日々のメモ

事業や企業、経済の動きについて分析していくブログ

企業の慈善活動

2020-12-29 10:34:00 | 投資・会計・ガバナンス
大企業は慈善活動を行うことで、その名声を高めている。どの企業の公式サイトをみても、なんらかの慈善活動を公開しているはずだ。そして投資家としては、それがコミュニティに対する温かい支援となってほしいと思うと共に、企業の利益にもなって還元されてほしい。

慈善活動が純粋に公益でしかなかっただとしたら、税金を追加で納めていることと変わらなくなってしまう。特にその企業が株主に対してリターンを出せていない場合には、そのような慈善活動に投資家は嫌な気持ちになるだろう。思わしい利益を出せていないのに個人的な趣味で寄付をしている企業経営となれば、それはガバナンスが効いていない経営ということである。

「気付いた時に投資先から外す」というのが現行ルールでの答えなのだが、ここでは投資してから残念な事態になる前に、企業の寄付行為からガバナンスを評価できるような視点を考えたい。

まず、バフェットの寄付行為に対する考えは株主への手紙に記されていて、それは「企業は寄付が税効果も含めて相当な利益をもたらすものであれば行う、そうでなければ行わないべき」というものだ。
経営者が母校への感謝、ふるさとへの感謝を感じるならば、個人として寄付するべきだと整理している。
たまに「名経営者にも母校や故郷への寄付が見られ、彼らの企業も立派に成長しているパターンがこれまでに存在する」ということも認識している。このような場合は、資本主義の考えに従うならば「利益を求めて投資する」のが本来取るべきスタンスだといえる。自分でもそうするだろう。
合っているか分からないが、「その寄付が名経営者のモチベーションになって企業にリターンとして返ってくる」くらいの認識をしている。よって、

①オーナー社長がいて名経営者なら個人的な寄付に会社のお金が使われても合理的なのだと納得する
②そうでない個人的な寄付が行われているのであれば今後の経営が不安な企業と考えて投資は控える

のが正解なのではないかと推定している。

個人的な寄付かどうかは、個別に投入した金額と(広告効果など)リターンのバランスを個々に考える必要がある細かい話なので、「せめて株主に質問されたとき説明できるくらい考えていてほしい」と願うばかりである。
そして説明を聞かなくてもおかしい、経営者の趣味だろうと思えてしまうような寄付が多ければ、①に該当しない限り、その会社の投資は控えるのが良いのではないかと思う。
企業目線で言えば、
・①のパターンの企業であると自覚があるのであれば、その経営者が現役のうちに、後の混乱を起こさないよう予め個人的な趣味での投資を控えるようなガバナンスを用意しておくこと(寄付の元手を会社のお金からポケットマネーに変えていく)が望ましく、
・直近まで①だったが名経営者引退後であるならば、個人的な趣味での資本配分の慣行が残っていないか特に気をつけて確認することでガバナンスを確保することが求められる
ということになるだろう。後者のガバナンス構築は先代の否定と受け取られ反発が内部であるかもしれないので、社外取締役などの活躍が求められるかと考えられる。

レポートバンクとして作成した市場レポート等のページ

特損処理のルール

2020-11-13 13:45:00 | 投資・会計・ガバナンス
企業の投資家向けニュースを読んでいるとシステム刷新に伴う特別損失の計上という発表がたまに出てくる。特別損失の理由はシステム刷新に限ったものではないが、デジタル技術が急成長を遂げている時代背景もあり、多くはシステム刷新を理由としている印象である。
しかも金額をみると企業によっては100億円を超えるような規模の損失計上であり、投資家にとっては無視できない数字である。発表によって時価総額が下がることは必至なので、無視できないネガティブサプライズなのだ。

このような慣行が続けば投資に消極的な世論を作り出す結果になると思うのだが、これはどうにかならないものか。
企業内部では明らかになっているはずなのだ…システムが何十年も前に記されたコード(COBOLで書かれているなど)で動いている、複数の部署に乱立していていずれ調整が必要だと思われている、等であれば誰が聞いても数年後の特損計上は目に見えている。
これは企業側にとっても悲しい事態を招く状態である。
「今後数年以内に発表しなければいけないけれど、株価下落の責任者になって株主から叩かれたくないから放置」という経営者が後の世代に押しつけようとすれば、社内の空気も悪くなるだろう。
ウォーレン・バフェットはかつて株主への手紙の中で特別損失の計上を「会計の操作だ」と批判していた。特損公表で損したことのある投資家であれば、皆同様の気持ちのはずだ。

