(重松 清)
重松 清って作家、彼の作品には未だ一度も接していないけど、以前から、なぜか気になる作家の一人でした。今年の初めころ、なにかで彼が岡山県生まれということを知って、その思いはいよいよ強くなり、とりあえず何か一つ読んでみようと決意。ネットで調べたら、2001年の直木賞受賞作「ビタミンF」が目に入り注文しました。それでも届いてから随分の間、積読本の仲間になっていたようです。でも、ここでやっと読了しました。
(『ビタミンF』新潮文庫)
読後の感想、ひとことで言えば「ほっこり」感ですね。現代日本の家族関係、とりわけ影が薄いといわれているお父さんたちを描いた7編の短編集です。それぞれ主人公はどこにでも居そうな三十代後半から四十代の中年男性です。かっての自分を感じつつ読書を続けました。
著者が後記にで記しているように、Family.Father.Friend.Fight.Fragile.Fortune...。[F]で始まるさまざまな言葉が、Key Wordとして埋め込まれたFictionとのことです。7つの物語を簡単に紹介しましょう。
【ゲンコツ】:主人公の男性は、自動販売機のセールスマン。歳を重ねてきた自分が嫌いになり、若者との違いを感じています。夢や希望や愛という歌詞が出てくる歌を歌う事が恥ずかしくなってきた今日この頃。子どものころは、弱い者いじめや理不尽なことに立ち向かってきたけど、自分の“ゲンコツ”が弱くなったと感じていました。そんな主人公は、ある日、酔って帰った深夜、自動販売機にイタズラするガキどもを発見し、ゲンコツを握りしめるのですが・・・
【はずれくじ】:妻が入院して、中学生の息子と二人で過ごす時間を持て余す父親の物語。会社の中堅というあいまいな立場や、思春期の息子との微妙な関係を通して、父親の波間に漂う小舟のようにゆれる心理が描かれています・・・
【パンドラ】;中学生の娘が万引きをして補導され、その上不良少年と男女交際をしているらしい。父親は娘の気持ちを気遣う妻にまで疑いの目を向けてしま。父親のその後の行動と思いは・・・
【セッちゃん】:気立てが良くて、学校のことを楽しく話してくれる娘が、クラスで嫌われている転校生“セッちゃん”のことを話し出す。両親はその話を快く思っていた。しかし、ある日両親がそのセッちゃんは娘の作り話しであることに気づくことになって、父、母、娘の三人の関係は・・・
【なぎさホテルにて】:妻との関係が冷めきっている離婚寸前の夫婦。そんな夫が最後の家族旅行として選んだのは学生時代に恋人と来た想い出の場所である“なぎさホテル”。ここを選んだのは、20世紀最後の誕生日を一緒に過ごそうと、学生時代にこのホテルの“未来ポスト”に投函した手紙を思い出したから。そしてその手紙が今この時、かっての彼女ではなく、妻と泊っているホテルの一室に届く・・・
【かさぶたまぶた】:大学受験に失敗した息子と、有名私立中学に合格した娘をもつエリートサラリーマン。卒業前の娘に起こったある事件をきっかけに、家族関係の裏部分と、自分に対する家族の本音が噴き出すことになって、・・・
【母帰る】:37歳の男性主人公は、故郷を出て、東京で家庭を持っている。故郷の父親が、子育てを終えてから家を出たその妻に、もう一度戻ってきてくれ、と持ちかけたという。母親は自分たちを捨てたわけじゃないけれど、長く一人暮らしをしてきた父親のことを思うと、主人公は煮え切れない気持ちで父が一人で暮らす田舎の実家に帰ると・・・
以上7つの物語は、ある面、現在の日本のリアルな家族像のようだ。家族間、世代間のディスコミュニケーションを共通のテーマにしています。登場人物は、みな、お互いの距離を計りながら、衝突を避けて暮らしているように見えるところが面白いです。
物語はいづれも、日常以上、事件未満といえるか、ありふれた家族の風景のように思います。子どもたちはみな問題の火種をかかえているが、新聞沙汰になる程の事件には発展しない。父は父で、おばかさん化した妻にふっと倦怠を感じ、昔の恋人を思い出して、自分にも今の妻と結婚していなかったら、別な人生があったかもしれない、なんて妄想にふけったりしています、そうかと言って不倫に走るほどの勇気も持っていない。みんな小心、不器用なんですね、普通は・・・。そんな家族を作者は美化も特化もせずに、悲劇にも喜劇にもせずに、世間話でもするように、淡々と描いているところが嬉しいです。
