坂口安吾の名作「白痴」冒頭。
その家には人間と豚と犬と鶏と家鴨が住んでいたが、まったく、住む建物も各々の食物も殆ど変っていやしない。物置のようなひん曲った建物があって、階下には主人夫婦、天井裏には母と娘が間借りしていて、この娘は相手の分らぬ子供を孕んでいる。
伊沢の借りている一室は母屋から分離した小屋で、ここは昔この家の肺病の息子がねていたそうだが、肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない。…
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白痴(R15+)
GYAO!情報より引用させていただきます。
ふたりだけの、孤独
過去とも未来とも思える終末戦争下の日本。テレビ局にアシスタントディレクターとして勤めている伊沢は、粗暴なディレクターの落合と、カリスマ的アイドル銀河のサディスティックな仕打ちの標的となり、身も心も打ちのめされる毎日だった。そんなある日、伊沢の部屋の押し入れに、隣家のサヨが潜んでいた。伊沢を求めての行為だった。その夜から、サヨを押し入れにかくまう秘密の生活が始まった…。
坂口安吾作「白痴」より引用
…米の配給所の裏手に小金を握った未亡人が住んでいて、兄(職工)と妹と二人の子供があるのだが、この真実の兄妹が夫婦の関係を結んでいる。けれども未亡人は結局その方が安上りだと黙認しているうちに、兄の方に女ができた。そこで妹の方をかたづける必要があって親戚に当る五十とか六十とかの老人のところへ嫁入りということになり、妹が猫イラズを飲んだ。飲んでおいて仕立屋(伊沢の下宿)へお稽古にきて苦しみはじめ、結局死んでしまったが、そのとき町内の医者が心臓麻痺の診断書をくれて話はそのまま消えてしまった。え? どの医者がそんな便利な診断書をくれるんですか、と伊沢が仰天して訊ねると、仕立屋の方が呆気にとられた面持で、なんですか、よそじゃ、そうじゃないんですか、と訊いた。
(引用終)
大多数の人間は変わらない。
いつでも周りの空気を読むだけで、
けっして自ら考えないからだ。
ほとんどの人は、五蘊の奴婢であり、
ただ日々を気楽に生きていければ満足だ
とする酷酔の煩悩中毒者だ。
未来と過去の彼らは、
本質的に区別がつかない。
だからこの映画が、
過去とも未来ともつかない世界
を描いたのは実に適切で、
示唆に富んでいるとおもう。
安吾が表現した過去の現実は、
正にこれから繰り返される
未来の現実だから。
同引用
…戦争の破壊の巨大な愛情が、すべてを裁いてくれるだろう。考えることもなくなっていた。
夜が白んできたら、女を起して焼跡の方には見向きもせず、ともかくねぐらを探して、なるべく遠い停車場をめざして歩きだすことにしようと伊沢は考えていた。電車や汽車は動くだろうか。停車場の周囲の枕木の垣根にもたれて休んでいるとき、今朝は果して空が晴れて、俺と俺の隣に並んだ豚の背中に太陽の光がそそぐだろうかと伊沢は考えていた。あまり今朝が寒すぎるからであった。
(引用終)
朗読「白痴」 作:坂口安吾 読:やっちゃん - YouTube
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