したがって、ここで新しい開示制度を提言したい。無形固定資産の中で、システムについては更新年を記すのだ(合計600億円あるうち、300億円は2010年、もう300億円は2017年に更新)。
こうすれば、投資家は同業他社比較すれば今後数年以内に公表されるだろうシステム刷新の費用も大体わかるから、予め織り込んで投資を判断できるし、
経営者は既に織り込まれた時価総額ならシステム刷新にふみこんでも批判されないということで前向きに経営判断することができる。単なる投資家の利便性に留まらず、やや大げさに言えば日本企業の近代化を後押しするような施策になるのではないかと思う。

様々な業界について分析したレポートの一覧



経営とオーナーシップ

2020-10-30 00:36:00 | 投資・会計・ガバナンス
総合商社がウォーレン・バフェット氏に投資されたことが一時期話題であったが、バフェットの経営理念と総合商社のそれには違いが存在する。

企業に投資する際の前提が異なるのだ。
バフェットはバークシャー・ハサウェイという持株会社の中の、ガイコという保険会社を通じて多くの株式投資を行う。
保有する会社はアップル、ワシントンポスト、マスターカード、コカコーラなどで、買う前提は優れた経営陣によって、魅力的な業界の事業が行われていることだ。そのため購入した企業に人を送り込むことはほとんどなく(自ら取締役になったりはしている)、買ったままの形で経営を委ねている。経営陣を誉め、「ほとんど口出ししない」と株主への手紙で述べているほどだ。
「彼らは我々と出会うずっと前から経営のスターだったのであり、我々の出来る主な支援は彼らの邪魔をしないことである」(『株主への手紙』ウォーレン・バフェット著)

総合商社は全く異なる。
優れた経営人材を抱えているということを強みとしており、魅力的なビジネスには会社の買収や設立で積極的に参入していき、買収した企業には人材を送り込んでトップから経営を舵取りしていく。
例えば三菱商事が子会社としたローソンは取締役がほとんど三菱商事出身者となり、経営を完全に親会社主導で行っていることがみてとれる。(ウェブのまとめサイト
経営が困難な状態にある企業にも人材を積極的に送り込んで立て直そうと努力する。例えば千代田化工建設は、27人の人材を一挙に送り込んで立て直しに動いている。(日経記事

成長することに関する考え方、企業戦略の違いは明らかである。
もし自らが買収される立場なら、バフェットの方が良いと思うのではないか。総合商社に買い取られ、経営権を握られ、出世が見通せないと感じてしまったら、きっと日々の業務に対するオーナーシップは失うだろう。
セブンイレブンとローソン、ファミリーマートで一日の売上が異なることは広く知られている。(セブンイレブンが高い)
単品管理による店頭商品の最適化などを考え出した鈴木敏文という名経営者の存在もあるのかもしれないが、そうした理論が明らかになった今も差がついていることの説明をどう捉えるべきなのか。

戦略コンサルティングファームのベイン・アンド・カンパニーは従業員のモチベーションを企業の業績を決める重要なポイントであると考えている。(ハーバード・ビジネス・レビューの記事
「自分のものだと思うからがんばる」という理論の根拠は日々の感覚からも理解が出来る。

企業買収の際の人事配置が与えるオーナーシップへの影響について、投資家は考える必要があるのではないかと思う。

「レポートバンク」で出しているレポートの一覧。



含み益の株式の探し方

2020-09-22 14:30:00 | 投資・会計・ガバナンス
投資家として道を歩き出した時、いくつかの本を読めば「財務諸表には現れない財産を評価して利益を出す」という方法が載っていることと思う(ピーター・リンチの著作にもある)。

そんなことが本当にあるのか?という問いに、有価証券表記の会計ルールの点から、「ある」ことをお話ししたい。

会社が株式を買うと、会計の報告書である財務諸表に記載するルートとして、内容に応じて
・売買目的有価証券
・関係会社株式
・その他有価証券
の3つの項目に分かれる。
このうち売買目的有価証券とその他有価証券は株式の価値を時価で記載、配当があれば営業外収入で記載、
関係会社株式は取得原価で記載する代わりに純資産・純利益を持分比率で記載、配当金は基本的に不参入(保有割合に応じて変わる)、株式の時価総額は無視

