カタスミ

『母性』湊かなえ著

母親を溺愛する娘が子供を授かり
自分が母親になるが、その子を愛せない話。
以下ネタバレあり



















冒頭自宅から転落した高校生の少女のニュース、
事故と自殺で捜査中の中、母親のコメント。

そして母親ルミ子と娘清佳の物語が交互に語られる。
母親として語るルミ子は自分の母親を溺愛しており、
母親の言うことは絶対、何でも聞き、
母親を喜ばせる事が生きがいであり
母親の存在がルミ子の存在意義であった。
男と出会い、母親に彼を紹介すると
母親は大変気に入り、ならば結婚しようと
その男と結婚し、やがて子供を授かる。
母親が言うからその子を産み、育てる。
しかしルミ子は自分の産んだ娘をも
母親を喜ばせる為の道具として使う。
とにかく母親に依存し、親離れ出来ていない未熟な人間。
それでも母親が生きている頃は良かったが
その母親が事故で清佳を助ける為
命を落としてからは状況ががらりと変わる。
母親の命を奪う原因となった清佳がどうしても愛せない。
どこまでもどこまでも母親の事だけの人。

娘清佳の回想は、ルミ子の語りを時々覆す。
ルミ子は愛している、と言っていても裏では
ひどい言葉を浴びせかけていた。
抱きしめたと言っても首を絞めていた。
それでも清佳は健気に愛を求めるが
ルミ子はそれを拒絶する。
清佳は祖母が死んだ原因が自分にある事を知り
自殺を図るのであった。

間に入る教師の語り。
冒頭の事件に興味を示し探る。
読み進めると実はこの教師が清佳であることが判明。
冒頭の事件は今回の話にはほぼほぼ関係無いことが分かる。
自殺した清佳は一命を取り留め教師になって今度母親になるという。
自分が与えられなかった愛を自分の子には
存分に与えたい、と言って話は幕を閉じる。

さらっと書くとこんな感じのあらすじでした。
まず間に入る教師が清佳だってのは全然気付かなかったw
ああ、通りで最初の事件は飛び降りだったのに
この娘は首つり、とか辻褄が合ってないなぁと思ったわ…^^;

この話のルミ子はもう完全に娘の立場から抜け出せていない
子供大人って感じの人でした。
『未来』も読んで思ったのは、この著者はこういった
お嬢様気質の世間知らず系毒親をよく書くなぁという事。
こういう感じの人が自分の母親なのだろうか…
自らで道を切り開けない、受け身の、搾取される、
か細い感じ…ってのが共通点かなぁ…
母性がない…って言うよりは、子を虐待する母親に近いのかも。
ただ、ルミ子に同情する点は、
自分の母親以外でこの人の周りにろくな人間がいないって所。
旦那は空気だし、義母はいびりがひどく人をこき使う、
義妹達も搾取する系の人ばっかりで、この母親が頼りにするべき
人物が皆無なのだわなぁ…
人は心に余裕があるからこそ他人に施しが出切る訳で
ルミ子の状況では自分の事で精一杯な部分も多少は仕方ないかも。
かといって清佳は全くの被害者なんだけど。

清佳は健気にルミ子を慕い、気が強く物怖じせず、
義母にもきつく言い返すが、それをルミ子はよく思わない。
とにかくやる事やる事裏目に出ちゃって可哀想。
結局ルミ子の理想の娘像は自分の娘時代な訳で
自分の娘も自分と同様であって欲しいのだろうけど、
母親としての対応が全然違うのだから
自分の娘の反応が違うのは当然な事だと
そういう事には全然頭が回っていない。
早い話、自分悪くない、って感じなんだよね。
どこまで言っても話通じない相手だと思うんだけど
それでも清佳はルミ子を想うんだよなぁ…

正直な所、この話で一番誰が悪いかっていうと
私は父親だと思う。
父親の実家で暮らす事になって、
ルミ子がいじめ抜かれるのだが知らん顔、
母親ルミ子と娘清佳の関係が悪いのも知らん顔、
そして外に愛人作って失踪って…
自分の母親の世話とか全部ルミ子に任せといて
それはないんじゃない?
清佳のことだって、母親に愛されてないって分かってるなら
自分が思う存分愛してやれば良かっただろうに…
母親と娘の関係性をよくする為にも
家を出るとか、何か行動すればいいのに何もしない。
最終的に清佳を自殺に追い込む真実を伝えるのもこの父親経由。
最終的によくこの人を許す事が出来たなぁって思うわ。

後、ルミ子の母親は何も舌かみ切って自殺せんでも…
聖人のような人として描かれていたが
ルミ子を見ていると育て方を間違ったのでは無いかと思う。
なんでああなっちゃったのかね…
案外清佳と同じで、自分は母親に愛されてなかったから
自分は娘を愛そうと頑張ってた人なのかもなぁ。
そして負のループ…

最終的に清佳が幸せになっていて良かった。
ルミ子はぼけた義母の世話をして幸せそうなので
多分この人に必要なのはどこまでいっても
母親という存在なのだろうなぁ…

星は3.5です。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

最近の「小説感想」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事