現代の迷える父親像とでも言えばいいのか、読んでいてドキッとしたり、ホロリとし、あるいは苦笑する場面が随所に出て来るのも楽しいです。そして最も救われるのは作者はこれら7つの物語いずれも結末を希望的な予感で締めくくってくれているのがありがたく「ほっこり」させてくれる所以でもあります。
ビタミンA~Eは肉体に効くビタミン、そしてビタミンFは心に効きそうなビタミンといったことでしょう。
ただ、これはボクの読み方がそうであって、作者は結論を明確にしないで、読み手の想像に任せているようです。辛口で読めば、それぞれの物語は悲劇的な結末を迎えるという想像だって出来ると思いますよ。その辺もこの作品の面白さでもあり、もしかしたら不満を抱くかもしてませんね。重松氏の人間観がこの一作だけでは計り知れないところがあるようにも思ったので、もう一作、長編ものを読もうと、昨日、2007年発表の『カシオペアの丘で』という上下二巻の本を注文しました。
なお、この7編の物語は2002年、NHK-BS放送で7回の連続ドラマ化された作品だそうです。ご覧になった方もお出でかもしれませんね。
※(文中の写真はイメージであって作品自体とは全く関係ありません)
どこにでもある日常、平凡な日々、人々。
しかし一人一人を見るとき、決して平凡なんて言えない波乱があるものですね。
見かけでは分からない心の葛藤も。。
小説は自分の内面をみる機会を与えてくれますね。
そしてこうして考える機会を与えてくれたパピーさんに感謝です。
他人からは、普通の家族に見えても、みんな
それぞれに何らかの小さな事件を背負って
いるものなんでしょうね。
自分の中年真っ盛りの頃を思い出しました。
後悔することの方が多いのは哀しいですね。
お子さん機嫌よく大学行かれてますか。
そうそう、ブログで北国の景色をじっくり
味わいに行きますよ。。。
コメントありがとう
見える家庭の内情…決して人ごとではない様な
気がします^^;
でも、パピーさんが7つの物語を簡単に紹介し
てくださったのを読んで「で、その後は…」と
話の全てが知りたくなった私。。。
本を読む機会が少ない私ですがチョット秋の
夜長を楽しんでみたいと思いますy^-^y
プロの紹介文ですね。
読んでみたくなるような。。。
女性の立場で読むとき、ゾッとしながらも現実を突きつけられるような内容に、私としては放置できない本かもしれません( ̄▽ ̄;)
かなり気になります。
(-^〇^-)ありがとうございます。
言うほどでもないし、自分から言いたくない事も、誰かが受け止めてくれたら救われるなんてことも日常にありますよね。
独身の私としては、いろいろ悩むことはあっても、一緒にあーだこーだと言い合える家族の存在は大きいのでは?と思います。
一人の私にはビタミンFの替わりに
ビタミンi(愛)が必要なんです。
>人ごとでは・・・ これって 他人事では。でよう。。。
毎朝日の出を拝んでも、「日常以上」「事件未満」ありますか? どこでもありますから大丈夫です(笑)。
それから、・・・としないで最後まで書いてしまうと出版社からお叱りを受けるかも。でしょう、本が売れなくなる。
コメントありがとう
ボクの感想では、この本は、中年前後の男性向けだと思います。女性に読まれると、男の深層心理を探り当てられる恐怖感に襲われます。特にマドさんの場合は・・・ドキドキ。
出来たら無視して下さいませ。
コメントありがとう
はじめまして、よろしく。
それ程でもないことだって下手をすれば、大変なことになるってこともあるからね。
何でも心を許して話し合える人の存在は大きいです。
rokoさんは、素敵な家族のみなさんに囲まれていいな~。家族って人間関係の根底をなす大事なものだものね、大切にして下さいよ♪
ところで、失礼ですがrokoさんってどなたでしょうか??HNですよね、若しかしてロコさんのことかな? 間違ってたらゴメンなさい。
コメントありがとう
重松さんの小説は「哀愁的東京」「くちぶえ番長」などを読んだけど、どれも泣けるものばかりです。
こちらも読んでみたいですね。
お仕事、お忙しいんですね。結構なことです
よ、ボクなんか仕事ありません(笑)
重松氏の作品、初めてです。直木賞受賞作
でこのような短編集なんて珍しいのでは
ないでしょうか。底流を流れる一つのテーマ
はあるようですけどね『家族』。
今、長編小説「カシオペアの丘」を読んでます
が、これが、また面白いです。
コメントありがとう