という扱いの違いがある。
このルールからは、金融商品として持っているわけではない関係会社株式なら、利益を合わせることで評価に表すのが妥当である、という思想が読み取れる。

つまり、「関係会社株式として買っているものが、利益に不相応に高い評価を得ているとき」に含み益が財務諸表に記載されない状態に陥るのだ。

仮定の話で、具体例を考え出すと次のようなものになる。

利益のわりに株式の価値が高いことで世界的に知られる株式としてAmazonが存在する。
この会社は、1ドル110円で大雑把に計算すると、2013年末は利益300億円、時価総額22兆円である。

仮に、
このときに20%にあたる株式4兆5,000億円分を、NTT(当時時価総額5兆円くらい)が「新たなインターネットサービスのプラットフォーム事業として活用し本業を強化する」と言って購入し、関係会社株式にしたとする。
このとき財務諸表には、関係会社株式として4兆5000億円が記載される。(20%を保有すれば持分法適用会社となり関係会社株式になる)

時が経ち、Amazonは2019年末に時価総額がおよそ100兆円になる。利益は1兆3000億円ほどである。
NTTの持分は20兆円になるが、財務諸表の表記はまだ4兆5000億円のままだ。
利益は保有比率分、2600億円ほどが算入される。
NTTはおおよそ利益9000億円で時価総額9兆円という市場評価(PER10倍程)なので、PERを最重要の指標として評価するならば、2600億円の利益は、時価総額を2兆6000億円高めるくらいになる。

つまりこの仮定上の2019年末のNTTは、本当は20兆円のAmazon株式をもちながらもそれは財務諸表に「関係会社株式4兆5000億円」としか表されず、
利益1兆1600億円、時価総額11兆6000億円という存在になりかねないのだ。

実際には、新興IT企業に投資してそのIT銘柄が値上がりしている企業において、このような財務諸表と保有証券市場価格の乖離が出ている。
もちろんそのIT企業の株価は単なるバブルかもしれないので見極めは必要だが、少なくとも財務諸表だけを見るよりよほど正確で、今後の値動きに納得のいく投資が出来るようになるだろう。
財務諸表をあくまでスタート地点と見ることが必要である。

レポートバンクの作成したレポート一覧


監査役とガバナンス

2020-09-16 00:46:00 | 投資・会計・ガバナンス
会社には、取締役のほかに監査役という役職が存在する。経営判断を積極的に行って売上と利益を伸ばしていくという役割ではないが、ガバナンスを効かせることにおいては大きな期待を持たれる職務である。
(制度の概説は、公益社団法人の日本監査役協会に会社法の権威である神田秀樹教授が説明文を寄せている)

監査役は株主によって選ばれ、場合によっては会社を代表して取締役と訴訟を起こすことも任されているなど、ガバナンスの中心的役割を担っている。
監査の観点も、業務の遂行がルール通りに行われているか、会計処理が適切に行われているか(会計監査人を自らの補佐にして確かめることになる)というもので、これらを最後の砦として確認するという任務がある。

それではこの職務を様々な企業の監査役は果たしているのだろうか…とニュースを調べると、ここでも違和感に声をあげずに済ませている東芝粉飾決算など、不正会計を会議の空気によって許容している様子が浮かび上がる。
この空気への対抗はとても困難で、せめて職務を託してくれた株主の期待に応えようとするならば、ウォーレン・バフェットがかつて社外取締役に関して述べたように
「声をあげられないなら監査役を辞めることによって企業の異常事態を伝える」
という手法が正解になるのだと思える。そしてこれをやるためには、取締役の「独立性」についての議論と同じく、個人として報酬にどれだけ頼ることになっているかを考え、「その報酬がなくとも困ることがなく独立心を保てる」という判断をできる人が監査役の資格を持つだろう
…そう考えると金持ちの名誉ポジションという気もするが、本当のところその方が当たり前の不正に堂々と声をあげる余裕をもち、良い監査役になるのではないか。

企業の業務運営に関心を持ち、堂々と声をあげられる金持ちの監査役が増えることを期待したい。

地方銀行がどのような経営実績をもつか、日米の数行を比較観察したレポート。