酔いどれ烏の夢物語

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酔いどれ烏の夢物語 君に聞かせたかった歌

2023-01-08 10:36:31 | ポエム

        

      君に聞かせたかった歌

今このステージから君に贈るよ 君に聞かせたかった歌を

本当は君が逝ってしまう前に 君の前で歌いたかったこの歌を

 

初めて彼を見たのは 俺たちがまだインディーズにもなれなくって

先輩のライブに時々呼んでもらってた無名のコピーバンドの頃

時々見かける車椅子の少年 いつもニコニコしていた

あくる日校庭で偶然、彼を見かけ思わず声を掛けていた

彼の名は 中谷 駿、一年後輩の高校一年

話を聞くと中学も同じだったという もちろん俺は彼の事を知らない

俺たちのバンドは中学二年から始めていた メンバーは変わったが

高校に入ってからも続けていた オリジナルを持たない俺たちは

もっぱらコピーバンドで 初めて演奏したのは中学の文化祭だった

俺のやる事に滅多に口を出さない父親が受験は大丈夫なのかと訊いた

 

あの時一緒に居たのお兄さん? 近くに住んでる従兄なんだ

あのライブハウス地下にあるから 母さんじゃ無理だから頼んだ

華奢には見えても高校生の彼を母親が負ぶって階段を降りるのは酷だ

次に来る時は言ってくれ 代わりに俺が連れて行くから

その日をきっかけに俺と駿は よく話をするようになった

彼の病気が治らない、進行を止める事すら出来ないと知った時

俺は怒りさえ感じた それだけで彼の人生の選択肢は限られるのに

いつも彼は楽しそうに笑っていた 本当は悔しいはずなのに

あの頃から俺は曲作りに没頭していった 苛立ち、焦り

それでも駿と話しているときは 何故か心が和らいだ

 

俺が曲を完成させる頃には 駿の意識はもう無かった

彼を学校で見かけなくなって 二か月位過ぎていた

彼の母親から電話を貰って 病院に行くと従兄が待っててくれた

病室に入ると酸素マスクをつけられて目を閉じた駿が居た

やっと曲が出来たんだ 聴いてくれるかい?

  幸せな時間は 瞬く間に過ぎ

  寂しさだけが 心に居座る

  君の笑顔に 救われていた

  君の笑顔に 導かれていた…

歌い出した僕の目からは涙があふれだした

彼の細い腕を掴む僕の手も力が入らない

僕はこの日初めて知った 本当に大切なものを失う悲しみを

 

 

 

 


酔いどれ烏の夢物語 ありがとう

2023-01-08 08:44:07 | ポエム

         

       ありがとう

時計の音だけが響く深夜の寝室 外の音は聞こえない

まるで雪がすべての音を呑み込んでしまったかの様だ

既に雪は膝の高さくらいまで積り まだ降り続けている

明日の朝は雪かきをしなければ そんな事を考えていた

静けさは時に人を怖がらせる 孤独を感じさせる

特にこんな雪の日には 一人でいる時間が長く感じる

こんな時 君が傍に居てくれたらいいのに

どうしてもそんなことを考えてしまう

こうなることは解っていた筈だった 覚悟していたのに

まるで自分だけが世界から切り離されたみたいだ

 

眠れない時間だけが虚しく過ぎて行く 僕は独りぼっちだ

まるで時間が永遠に巻き戻されている様な感覚だ

僕の心はこのまま凍り付いてしまう そんな気がした

いっそのこと凍り付いてしまえば何も感じなくなるのに

愛情は時に人を狂わせる 自分を見失う

特にこんな寒い夜には 自分を責め続けてしまう

叶うなら あの夏の日に戻りたい

叶わぬ願いだと解っているのに

最初から知っていた 君が嘘をつく人じゃ無い事を

僕は自分への嫌気に押しつぶされそうだ

 

眠れないまま明け方を迎える 最近よくある事だ

コーヒーメーカに水を満たしソファーに座る

夕方から降り続いていた雪は 既に窓を覆っていた

ドアの前は雪で塞がれているだろう 雪国では珍しくない

いっそこのままにしておこうか などと考えた

気が弱ると ろくな事を考えないな!その時だった

玄関のチャイムが鳴って僕は見た

そこには 彼の姿があった

来るはずの無い彼の姿が

雪は苦手だったろう? 大丈夫か?

ああ、神様!感謝します

 

初詣は行った事もある でも神様の存在を

信じていた訳でも無く 只何となく

けれど今は神様に 感謝を込めて祈ろう

僕の大切な人に合わせてくれた その寛大さに

やっぱり心配で来ちゃったよ! 彼は笑った

未練がましいかな? 俺って

彼の優しさと思いやりに僕は泣いた

かつて無い程に僕は泣いた 愛しい人が今ここに居る

あの夏の日の別れ話を 吹き飛ばして

今、君がここに居る幸せ 

神さま 本当にありがとう!