<おもしろい>が、<おもしろい>を呼ぶ。
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